宮古市田老に咲き誇るそばの花 届いていますか

眞野隼伸
2022年9月13日 午後3:49 公開

宮古市を拠点に沿岸各地を取材している私は宮古市田老地区の国道45号線を走るとキニナル場所がありました。一面に広がる白い小さな花。「何の花なのだろう?」その疑問をもとに取材を進めることにしました。その答えは「そば」でした。そば好きの私ですが、恥ずかしながら口にしているものからは想像がつかない、そばの花そのものを知りませんでした。
その場所でそばを栽培しているのは東日本大震災の津波で自宅などが流される被害を受けた夫婦です。震災後にそばの栽培を始め、収穫したそば粉を使ってそば店の経営もしているということです。
東日本大震災の発生から9月11日で11年半。どのような思いで栽培や店の経営をされているのか詳しくお話をうかがいました。

【動画】「宮古 田老 咲き誇るそばの花 届いていますか」
           (おばんですいわて9月13日放送)

田老に咲く白い花

宮古市田老地区にあるそば畑。満開に咲き誇る花は白くかれんで、辺り一面を真っ白に染め上げています。震災後に新たに建造され、地区を囲むようにそびえ立つ高さ14.7メートルの防潮堤の近く、海からおよそ300メートルの場所にあります。

栽培しているのはそば店を営む小林智恵子さん(61)と夫の小林徳光さん(62)です。

小林智恵子さん
「ことしはすごくきれいに咲いていいと思います。
花の付き具合はいいですけど、これが実になればいいですね」

小林さんはそば畑で収穫されたそば粉を使ったそばを経営する店で提供しています。
店の看板メニューは十割そば。ほかでは食べられない田老産100%のそばを求めて、遠方から訪れる客もいるといいます。

小林智恵子さん
「田老のそばだと自信を持って出せるし、皆さんに食べていただきたい」

震災前は民宿を経営し調理の経験は豊富でしたがそばを栽培したことも打ったこともなかった小林さん。震災が人生の歩みを変えました。

東日本大震災で田老では

2011年3月11日に宮古市田老地区に押し寄せた津波は防潮堤の一部を破壊し、海沿いの住宅1600棟以上が全壊するなどの被害をもたらしました。小林さんの民宿を兼ねた自宅も流されました。
壊滅的な被害を前に多くの人が地区を去る中で小林さん夫婦も離れるか、話し合ったことはあったといいますが最後には思い出の詰まった場所にとどまることを決めました。

小林智恵子さん
「やはり田老が好きだったのではないでしょうか。
津波に持って行かれて何にもなくなったというような状態であっても、
ここでまたやり直せばいいじゃないか。そんな気持ちが強かった」

もう一度この場所で

震災から立ち上がり新たな一歩を踏み出すには何をするべきか考えた小林さん。注目したのはがれきや大量の泥に覆われ、がれき置き場として使われていた田老地区の農地でした。かつては地域の人が集まる交流の場でもあったこの場所。
2014年にがれきの処理が終わると国の農地復旧事業に合わせて畑として利用することを目指し、みずから代表となって営農組合を立ち上げました。
そして、新しい土に入れ替え肥料をまくなどして農地として再生させました。

育てる作物に選んだのはそば。条件の悪い土地でも育つことに加え、小林さんが以前宮古市の別の場所で見かけ、白く美しい花に強く心をひかれたことも大きな理由でした。

小林智恵子さん
「がれきがあったりなんだりした草ぼうぼうの所よりは
ここは農地にしたほうがいいなと思った」

そばを育て始めた2年後にはかさ上げされたかつての自宅の跡地にそば店をオープンするまでとなりました。
ことしでオープンから6年。今は新型コロナウイルスの影響で営業は昼に限られていますが小林さんは手応えを感じています。

小林智恵子さん
「地区を離れた人も何か用事があって来た時には立ち寄って
田老のそばを食べていってくれるといいなというのは思っています。
お客さんもなんとか来てくれているので
これでよしというかこれからも頑張っていきたいです」

そばに込められたもうひとつの意味

夫の徳光さんがこまめに畑の草刈りを行うなど夫婦はそばを大切に育てています。
そこにはもうひとつの意味が込められていました。東日本大震災で犠牲となった知人も多くいるという小林さん。田老地区でそばの花が咲き誇るのはお盆の時期です。

小林智恵子さん
「震災の犠牲者も含めそばの花が皆に届けと思っています。
みんなに見てもらいたかったです。
空からも見てもらいたいし地上の方々もだし。
みんなにこの白い花というものの思いをわかってほしいなというのは思いましたね。
私たちの思いは届いていると思っています」

小林さんの思いはきっと天まで届いている。そう強く思い、今回の取材を終えました。

盛岡放送局宮古支局 記者 眞野隼伸
平成31年(2019年)入局
現在、宮古支局で宮古市・山田町など沿岸部を中心に取材。

田老産100%のそばは美味でした!