ケビン・メア氏にきく「知事訪米」「辺野古移設」「防衛力強化」

NHK
2023年4月1日 午後0:49 公開

アメリカ国務省の日本部長を務めたケビン・メア氏。平成22年には大学生に行った講義のなかで普天間基地の移設問題に関連し、「沖縄はゆすりの名人だ」などと述べたとされる問題で日本部長を更迭され、その後、国務省を辞職している(本人は発言を否定)。

一方、メア氏は流ちょうな日本語を話し、日本の文化や社会にも造詣が深い「知日派」として知られる。かつてアメリカの沖縄総領事を務めるなど日本政府や沖縄県と、アメリカとの過去のいきさつにも詳しい。

3月、沖縄県の玉城知事がアメリカを訪問したタイミングにあわせて、今回の訪米や、沖縄を取り巻く安全保障環境などについてインタビューした。

※記事は3月7日にワシントンで実施したインタビューに基づいて再構成した。

今回の国務省や国防総省の対応をどう見る?

アメリカ政府として、外国の地方自治体と話すことはあまりない。正式の交渉は、政府と政府の間で行うものだからだ。とはいえ沖縄県は在日米軍が多いし、(日米同盟に)重要な役割を果たしている県なので、例外的な形でアメリカ政府の色々な人が非公式に会うことがあるということだ。例えば沖縄の政治家がワシントンを訪れ、沖縄にある米軍基地のことを交渉したいとなれば、それは非公式に地元の意見を聞くという形で対応する。今回、玉城知事がワシントンを訪問するケースの場合、日本側で安全保障の3文書が改正され、1月には日米の2プラス2会合があった。東アジアにおける中国からの脅威が明確になり、沖縄がますます重要な役割を果たす場所になっている。そのタイミングも配慮したと思う。

知事の目から見ると、これから沖縄県の負担増になると感じていると思うが、東アジアの特に安全保障上の流れを見ると、沖縄県は中国とのいわゆる対立の前線に立つ位置にある。それは仕方がないことであり、沖縄はこれからますます重要な役割を担うことになり、重要な場所だといえる。

政府が感じていることを、メア氏自身も感じるか?

個人的にも、もちろんそう考えている。アメリカ政府を代弁することはできないが、私が政府で働いていた経験からみると、いまの情勢を見て、沖縄は県全体が、つまり離島だけでなく、沖縄本島も南西諸島の重要なところになる。なぜなら中国との衝突が起きる可能性が高い地域だからだ。日本全体にも言える。沖縄だけではなく、南西諸島だけではなく、九州も(中国から)近い。

アメリカ政府や私がいちばん考えていることは、どうやって中国と戦うことにならないようにできるか、平和を維持できるかということだ。もちろんアメリカ政府も軍も中国と衝突したくないが、中国がいろいろな挑発的な行動をとっているので、まずどうやっておさえるか、広がらないように抑止できるかが重要になる。

かつての知事の中には、政府中枢の人と面談した人もいるが、現在は事務方中心の面談となっていることをどう思うか?

私は(アメリカ政府側のレベルが)下がっていると思わない。(稲嶺元知事が)パウエル長官と会ったときは、極めて例外のことだった。前に申し上げたように(都道府県知事は)本来、アメリカの国務長官や国防長官は他国の地方の政治家と直接に安全保障上のことを交渉する立場では全くない。各都道府県の知事が個別にアメリカ政府と交渉したいと言い始めるとむちゃくちゃになる。ただ、それを踏まえても、沖縄県は他の都道府県と比べて米軍基地が多いので特別の扱いをしていると思う。今回のことは私は詳しくないが、おそらく国務省の日本部長とか国防総省の日本担当者が対応するのが、従来の対応だ。ほかの県の知事であれば、会うことはないと思う。アメリカ側は(沖縄県知事を)丁寧に扱いたいという姿勢の現れだ。

「沖縄の声」がアメリカ側に届いていないと沖縄県は考えている

沖縄県は「アメリカ政府に沖縄の声がまったく届いていない」とよく言っているが、まったくそうではない。例えば沖縄県内で総領事館が誰かと会って話すときも、内容はワシントンに伝えているので、ワシントンの官僚たちはそれを読んでいる。沖縄県の気持ちとか考え方とかは(アメリカ)政府が配慮している。2005年、2006年、日米政府の間で米軍再編の交渉でも、アメリカはちゃんと沖縄県の政治家、知事とか議会の人たちなどの話を聞いて、色々と配慮していた。地元の意見を聞いてないということはまったくない。ちゃんと聞いている。総領事館の主な仕事だ。地元が何を考えているのか。何を欲しがっているのか。何に反対しているかは、いつもちゃんと伝えている。

だからこそアメリカ政府は大規模な負担軽減計画を日本政府と合意した。個人的に一番不満としているところは、2005年、2006、在日米軍の計画を用意して、大規模な負担軽減を示した。その中核は普天間の移設。滑走路の移設だ。ある政治家は新基地反対とよく言うが、新しい基地を作る計画は全くない。既存の基地内にいまより小さい滑走路を移設するという計画だ。この計画は普天間基地の移設が中心だが、関連している別の基地の負担軽減計画もある。

それなのに玉城知事やその前の知事たちも普天間移設計画を阻止しようとする。私の目から見ると普天間基地を阻止しようとしていることは、負担軽減に繋がらず、あまり県民にとっていいことではない。無責任だと思う。玉城知事は違うと思うが、ある政治家は沖縄から全ての基地をなくそうと主張している。安全保障体制自体に反対している人もいるし、安保条約に反対している人もいる。沖縄県内でもこうした考え方はどんどん少なくなっていると思うが、「軍がいなかったら平和になる」という考え方は、あまり現実的ではない。私も総領事だったときも、今もそうだが、アメリカはできるだけ戦争とか戦いとかを避けたいのだ。どうやって防ぐことができるかという捉え方が違うだけで、沖縄のいわゆる革新側と話すときに私はよく言ってたのは「我々は同じ目的だ」ということだ。

歴史を振り返ると、平和を維持するために抑止力を維持しなければ、弱く見られて攻撃される。私は沖縄にいた2009年からの13年間の間で、中国の脅威は大きくなっている。2010年の尖閣諸島の近くで漁船が衝突したとき、私は国務省の日本部長だった。アメリカ政府ははっきり言ったことは、尖閣諸島は日本の主権下にあるから、安全保障条約第5条のもとでアメリカが日本の防衛に寄与するということだ。尖閣諸島の防衛が日米安保条約の対象になるということは、その後オバマ大統領もトランプ大統領もバイデン大統領も踏襲している。

現実的に中国の脅威を見て、それを抑止するために自衛隊や米軍の能力を向上させないといけない。それと同時にできるだけ沖縄県民の負担を軽減しないといけない。だから難しい。どちらか1つだけだったら簡単で両方のバランスが大切だ。

今回の知事の訪米で得られるものはあると思うか?

あまり高い期待はできないと思う。今までの政府とアメリカ政府の日本政府のやり方と計画は変わらないと思う。

ご指摘のように県内では政府による防衛力強化が進められている。それに関連して、2007年、与那国の港に米軍の掃海艇が寄航したときの経緯や背景をききたい。

私が沖縄総領事になったとき、米海軍が毎年、日本全国の民間の港に寄港しているのに、沖縄ではしていないということに気づいた。これは同じ日本なのにおかしなことだと。全国の民間の港に寄港するときの目的は、もちろん地元との親善交流とか乗組員の給油だが、同時に港に寄港したら、特に接岸したら、いろいろな情報収集も自然にできる。例えば、米海軍が与那国に寄港する前には水がどのくらい深いか、あまり情報がなかったがそうしたことを知ることができる。

でもなぜ与那国と石垣への寄港を進めたかというと、将来、中国による挑発的な行動が続き、万が一、台湾海峡や尖閣諸島をめぐる有事があれば、アメリカ海軍が離島の港を使おうということになると思ったからだ。もちろん具体的な計画があるわけではなかったが、有事が起きてから初めて入港するのでは情報がないから、その前に全国でやっているように同じように民間の港に寄港して情報収集すべきだと判断した。私1人で決める権限がなかったので、大使や国務省と相談して計画した。

寄港して具体的に何を調べた?

例えば与那国の祖納港はあまり大きな港ではなく、掃海艇だから入れるわけだが、港の入り口の右側にコンクリートでつくられたものが海中に落ちていて危険であることがわかった。あとはどのぐらいの燃料をどこで買えるかとか、そういう具体的なことだ。

また、在日米軍の警備に日本の警察がどれくらい協力してくれるかということもあった。当時、与那国にはいわゆる防衛能力がなく、島には警察官2人しかいなかった。与那国の人口1600人に対し、拳銃2つしかなかった。寄港したとき、抗議している団体が、夜12時か1時頃、海軍の艦船のはしごをのぼろうとしたが、日本の警察は何もできなかった。何もやろうとしなかった、1人しかいなかったから。有事の際になれば、同じような抗議団が来るかもしれない。そのときに警備できるようにしないといけないというのが日本側の1つの教訓となった。

当時、与那国や石垣に寄港したことが、いまに役立っていると思うか?

寄港したのは与那国2007年、石垣2009年。石垣も大騒ぎになった。反対活動も激しかった。いまは与那国には駐屯地もあるし、米海兵隊も自衛隊と一緒に訓練をしている。石垣でも(かつて)PAC3を配備しても何も反発もなかったし、あちこちに自衛隊の駐屯地もできてるし、すごくいい傾向だと思う。なぜそうできるようになったかというと、中国の脅威が目の前にあるから、沖縄県民は10年ほど前と比べると、かなり現実的になっているのではないか。環境が変わったのだとおもう。いいことだが、それだけ中国の挑発的な行動が激しくなっているという点では悪いことだ。

これからどうするかと考えると、沖縄ははっきりいうと日本と中国の間の前線だ。中国で使われている言葉は第一列島線。第一列島線は先島諸島だけでなく、沖縄では琉球諸島。これから中国の脅威を抑えるために、何が必要であるか。おそらくこれから、自衛隊のプレゼンスは大きくなると思う。私が沖縄にいたときに沖縄県全体にいる自衛隊の数は、だいたい5000人近くだった。米軍は海兵隊を含めて2万5000人ぐらい。自衛隊のプレゼンスはどんどん大きくなっているが、これからの問題は、基地の共同使用だ。そんなに新しい基地をつくる場所もない。

私は沖縄にいた最後の年は2009年、初めて陸上自衛隊が、キャンプハンセンの都市型訓練場を使った。自衛隊が沖縄の米軍施設を使用するのに抗議団が反対して当時は大騒ぎになった。日本の自衛隊が日本を防衛するために訓練しているのに、なんで反対しているのか不思議だと思った。抗議団は「沖縄の気持ちを理解していない」と言っていた。

沖縄の気持ちはわかる。平和がほしいという気持ちはわかるが、平和がほしいほしいといっても平和に必ずなるわけではないので、抑止力を向上するしかない。自衛隊も沖縄にある米軍基地の施設と訓練場を使う必要がある。

いま防衛力が強化されている状況は、中国の脅威が増すことを見越して、当時から計画されていたのか?

具体的な将来に施設をつくるとかいう計画はまったくなかったが、2007年から見て将来を考えると中国の脅威が先島をはじめ沖縄全体で激しくなるのではないかと思っていた。残念ながらそのとおりになっている。

石垣駐屯地の開設、安保関連3文書や2+2など、南西諸島の防衛力強化が進められている現状を、どう受け止めている?

よかったと思う。防衛能力が具体的に向上しているからだ。日本の国民の間では、最近まで日米の安全保障体制の意味が誤解されていた。アメリカが日本の防衛をすると思っていた。それは間違っている。本当の日米安保体制の意味は、日本の自衛隊と米軍が一緒に日本を守るということだ。安全保障条約の第5条で書いていることは、アメリカが日本の防衛に寄与するということ。日本政府がの防衛能力を向上しようとしていることは同盟関係にとってすごくいいことだ。だからアメリカも防衛能力を向上している。

日本が自衛隊施設を離島につくれば、米軍にとっても役に立つ。1つの具体的な例を申し上げると、1月の2プラス2では、米軍の在沖の海兵隊を再編して海兵沿岸連隊をつくることが発表された。海兵隊の沿岸連隊と自衛隊と一緒に離島で共同訓練をすれば、万が一の有事にもよりよく対処できるようになる。

台湾有事への懸念についてメア氏としては、起きるとすればいつだと分析している?

難しい質問で、習近平氏が何を考えているかは読みにくい。習氏は何回も彼が生きている間に台湾を統一しないとならないと発言している。だから中国が台湾を攻撃しないと思い込むことは危ないことだと思う。本当に台湾有事が起こるかわからないとしても、起こらないように何が必要だろうかと考えると、習氏が理解できるぐらいの日米の両方の抑止能力をちゃんと向上しないとならないという風に考えている。もし中国が台湾を攻撃したり、封鎖しようとしたりしても、日米は何もやらないと習氏が思うのであれば、非常に危ない。抑止力ということは、2つの要素が働いて、1つは能力、十分な防衛能力。でもその能力を使う覚悟も示さないといけない。アメリカは同盟国を防衛する覚悟がある。中国が台湾を攻撃する、統一させるというふうに考えるのだったら、そうだったら、中国に対する被害が耐えられないぐらい大きくなると示せばいいと思う。

(聞き手)沖縄局記者 阿部良二