沖縄のアメリカ軍トップ、ジェームズ・ビアマン四軍調整官が6月10日、うるま市のキャンプ・コートニーでNHKの単独インタビューに初めて応じました。インタビューは30分間行われ、記者がインド太平洋地域の安全保障や沖縄の基地負担などについて聞きました。
以下がインタビューのほぼ全文です。文章は一部、わかりやすいように再構成してあります。(聞き手:小手森千紗 記者)
取材を受けた理由とアジア安全保障会議
(記者)
まず、なぜインタビューを受けることを決めたのですか。
(ビアマン氏)
日本や沖縄の人々に、私たちの立場を伝えたいと考えたからです。そのなかで、素晴らしい仕事と、私がとても誇りに思っていることを紹介できればと思います。若い海兵隊員や船員は、同盟国やパートナーと非常に緊密に協力しながら成果を上げています。とても力強い、良いニュースになると思います。このような話をする機会と場を提供していただき、ありがとうございます。
(記者)
きょうは偶然にもシンガポールで開かれるアジア安全保障会議の初日です。会議には何を期待しますか?
(広報担当者)
その質問に四軍調整官が回答するのは少し難しいです。
(ビアマン氏)
私たちは会合に参加するわけではありません。自分たちがやっていることについて正確な回答をしたいのでコメントは控えます。
中国・北朝鮮の脅威
(記者)
まず安全保障上の脅威について、ビアマン氏の見解を伺います。最近の中国の動向をどう見ていますか?
(ビアマン氏)
質問ありがとうございます。この地域における日米同盟は、安全保障の基盤です。この地域は、我々と日本にとって大きな利益をもたらす地域です。私たちには、ここにいる人々と日
本の領土を保護し、貿易ルートにおける自由な通商のための条件を確保する絶対的な責任があります。同盟関係、特に1960年の安保条約に沿って、私たちは長年にわたり、それを達成してきました。
この間、さまざまな敵が出現し、時にはその能力が向上するのを目の当たりにしてきました。ここ数年は、中国の侵略的な動きを空や海で目の当たりにしてきました。中国は日本の領空領海や琉球諸島周辺に進出してきています。
ロシアのウクライナ侵攻から得た極めて重要な教訓のひとつは、抑止力だと思います。自由社会の人々、そして同盟国は、自分たちが信頼に足る軍事力を持っていること、そして、敵対勢力が私たちに手を出すようなことがあれば、代償を払うことになり、そこには多くの不確実性が伴うということを示さなければなりません。
ですから、私たちは同盟国やパートナーとこれまで行ってきたことを継続します。演習を行い、作戦を実行し、競い、われわれが利益・同盟国・パートナーを守るための確固たる能力を持っているのだと示すのです。私たちは、攻撃的な行動に対し、それを押し返すとともに、日米両国の軍隊が協力して、日本国民とアメリカの利益を守るための非常に信頼できる能力を持っていることを、中国やいかなる敵にも理解させることを決意しています。
(記者)
北朝鮮についてはどうでしょうか。
(ビアマン氏)
私たちは、日本同様、韓国と非常に緊密な同盟関係を築いています。しかし、私は先ほど申し上げたことに立ち返ります。結局のところ、私たちは、自由を愛する人々が平和で安全に生活できるように、そして私たちの安全保障と経済的利益を守るために力を注ぐ、世界のこの地域の同盟国と友人のネットワークの中の1つのパートナーに過ぎません。中国であろうが、北朝鮮であろうが、ロシアであろうが、私たちはアメリカ軍統合部隊の4つしかない海兵遠征軍として配備されています。私たちは侵略者になりうる勢力を抑止し、彼らが悪い判断をしないように、同盟国やパートナーとともに必要なことをすべて行うことを決意しています。
(記者)
台湾について聞きます。バイデン大統領は台湾防衛のためにアメリカが軍事的に関与する考えを示しました。有事の際、沖縄の海兵隊はどのような役割を担いますか。
(ビアマン氏)
私が大統領の言葉を補足するようなことは決してありません。私が言いたいのは、アメリカ軍は、日本国民との条約に基づき、日本国民とアメリカ国民、そして利益を守るために、この地域の経済的繁栄と安全を確実にするためにここにいるという事実です。どのような敵対勢力であれ、我々の利益を守る準備ができています。
(記者)
2020年代末までに台湾有事が起きると言う専門家や高官もいます。ビアマン氏はどう見ますか?
(ビアマン氏)
重要なことは、先ほどお話したことに戻りますが、日本、米国、そしてこの地域のすべての同盟国やパートナーが、能力を発展させ、改善し続けること、そして、いかなる敵に対しても、私たちが非常に信頼できる能力のある軍隊を持っていることを理解させ、この地域の利益を守る準備ができるようにすることです。
自衛隊との連携
(記者)
5月行われた岸大臣との会談では何が議論されたのでしょうか。自衛隊との連携や施設の共同使用について話はあったのでしょうか。
(ビアマン氏)
まず、大臣が自らの時間を割いて私とともに座り、共通の関心事について話し合っていただいたことは大変な名誉でした。自衛隊との協力や相互利益の分野について話し合いました。それは、間違いなく話すべきことが多いテーマです。私たちは、自衛隊との非常に重要な関係を深め、発展させ続けます。
自衛隊とは、ヤマサクラ、キーンエッジ、キーンソード、レゾリュートドラゴンなど、定期的に大規模演習を行っていますが、これらはあくまでも全体の中のごく一部です。私たちは、毎週毎週、常に活動や演習を行い、スタッフは一緒に会議を行い、どのようにすればより効果的に共同作業ができるかを考え、計画を立てているのです。自衛隊と米軍双方にとって非常に有益な形で、二国間の運用が続けられていることをうれしく思います。
基地の使用の件については、私の職責を超えるようなこともあります。ただ、日本政府、防衛省、在日アメリカ軍、米国政府の間で、2012年末のアメリカ軍再編計画について議論が続いていることは知っています。議論は進んでいますが、米軍と自衛隊が協力して我々の利
益と国民を守るという点で、関係者は常に一致しています。
(記者)
日本側に求められることは何だと考えますか?
(ビアマン氏)
一緒に作戦を行うたびに感じるのは、自衛隊のプロ意識、リーダーシップ、能力は一流の軍隊のものであるということです。私たちも同様に高い規範を持っています。しかし、私たちには非常に多くの補完的な能力があり、お互い高め合うことができると思います。
自衛隊は高度で近代的な軍事能力、対空能力、対艦能力を有しています。日本にはMV22オスプレイやF35ステルス戦闘機が配備されています。そしてアメリカ軍もこれらの先進的な兵器システムを有しています。またアメリカ軍は飛び抜けたセンシング能力、部隊を分散させ、展開し、維持するためのレーダー能力も持っています。これらをすべて統合するのは、多くの労力と努力が必要で、簡単ではありませんが、その結果として、これまで言われてきたように、単にパーツを足し合わせる以上の力を持った優れた軍隊ができあがるのです。
私たちは、特に日本の防衛、琉球と南西諸島の防衛に重点を置いています。主要な演習について触れましたが、日本とともに行うこれらの演習は、いずれも実際の作戦や有事の際の計画のリハーサルであり、形式的にパトロールをしたり演習をしたりしているわけではないのです。もし危機が紛争に発展した場合、私たちは何をしなければならないかを考えており、お互いに必要なことを行う準備ができるよう、非常に懸命に協力しています。
海兵隊の再編
(記者)
海兵隊の変革について聞きます。海兵隊のフォースデザイン2030に関連して、沖縄ではどのような変化が起こるでしょうか?
(ビアマン氏)
質問ありがとうございます。まずフォースデザインについてお話しします。フォースデザインは目的地ではありません。どちらかというと、旅のようなものです。私たちは、作戦の実施方法を実験し、改革し、近代化させ、再検討していますが、実験と改革をしては調整を行い、歩みを進めているのです。目標は、より近代的で、能力が高く、攻撃力の高い軍隊になることです。
私たちにとって嬉しいのは、自衛隊が同じように近代化、実験、革新に取り組んでいるとい
う事実です。つまり、私たちはこの旅を共に歩んでいるのです。最適な方法を共有し、互いに学び合っているのです。そして、このことは私たち双方にとって本当に良いことだと思います。
沖縄の人々に向けてお話しするならば、私は、ほとんどの場合、フォースデザインは非常に透明性の高いものになると考えています。多くの場合、私たちが行っていることは、すでにここにある既存の部隊を利用するということです。そして、その部隊を再集中させ、運用方法や戦い方を変えるのです。しかし、日常的な軍の活動や、基地にいる軍の数、装備の種類などについては、ほとんどの場合、沖縄の人々に見える変化はほんの小さなものになるでしょう。
(記者)
沖縄での海兵沿岸連隊の創設についてはどうですか。
(ビアマン氏)
このほど、ハワイに海兵沿岸連隊が発足したばかりです。これは非常にうれしい出来事です。そして、海兵沿岸連隊の初期能力と完全能力を確立する一連のイベントを計画しています。この海兵沿岸連隊での実験と作戦で学んだことは、今後の第三海兵遠征軍の姿を形づくるでしょう。連隊をいくつ編成し、どこに配置するかの最終的に決定について、最終的な判断は行われてはいないはずです。しかし、私たちはさまざまな選択肢と可能性を検討しています。
(記者)
スケジュールなど、もうすこし詳細を教えてくれますか。
(ビアマン氏)
海兵沿岸連隊の初期作戦能力は、約1年後の2023年の晩夏から秋にかけて、ハワイ、そして第二列島線周辺のグアム、最終的には西太平洋で発揮される予定です。そこから、ハワイの沿岸連隊の完全作戦能力の発揮に向けては、さらに1年半ほどかかると思われます。
(記者)
沖縄の海兵隊のグアムなどへの移転については、最新のスケジュールはどのようになっていますか?
(ビアマン氏)
2012年のアメリカ軍再編計画は日米間の合意です。その中心的な要素のひとつが、軍備の分散です。沖縄を約9000人の海兵隊員と水兵が離れ、一部は日本本土に、一部はグアムへ、
一部はハワイやアメリカ本土へ行くことになります。2020年代の前半には、協定に基づいた1つのスケジュールが開始されると思います。2024年から2025年にかけて、その動きが始まるのではないでしょうか。
(記者)
「海兵隊の再編成は、沖縄にとって負担軽減の機会になる」とした元ホワイトハウス高官のマイケル・グリーン氏の発言についてどう考えますか?
(ビアマン氏)
一般的な話をします。私たちは日本国民とも自衛隊とも利益を共有しています。私たちは、日本の人々や日本の利益を守るために、準備、演習、そして作戦を行う義務があります。私たちは、作戦や準備のためにしなければならないことと、沖縄や日本の人々への影響のバランスをとるために努力していますし、常に重要な検討課題となっています。時には、その中間点を見つけるのが難しいこともあります。しかし、私たちは常にその中間点を見つけるために、懸命に努力しています。
沖縄の本土復帰50年
(記者)
沖縄はことし本土復帰から50年となりました。日米関係における沖縄の役割はこの50年でどう変化したと思いますか?
(ビアマン氏)
天皇陛下のお言葉を拝聴する式典に参加し、総理大臣にもご臨席を賜り、本当に光栄でした。沖縄の人にとって、日本人にとって素晴らしい一日だったと思います。
先ほども述べたように、日米同盟という文脈の中では、世界で最も重要な同盟の一つであり、地域の安全保障と経済的繁栄の基盤となっていることはご承知の通りです。日米両国の利益を守ることは、海洋国家である両国にとって良いことです。この地域の自由な経済移動に依存する他の国々にとっても重要です。私たちは、1960年の安全保障条約に基づき義務を果たすことができます。沖縄に駐留する我々にとって、絶対的に重要なことです。
私たちの考え方や進め方が進化し変化するにつれ、沖縄の人々の間でも米軍に対する考え方や見方が変化していることに注目すべきだと思います。我々の懸命な努力と、影響を最小限に抑えるために義務を果たす姿を評価してくれているのだと思いたいです。また、世界で起きている出来事を見て、この地域の私たちの利益と人々を守るために、日本国民と自衛隊とともに活動する米国の抑止力の重要性を認識してくれていると思います。