有事のときの「国民保護」どうする?沖縄県全市町村アンケート

NHK
2022年12月15日 午後2:02 公開

国民保護全市町村アンケート

有事の際に住民を避難させるための「国民保護」の取り組みについてNHK沖縄放送局と国士舘大学の中林啓修准教授は、令和4年11月に共同でアンケート調査を実施した。調査の対象である県内41市町村のうち、座間味村と南大東村を除く39市町村から回答を得た。

計画・マニュアルの作成状況

【避難実施要領のパターン】

「国民保護法」で市町村が作成しておくよう努めるとされている「避難実施要領のパターン」(攻撃種別ごとの具体的な避難パターン)の作成状況について聞いた。

「作成済み」と答えた市町村は8(21%)、「着手済み」は3(8%)、「作成予定あり」は19(49%)となり、77%の自治体が何らかの形で作成に取り組んでいることが分かった。一方、8自治体(21%)では作成のめどがたっていないことも分かった。

【国民保護に関する庁内のマニュアル】

「作成済み」は4(10%)、「作成予定あり」は12(31%)、「作成予定なし」は23(59%)で、回答した自治体のうち41%が市町村独自のマニュアル作りに取り組んでいることも分かった。

【国民保護に応用可能な防災計画やマニュアル】

「作成済み」は13(33%)、「着手済み」は1(3%)、「作成予定あり」は8(21%)、「作成予定なし」は17(44%)となった。

他の団体との調整状況

避難誘導や安否情報の収集など地元の交通機関や民間団体などと結んでいる国民保護に関する協定があるか聞いた。

「ある」と回答したのは1自治体(3%)、「防災協定を国民保護に準用する」は24(62%)だった。

中林准教授は「多くの自治体が防災上の協定を準用して国民保護措置を行うことを考えているようだが、 協定先と国民保護措置への準用の可否についてコンセンサスをとっておくことが重要」と指摘している。

また、国民保護の取り組みに関し、問い合わせや調整をしたことのある関係機関について尋ねた。

「県」がもっとも多く19、「庁内の他部署」が9、「国」が5、「指定公共機関」が4などとなった。

情報の把握状況

有事の際の住民の避難をめぐり、避難の対象となる人数について「把握している」と答えたのは11自治体(28%)、「必要に応じて把握できる」は17自治体(44%)だった。

避難施設の収容能力については「把握している」が15(38%)、「必要に応じて把握できる」が17(44%)となった。

一方で、交通機関が1日に運ぶことができる人数については、「把握している」は3自治体(8%)、「必要に応じて把握できる」は9自治体(23%)にとどまった。

また、被害拡大につながる危険物については、「把握している」が5(13%)、「必要に応じて把握できる」が8(21%)となった。

中林准教授は「避難対象者と収容施設については多くの自治体が何らかの形で把握できると考えている。これらには災害対策上すでに準備をしている情報も多く含まれていることが要因と考えられる。他方、輸送力や危険物など、外部の機関との連携なしに情報が把握できない分野については情報把握が十分でない」と指摘している。

現場の課題

市町村が抱えている課題を複数回答で質問した。

「平素の人員や時間の不足」が最も多く32自治体(82%)、次いで「基礎知識がない」と「先進事例や相談先がない」が22(56%)、「設備機材」が15(38%)、「実際に国民保護を行う場合の人手」が13(33%)、「訓練機会」が12(31%)、「費用」が11(28%)、「地域住民の理解」が7(18%)などとなった。

安全保障環境への認識

各自治体の担当者の沖縄を取り巻く安全保障環境への認識について、複数の事象を挙げてそれぞれについてどの程度懸念しているか質問した。

「懸念している」「非常に懸念している」と回答したところが多かった順に、「北朝鮮などによる飛翔体発射」が27(69%)、「台湾有事」が23(59%)、「尖閣などをめぐる日中衝突」が22(56%)、「在沖米軍基地へのテロ」が21(54%)などとなった。

「国民保護」どう進める?

今回の結果を受けて、調査を共同で行った国士舘大学の中林啓修准教授にきいた

「もともと国民保護自体は防災と違って国が行うべき事務を県や市町村に託すという性質で、国のスケールで考えなければならない内容が多く含まれている。国や県の関わりが非常に重要だ」

「われわれは戦争をコントロールできておらず、例えばウクライナのようにこちら側の思いや取り組みにかかわらず巻き込まれてしまうかもしれず、しっかり準備はしなければいけない」

その一方で、その取り組みは慎重に進めていくべきだという。

「国民保護の措置を充実させるのは戦争をするためではなく、そういう状況に追い込まれてしまったときに、国民の命や生活や社会を守って残していくためにある。『いざとなれば何もかも捨てて逃げるのが当然だ』と住民に強要するようなやり方では、結局、国民保護みたいな厳しい仕組みをつくってまで、何を守ろうとしているのかを、かえって分からなくさせてしまう。『ハチマキを巻いて、みんなでやろうぜ』というものではない。しっかり丁寧にコンセンサスをつくっていく必要がある」

「国民保護」取材を通して

国民保護の取り組みについて取材を始めた当初、私は「この取り組みはもっと加速させなければいけない」と考えていた。軍隊が住民を巻き込むかたちで、多くの民間人が命を落とした沖縄戦が頭にあったからだ。

しかし、取材を進めるうちに、「戦闘を都合よく進めるために住民が強制的に移動させられる可能性もあるのではないか」「計画を立ててもいざ有事となれば安全な避難など到底無理な話なのではないか」という懸念ももつようになった。

一方で、中林准教授が指摘するように「人は戦争をコントロールできていない」という事実がある。台風や地震に比べれば可能性は低いかもしれないが、災害のようにふりかかる可能性を完全に否定はできない。

どうすれば住民避難のための備えが進むのか、そして、誤った使われ方をされないか、絶えず取材し発信し続けたいと思う。

記者 小手森千紗

2017年入局。岐阜放送局や高山支局を経て2020年9月から沖縄放送局。経済やアメリカ軍の取材を主に担当している。