かりんとう。
誰もが同じお菓子をイメージすると思っていたら、大間違いでした。
岩手に多い、ぐるぐる模様のかりんとうのナゾに迫りました。
(盛岡放送局 野村苑香ディレクター 佐々木芳史アナウンサー)
放送動画は、このページの一番下からご覧いただけます。
2022年11月17日「おばんですいわて」で放送
●県の公式ツイッター反響
11月10日は「かりんとうの日」でした。
その日に投稿された、あるツイートが注目されました。
「かりんとうってぐるぐる だよね???」
投稿したのは、岩手県の広聴広報課。
県内各地でつくられている、ぐるぐる模様のかりんとうの写真を載せたところ、900件以上のリツイート、1500件以上のいいねがついたのです(11月17日現在)。
「えっ!これが、かりんとう?」という驚きの声と「そうそう、これぞ!かりんとう」という岩手の人の納得の声が飛び交いました。
東京出身の私にとって、かりんとうはもちろん、写真のような棒状のもの。
でも、岩手の人にとっては、「ぐるぐる」があたり前??
秋田出身の佐々木アナウンサーも「驚いた」というので、いっしょに調べてみることにしました。
●ぐるぐるのナゾに挑む!
まず向かったのは、ツイートした岩手県庁。
投稿主の橋本優吾さん(岩手 葛巻町出身)を見つけました。
佐々木アナウンサー「どうしてツイートされたんですか?」
橋本「職員の1人が県外の方からお土産で棒状のかりんとうをもらいまして。あれ?かりんとうってぐるぐるじゃないのかなって疑問をもちまして。それであの岩手県内のかりんとうについて調べて、投稿をいたしました。本当にたくさんの方から反響がありましてすごい驚いたなと」
佐々木「ちなみに棒状のかりんとうを見たときは、どう思われましたか?」
橋本「棒状もあるんだ・・・って思いました(笑)」
いえいえ、「ぐるぐるもあるんだ」が、正解ですよね。
手がかりを求めて、まちの人たちにも話を聞いてみることに。
こちらの女性は・・・
「かりんとう、昔私が子どもの時、ぐるぐるだった。でもこれ(棒)なんか、甘くておいしそう。何なのかな小豆なのかな?」
「私は、ぐるぐるの方が多いかな」
佐々木「どうしてぐるぐるなのかわかりますか?」
「わからね」
サラリーマンの2人組は…
「新しいのがこっち(棒)。昔風っていうとぐるぐる」
「ぐるぐるは、宮古のかりんとうっていう感じですね」
仲良しの学生2人は、見事に意見が食い違いました。
学生(左)「私は、こっち(棒)」
学生(右)「えっ!私は、ぐるぐるだな」
学生(左)「何それ!ぐるぐるは、おせんべいかと思いました」
●沿岸や県北に多い
「ぐるぐる」のかりんとう。
岩手県内で生産している場所を調査してみました。
地図にあらわずと、こんな感じ。
宮古市や普代村など沿岸部が特に多く、二戸市や八幡平市などの県北でも製造されていました。
県外では、北海道や長野県などでも「ぐるぐる」のかりんとうが見つかりました。
●老舗メーカーならば・・・
一体なぜ 岩手に「ぐるぐる」のかりんとうが多いのか?
県内の老舗メーカーに聞きました。宮古市田老の菓子店の田中和七店主によると・・・
大正12年の創業当初から、「ぐるぐる」のかりんとうを製造していると言います。
田中家に引き継がれていた過去帳によると、1代目の祖父が、各地でお菓子作りを教えながら旅をする職人から教わったと伝えられているとのこと。
しかし、その過去帳は、東日本大震災の津波で流されてしまったそうです。
田中さんは「なぜその旅職人が、ぐるぐるのかりんとうを伝えたのかは分からないけれど、ルーツを調べた研究者の記事が、数年前に宮古市のタウン誌『みやこわが町』に載っていたよ」と教えてくれました。
●ユニークな“仮説”
この研究者が、宮古市出身の東京海洋大学の佐々木剛教授です。
東京の縄文展を訪れた際、土器などに描かれていたのが、こうしたぐるぐる模様でした。
そして、ふと気がつきました。
「あれ?このぐるぐる模様、岩手のかりんとうにそっくりじゃない・・・?」
調べたところ、こんなユニークな仮説にたどり尽いたそうです。
「縄文時代の土器や装飾品には、渦巻き模様が描いてありますので、昔の縄文の人々は渦巻きに何か意味を込めて記しているんじゃないかなと。岩手県は昔から縄文土器がたくさん出る場所ですよね。特に、東北から北海道にかけて出土しているイモガイ形石製品は形が似ています。縄文時代に使われてきたこの渦巻き模様というものが、人々の記憶や心にまだ残っていて、その象徴として、渦巻き型のかりんとうとして残っているんではないかなと考えました」
「私は岩手県の文化大使を拝命しておりまして、かりんとうは岩手の文化遺産だと認定したいなと思っているんです」
あくまで仮説ではありますが、縄文時代の土器や装飾品に多く見られる「ぐるぐる」模様に関係しているのでは、というのが佐々木教授の見立てだそうです。
縄文時代の人が(おそらく)きれいだと思い、土器などにあしらったぐるぐる。
はるかなる時を経て、とうとう、かりんとうになっているとするならば・・・ドキドキのロマンある話ではないでしょうか。
おあとがよろしいようで。
NHK盛岡放送局
ディレクター 野村苑香 東京出身。2019年入局。
アナウンサー 佐々木芳史 秋田県出身。2016年入局。
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※放送から約2ヶ月間掲載しています。