ことし(2022年)7月、那覇市の認可外保育施設で生後3か月の赤ちゃんが心肺停止の状態になり死亡した。事故から4か月、関係者への取材などをもとに経緯をまとめた。
発覚は消防への通報
事故が発覚したのは、ことし7月30日午後0時32分。
「3か月の男児が母親が保育園に迎えに来ると呼吸をしていなかった」
消防によると、119番通報をしてきたのは、那覇市の認可外保育施設「緑のすず乃保育園(現在は廃止)」の関係者だという。その6分後、現場に消防が駆けつけると、赤ちゃんは心肺停止の状態になっていて、病院に運ばれたが、まもなく死亡が確認された。亡くなったのは、3か月の男の赤ちゃんで、この日の朝8時ごろから一時保育の利用で預けられていた。消防によると、赤ちゃんに目立った外傷はなかったという。警察は、司法解剖を行うなどして、死亡したいきさつについて調べている。
那覇市に報告せず
事故後の施設の対応にも問題があったことが明らかになっている。児童福祉法の施行規則に基づき、事故が発生した場合には、速やかに那覇市に報告する義務があったが、施設はそれに従わなかった。発生から6時間以上たった午後7時ごろに、市は、第三者からの情報提供で事故を把握したとしている。市は、その日の夜に緊急の立ち入り調査を行い、施設も運営を休止した。
改善勧告、施設は廃止へ
立ち入り検査の結果、市は翌8月18日、8項目の改善勧告を行った。
①「保育従事者数」(園児数に対して必要な数の保育従事者を配置)
②「保育室の面積」(保育面積にあった園児の受け入れ)
③「緊急時の連絡体制」(消防など緊急連絡表を保育従事者が確認できるように表示)
④「食事内容の状況」(全職員参加の研修実施し授乳について適切な対応を行う)
⑤「乳幼児の健康状態の観察」(健康状態を十分確認、注意必要なら保護者へ報告)
⑥「乳幼児突然死症候群(SIDS)の予防」(あおむけに寝かせるなど)
⑦「安全確保」(事故発生時に直ちに消防などに連絡、適切な救命措置を実施)
⑧「在籍乳幼児に関する書類等の整備」(一時預かりの名簿作成、状況を的確に把握)
②の「保育室の面積(軽微)」以外は、園児たちの安全を守るために重要だと区分されている。
市によると、この時、施設側は勧告された内容について、改善を図る意向を示していた。ところが10日後の8月28日、「職員たちへの給与の支払いなどを考えると今後の経営が難しい」という理由で施設は廃止された。
この施設を利用していた園児は、一時保育を含め少なくとも53人いたということで、市は保護者に対して別の施設を紹介したという。
指摘されていた問題点
この保育施設をめぐっては、以前から複数の問題点が指摘されてきた。施設が開園したのは平成31年2月1日で、事故の8か月前の令和3年11月26日には市の立ち入り検査で12項目の改善指導が行われていた。
①「保育従事者数」
②「衛生管理」
③「発育チェック」
④「乳幼児の健康診断」(夜間:入所前に健康診断を実施、結果を園で保管)
⑤「乳幼児の健康診断」(夜間:健康診断を年2回実施)
⑥「乳幼児突然死症候群(SIDS)の予防」(睡眠中の状態を細かくチェック)
⑦「乳幼児突然死症候群(SIDS)の予防」(SIDSの認識高め予防に努める)
⑧「環境および安全性の確保」(ベッド1台について1名の使用)
⑨「環境および安全性の確保」(ベッドの置き方や台数を工夫し、安全確保を行う)
⑩「在籍乳幼児に関する書類等の整備」
⑪「保育姿勢」(研修等の機会を持ち、保育従事者の専門性の向上に努める)
⑫「健康管理」(夜間:一時預かり児童の名簿なく人数把握がされていない)
⑪の「保育姿勢(軽微)」、⑫の「健康管理(軽微)」以外の10項目は、いずれも重要だと区分されている。
4月1日、施設から「改善報告」が提出された。こうした複数の問題点を抱えた施設に対して、市は重点的な立ち入り調査が必要だとしているが、事故が起きるまでのおよそ4か月間、実施されることはなかった。
さらに、事故のおよそ1か月前の6月24日には、市に対して保護者から、安全管理の問題点を指摘する情報が寄せられていたことも明らかになっている。
「部屋が暗くテレビが大音量で流れている。こどもが大泣きしていて、泣き声がやまない。子どもが職員にたたかれたと話している。指導に入って下さい」
この情報を受けてから11日後の7月5日、市の職員が施設を訪問。この時、園児の体をチェックするなど通報内容について十分な確認がされていなかった。その理由について、市は次のように回答した。
「施設の外からは騒音や子どもの泣き声は確認できず、玄関先で園長に施設の状況について聞き取りを行い、受け答えに不審な点がなかったことから、立入調査は行わなかった」
閉鎖命令の行政処分
11月14日、那覇市役所で開かれた有識者によるこども政策審議会。この中で、保育施設への処分について話し合われ、施設閉鎖命令の行政処分を出すことが妥当だとする答申をまとめた。これを受けて11月25日、市は施設閉鎖命令の行政処分を出し、理由について、次のように指摘した。
「特に重要な乳幼児突然死症候群(SIDS)の予防について、繰り返し指導を受け、適切な対応を行うと報告していたにもかかわらず改善がなかった。救急対応が必要な状態にある児童の異変に対し、直ちに救急要請や救命措置を行わないなど、児童の安全確保に対する適切な対応が行われていないことから、今後改善が期待されず、施設の運営の継続が児童の福祉を著しく害する蓋然性があると判断されるため」
行政処分の内容は国のデータベースに登録され、今後、元園長が保育施設を新たに運営しようとする際の参考情報として使われる。
「息子がいなくなって寂しく、悲しいです。何が起きたのか知りたいです」
遺族は私たちの取材にそう訴えている。
市の立ち入り検査で12項目の改善指導が行われ、保護者から通報を受けながら、なぜ事故は起きてしまったのか。市は、年明けまでを目標に第三者による検証委員会を設置し、事故の再発防止に向けて検討を進めるとしている。
私たちは、市に対し情報公開請求を行い、施設側が記載した事故に関する資料を入手した。次回は、その資料から、当時、施設で何が起きていたのか、その対応に問題はなかったのか、見ていきたい。
記者 安座間マナ 河合遼