米軍空母「ロナルド・レーガン」に乗ってみた

NHK
2022年11月2日 午後8:01 公開

「ロナルド・レーガンが公開される」

アメリカの原子力空母「ロナルド・レーガン」。ことし(2022年)8月のアメリカのペロシ下院議長による台湾訪問や、その後の中国の大規模な軍事演習の際、あるいは10月に北朝鮮がミサイルを連続して発射した際、ニュースでその名前を耳にした人もいるのではないだろうか。「ロナルド・レーガン」は、アメリカ軍で唯一前方展開(=アメリカ本国ではなくアジア・太平洋地域などに配置すること)している空母だ。2022年10月、アメリカ海軍は沖縄のメディアにこの空母を公開した。日本周辺におけるアメリカ軍の活動の中心を担っている同空母。この記事ではテレビでは伝えきれないニッチな部分まで記そうと思う。

移動は米軍輸送機で

10月28日午前11時、私たち取材陣をのせた機体はアメリカ軍嘉手納基地を離陸した。C2グレイハウンドという輸送機だ。

この機体、かなり年季が入っている。ところどころサビも見られ、飛行中は足元から水蒸気が上がる。

窓が少ないため機内は暗い。そして油臭い。着陸の衝撃に備えて進行方向の後ろ向き座席が設けられているという点が特徴的だ。

基地から離陸する際や、飛んでいる間の乗り心地は普通の旅客機と特に変わらなかった。揺れも小型の旅客機程度。暗さとかすかな揺れで、思わず眠ってしまった。

時速200キロから2秒で

午前11時53分、機体が高度を下げ始めたようで、旅客機の離陸前にもある、あの耳の詰まるような感じがした。そして正午ごろ、空母の近くに来たのだろうか。機内の灯りがついた。

空母の全長は330メートルで、滑走路として使えるのはその約半分だそう。ワイヤーを使い、わずか2秒で時速200キロから速度を下げて停止することになる。

そして午後0時42分、隊員が手を叩いて"Here we go, here we go, here we go!"と合図の声をあげた。

まもなく、ほんの1秒くらいジェットコースターが落ちる時のような感覚がしたあと、座席に押し付けられるような圧とともに停止した。

窓の外を見ると隊員や艦載機が見えて、無事に空母に着艦したことがわかった。

“レッドルーム”

私たちがまず通されたのは、赤い壁紙が特徴的な応接間。

壁、じゅうたん、ソファーなどはすべて、ロナルド・レーガン元大統領の妻、ナンシー氏がデザインしたのだそう。

ホワイトハウスにある「レッドルーム」という部屋を模しているという。空母の中とは思えない優美な部屋だ。

そして、ここにきて感じたのは、船体は常にゆったりと揺れているということ。巨大な空母なのでもう少し揺れは少ないと思っていた。

しかしここは陸地から遠く離れた外洋。広報官によると、ここは沖縄本島の南約300キロの洋上だという。

離着艦繰り返される甲板へ

続いて、甲板に出ることに。厳しい口調で、安全に関する説明が行われた。耳栓をしたうえからヘッドホン付きヘルメットを被ること。長袖長ズボンとゴーグルを着用すること。甲板では紙切れひとつたりとも落としてはいけないということ。決められた安全ラインから鼻の先でさえもはみ出てはいけないということなどだ。

ここまで安全に注意を払わなければいけない現場は初めてなので、緊張しながら甲板に出た。外に出ると、エンジンのかかった機体が近くにあるからか、サウナのような熱風に包まれた。

戦闘機の発艦を撮影するため、滑走路部分へ向かう。基地問題の取材などで、フェンスの外から戦闘機の騒音を聞くことはあったが、わずか数十メートル先で戦闘機が飛び立つ経験は初めてだ。

戦闘機は私から見て左手から右手に弾丸のように進み、瞬く間に飛び立った。爆音がお腹の中に響くような振動になって身体に伝わってきた。耳は塞いでいるものの、思わず丸まって身体を背けるほどの衝撃だった。

若い隊員たち

次に向かったのは操舵室。空母をコントロールする部屋だ。ロナルド・レーガンの乗組員は約4600人で、その多くが20代だという。甲板ではみなゴーグルをしていたので分からなかったが、たしかに見渡すと隊員たちの多くは自分と同年代かそれより若そうだ。

中には沖縄県にルーツを持つ日系人の隊員もいた。今回の報道公開には何人か沖縄の地元の人たちも招待されていたのだが、この隊員の叔父、佐久田トニーさんも参加者の1人だった。

聞けば、隊員で甥のザッカリーさんはハワイ生まれ。6か月ぶりの再会で、まもなく生まれるというザッカリーさんの子どもについて、嬉しそうに話す2人の姿が印象的だった。

沖縄では戦前戦後、豊かな暮らしを求めてハワイなどに移住した人たちが多くいる。親戚がアメリカ軍にいるという沖縄県民も少なくないのが現実だ。沖縄の人にとってアメリカ軍や基地がどんな存在であるか、県外から赴任してわずか2年数か月の私は的確に表すことばを持ち合わせていない。きっとこの先も、ひと言で言い表せるようになる日は来ないと思うし、決めつけたり分かったふりをしないのが記者に求められていることなのだと思う。

わずか1時間半の空母取材はあっという間に終了した。帰る際の「カタパルト発進」では、空母に着艦したときの逆で、2秒で時速200キロに加速する。今度は車の急ブレーキのように、ガックンと体が前に投げ出されるような衝撃だった。

アメリカ軍の危機感とは

取材の中には、およそ15分間の司令官へのインタビュー時間も設けられた。

アメリカ海軍第5空母打撃群のマイケル・ドネリー司令官は、次のように話す。

「アメリカ、特に大統領は、国境における現状を変えるような一方的な行動には断固として反対であると明言している。アメリカは、海軍のレベルで、この地域で日常的に活動し、私たちの決意とコミットメントを表明している。また、この地域のパートナーや同盟国と一緒に行動している」

「私たちが日常的に行っている統合作戦は、同盟国やパートナーとともに共通の課題に取り組むために、共に行動するための総合的な能力を維持するものであることを実証している」

特定の出来事や国に対して反応的に動いているのではなく、これまで通りの任務を行っているのだと主張したいように聞こえた。

その一方で、特定の国の動きに対する懸念もはっきりと示した。

「この地域では、特に中国が活動を活発化させていることは確かだ。私たちは、米海軍としてまたアメリカ統合軍として、そして同盟国とともに、普段の作戦を続ける」

アメリカの外交政策に詳しい防衛省防衛研究所の新垣拓 主任研究官はアメリカで広がる見解についてこう話す。

「今すぐ(台湾に)軍事的に侵攻するというのは、中国にとって合理的でない側面が多いという認識が多いので、そこまでしないだろうというところが大方の見方だ。ただその一方で、中国自身が侵攻を可能とするような能力を構築しつつあるというのは見て取れるところがある。能力がないとできないことであるので、能力があるということは、逆に言うと意思次第でいつでもできる。そういう意味で、かなり危機感は高まっている」

その危機感を裏付けるように、8月の中国の軍事演習の際に台湾の東側に展開したり、最近も韓国軍やフィリピン軍と演習を行ったり、その活動の量・範囲は増えていると新垣さんは指摘する。

沖縄では、ことし6月や10月に、「ロナルド・レーガン」艦載機とみられるFA18戦闘攻撃機が嘉手納基地や普天間基地に外来機として飛来。騒音被害の深刻化につながっている。ロナルド・レーガンの活動の活発化はそういった意味で沖縄に住む人たちの生活と無縁ではない。

取材を終えて

今回のメディア公開は、伝え方が難しい取材だと感じた。アメリカ軍側がアピールしたい取り組み・伝えたいメッセージをそのまま放送することは、記者としてためらいがある。一方で、できるかぎり多くの取材の機会を得て、情報を届けることが記者の役割だとも考えている。ウェブ記事という場で、テレビでは伝え切れなかった情報がひとつでも多く皆さんに伝わることを願いたい。

記者 小手森千紗

2017年入局。岐阜放送局や高山支局を経て2020年9月から沖縄放送局。経済やアメリカ軍の取材を主に担当している。