沖縄県内では2023年4月、電気料金がおよそ4割、値上げされる見通しです。こうした中、関心が高まっているのが「再生可能エネルギー」です。県内の現状と課題、そして、可能性について取材しました。
再生可能エネルギーを考える“チャンス”
風力や太陽光など自然の力を利用した「再生可能エネルギー」。燃料高騰や電気料金の値上げを控える中、街の人に関心があるのかどうか聞いてみると‥‥‥。
「電気料金の値上げは家計に響くのでちょっときついなとは思っていました。もし、家を建てることがあるなら太陽光発電に興味はあります」
「自然の力を借りて使えるのであれば、とてもいいことだと思います」
「子どもが3人いるので、電気料金の値上げは心配です。子どもたちのことを考えると 再生可能エネルギーは将来にとって、みんなにとっていいのではないかと思います」
電気料金の値上げは私たちの暮らしの不安要素ではありますが、こうした状況だからこそ、「再生可能エネルギー」について考えるチャンスではないかと思い取材を始めました。
県内初のモデル地域
まず、訪れたのは与那原町。町は2022年11月、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の取り組みを先行して進める国のモデル地域に選ばれました。この「脱炭素先行地域」には、兵庫県姫路市や京都市の伏見稲荷大社など、これまでに46か所が選ばれています。沖縄県内では初の選定ですが、電力のおよそ9割を火力発電に頼る沖縄にとって、二酸化炭素を出さない「脱炭素」は簡単ではありません。
国から先行地域に配分される上限50億円の交付金を活用して、環境に優しい街づくりと地域経済の活性化を目指します。「脱炭素」を推進する対象地域は水路を隔てた埋め立て地。限られた区画であれば成果や課題が把握しやすいと考えました。
この地区の建物は比較的新しいため、ソーラーパネルなど新たな設備が設置しやすい利点があると言います。
与那原町企画政策課の山城司課長の説明では。
「選定地域に交付される補助金を使って、太陽光設備や蓄電池設備の導入を行います。その際に発生する工事を、商工会・地元企業に担っていただくことで補助金が直で地域への還元につながります。みんながウィンウィンになるような事業にしたい」
実証実験で高まる住民意識
数年前から「脱炭素」に力を入れてきた与那原町では、町内35世帯を対象に太陽光発電の実証実験を行ってきました。
自動車工場を経営している濱川幸博さんは、同じ敷地にある自宅の屋根にソーラーパネルを設置。太陽光発電によって得られた電気を売るなどして、年間4万円近くの電気代が節約できました。ご夫妻に感想を聴いてみました。
幸博さんは「少しでも実証実験にいい意味で貢献できたらと参加しました。なおかつ自分でも地球に優しいことができればいいなと思っています」
妻の紀代子さんは「太陽光発電を導入していなかったら、もっと電気代も上がっていたのだと思います。小さな町ですが活気があるので 環境に優しい町としても活気づけばうれしいです」と話しています。
与那原町では、町民の間で高まった環境意識を、先行地域の選定をきっかけにさらに広げていきたいとしています。さらに、照屋勉町長は、沖縄をけん引できるような先行地域を目指そうと考えています。
「先駆的にわれわれがやっていかなくてはというプレッシャーは、ひしひしと感じています。次世代の子どもたちにしっかりといい環境を渡していくのが大事だと思っています」
自治体間でも高まる関心
2022年12月、企業と自治体が連携することで「脱炭素」を促す、環境省主催のマッチングイベントが開かれました。与那原町に加え、浦添市や糸満市、沖縄県なども参加。糸満市の政策・脱炭素推進係の大城尚之主幹に参加理由について聴きました。
「糸満市も今後 『脱炭素先行地域』を目指して準備をしています。糸満市だけの力では どうしようもないので、どうしても企業の力が必要になってきます」
高い技術力を持つ企業との連携が欠かせないとする糸満市。そこには、ある大きな理由がありました。
簡単ではない「脱炭素」
30年以上前から自然エネルギーの活用を掲げてきた糸満市。その政策は注目を集め、2010年には、日米両政府のエネルギー担当者が市内の風力発電や市役所の太陽光発電を視察に訪れました。当時、庁舎に設置されたおよそ2500枚のソーラーパネルは、市役所が消費する電力の1割あまりを供給していました。
ところが‥‥‥。
設置からおよそ20年。海に囲まれた立地はパネルの部品がさびるなどの塩害をまねきました。強い日差しでガラス部分はひび割れを起こしています。劣化したパネルは撤去され、虫食い状態のようになっている部分もあります。このため、全体の発電効率は低下しました。さらに修繕か所が毎年のように発生し、これまでの修理の費用は3300万円あまりに上っています。
気象条件も切実です。曇りの日も少なくなく、太陽光を安定的に得ることができません。そして、台風。風の影響などで故障した風力発電の設備は2019年、撤去を余儀なくされました。
しかし、再生可能エネルギーの技術革新は日進月歩。糸満市の大城主幹は以前より取り組みやすいと考えています。
「長く取り組んでいるので、いろいろと課題もみえてきました。機器の耐久性も上がっていて取り組む企業も増えているので、昔に比べて再生可能エネルギーを導入するハードルは下がっていると思います」
糸満市は、企業とタッグを組み新たな可能性にも挑んでいます。
“出来ることを一歩一歩”
糸満市はバイオガス発電も導入。汚泥から発生するガスで電力を生み出し、周辺地域へ売電しています。汚泥の量など規模の拡大に課題はありますが、気象条件に左右されないメリットがあります。さらに。
バイオガス発電で生じた熱は市内の製塩工場に送られ、塩を抽出する際に利用されます。「沸騰」とまではいきませんが、海水をおよそ70度にまで温めることができます。市では、エネルギーをむだなく使う省エネの視点も忘れてはいけないと強調します。
そして、次なる手は。
糸満市では「脱炭素」の取り組みをさらに進めようと、2022年、環境省の「脱炭素先行地域」に名乗りを上げました。火力発電に大幅に依存した沖縄の特性や地理的条件を考えると、国の後押しが必要だと判断したのです。
双方の打ち合わせで環境省の担当者は「本土と違う制約がある中で、乗り越えるべき課題が多い地域かなと考えています。関係省庁と連携しながらしっかり支援していきたい」と話していました。
問われるエネルギー消費のあり方製造業
大企業が少ない沖縄での二酸化炭素の排出量は、「産業部門」が11点6%であるのに対し、私たちの家庭、学校、商業施設といった暮らしに関わる「民生部門」からの割合は46点4%にのぼります。私たち1人ひとりの行動が脱炭素社会への道のりを決めると言っても過言ではありません。
私は四半世紀前に、京都で開催された地球温暖化防止に向けた締約国会議「COP3」を取材しました。いまは「COP27」。その数字を見るたび聞くたびに、時のたつ早さと、なかなか進まない脱炭素の難しさを痛感しています。厳しさが増すエネルギー情勢ですが、持続可能なエネルギー消費のあり方を次世代につないでいくには何をすればいいのか、記者として県民の1人として自分にも問うていこうと決意させられた取材でした。
記者 西銘むつみ
1992年入局。沖縄放送局では主に沖縄戦や戦後処理を継続的に取材。3年いた首都圏放送センターでは、当時の環境庁、沖縄開発庁を担当。