伴走曲は何ですか? ~SaToMansion「明日を」~

NHK
2022年3月1日 午後3:25 公開

  "岩手のみなさんに元気を届ける応援歌を書いてほしい"  

 2020年から「おばんですいわて」のエンディングテーマとして放送中の「明日を」。
東日本大震災から10年を前に、二戸市出身の四兄弟ロックバンド SaToMansionに書き下ろしてもらったこの曲。あの日から11年となるいま、歌い続ける思いを聞きました。

バンド初のテレビ収録

2月上旬、彼らはNHK仙台放送局で収録に臨んでいた。

「あなたの伴走曲は何ですか?」

震災以降、一緒に歩んできた曲。自分の気持ちにそっと寄り添ってくれる曲。そして、そっと背中を押してくれる曲。ひとりひとりに"伴走"してくれた曲を紹介する番組だ。
■放送予定■
3月11日(金)午前3時12分~(全国放送)

NHKプラスはこちら(3月11日午後8時半まで)

あなたの伴走曲は何ですか?

この番組で、宮城県大和町出身で当時高校生だった女性の震災10年以降を支えた"伴走曲"として「明日を」をスタジオで演奏した。
SaToMansionの4人にとって、2015年の結成以来初めてとなるテレビ局での楽曲収録だったが、ボーカルの三男・佐藤和夫さんはいつも通り飄々としているようにみえた。

和夫さん:テレビにゲストで出ることはあるけど収録は初めてですね。テレビの現場は、人が多いなと思いますね。又吉さん(番組のMCを務めたお笑い芸人で作家の又吉直樹さん)と初めて会えて、こういう機会でもなかったら会うこともなかったので、そういう意味でも「明日を」という楽曲がいろいろな人とつなげてくれるんだなと思いました。この楽曲がなかったら仙台のNHKとも繋がることもなかったし、又吉さんも繋がるという「手を繋いで」という歌詞にもあったり、力のある曲なんだなと再認識しましたね。

明日を に込めた思い、そして葛藤

明日をがリリースされた2020年以降、作詞・作曲を担当した三男の佐藤和夫さんに何度もインタビューをしてきた。その中で「震災」という大きなテーマを扱う楽曲を制作することに悩み、葛藤してきたと胸の内を語ってくれていた。

和夫さん:今年(2020年)一番メインの曲が「明日を」という曲。1月にNHKから「震災をテーマにした楽曲をエンディングテーマに使いたいから書き下ろしてください」と依頼をいただいて、最初は断ろうと思ったんです。重たいテーマですし、僕みたいなもんがそういうテーマを取り扱うことができるのかという気持ちだったので迷ったところがあったんですが、去年すごく挑戦し続けて大変だったことが多かったんですが、挑戦して後悔したことは一度もないので今回も挑戦したいということで、一生懸命書きました。(2020年8月のライブにて)

NHKに仕事のオファーもらわなければ書いてなかった。大変じゃないですか、言葉選ばなければならないし、書いたからには責任があるし、正しい知識、表現の仕方をすごく考えた。 忘れていいものとダメなものと、いま節目じゃないと思い出せない。節目しか報道されない。節目にどでかく思い出して、平穏はありがたいと感じてほしいし、自分もメンバーも歌える楽しめるイベントがあることを感謝して楽しんで演奏しないと。コロナの影響でも思うし、ありがたいことなんだなと。 この曲を書いたのは、いくらか苦しみながら生み出した。特に歌詞が自分の中で整理できた。忘れちゃいけないものと振り切って前を向くもの、絶望な部分は表現したかったし、闇があるから光ある、うまく言葉にできてメロディーにのせられて、自分のモヤモヤしたものが形にできた。1番からラスサビに行くごとに心が整理される。楽曲に救われていると僕自身も思う。(2020年12月のインタビュー)

震災11年を越えて歌い続ける

「着地点がないまま宙ぶらりんでずっといたような10年だった。震災10年のタイミングで曲ができて、彼らの震災への向き合い方をみて、いろいろな立場の人がいていいと思った」
今回の番組の中で、「明日を」をリクエストした女性は楽曲に支えられた思いを語っていた。それぞれの日常を支える"伴走曲"の一つとして、この曲が生きる力になっていることについて、改めて和夫さんに聞いてみた。

ー 多くの人が背中を押されている

迷ってあっち行ったりこっちいったり何回も書き直したり、そうやって紡ぎ出した言葉たちなのでそれが正確に伝わっているというのが僕はうれしくて、皆さんのためになっている皆さんの力になっているというのが一番うれしい。(被災した)当事者からすると1年も3年も5年も10年も関係ないと思う。ずっとその時から戦っている。10年だから今更取り上げるのはおかしいという声もわかる。だけど、僕らみたいなもんは、節目と言われないと思い出さないことが多くて、日常生活、生きているだけ当たり前じゃない。コロナの状況もあって普通に活動できてることが当たり前じゃないと、僕らでいえばステージに立てることがすごいありがたいんだと何とか伝えようとしている。

ー11年、もう一歩進むためのエールを

変革というのは大事だと思っていて、震災後に変わったこともたくさんあるだろうし、今実際コロナもあって、変わることを恐れないようにしないといけないし、変わることを楽しんでいければいいと思います。新しいことにチャレンジして、変わらない部分や変わっちゃいけない部分は残しつつ、新しいことに何でもチャレンジしていって、それを一緒に楽しめればいい人生になるんじゃないかと思っています。

メンバーそれぞれの"伴走曲"は?

SaToMansionのメンバーそれぞれにとって、日々の支えとなる伴走曲とはなにか、収録後に書いてもらった。

〇長男 佐藤幸城さん

All Things Must Pass /George Harrison

一切は過ぎていく。楽しいことも辛いことも。
絶望のような希望の歌に心を揺さぶられます。

〇次男 佐藤英樹さん

くそったれの世界/ The Birthday

朝の憂鬱でくそったれの気分を、無理矢理ポジティブな気分に引きずり出してくれる曲。

〇三男 佐藤和夫さん

月が近づけば少しはましだろう/ASKA(SYMPHONIC CONCERT TOUR 2008)

決して前向きな歌詞ではないのに弱い自分を力強くさらけ出すASKA の圧倒的な表現力に、心の澱みが晴れていくような清々しい感覚を覚える。

〇四男 佐藤伸之さん

この胸の中だけ / フラワーカンパニーズ

この曲を聞くと、曲中の物語のように少年の頃の自分が背中を押してくれます。これからも「幸せってなんだろうね?」って思うたびに、何回でもこの曲を聞くと思います。

~取材をつづけて~

彼らの曲を初めて聞いたのは、いわてグルージャ盛岡の試合で流れていた"FLY AWAY"だった。青空に響く和夫さんの声が強く印象に残っている。
そして、2020年8月土砂降りの大船渡で行われた"伝説"のライブ。コロナ禍でライブ開催も危ぶまれた中、「明日を」を岩手県内で初めて演奏した様子を取材した。
和夫さんの「やっぱり俺は曲を一人でも多くの人に届けなきゃいけない。いろいろ大変なことがあるんですが、きっと震災のことを忘れるなっていうか、音楽をやれること、聞けること、楽しめることがどんだけありがたいことかっていうのを思い知れっていうことだと思うんですよね。もう一度思い出して、1曲、1音がすごくかけがえのないものだということを感じたい」というMCは忘れられない。撮影をしながら、彼らに応援歌を書いてもらってよかったと思った。
2022年も彼らの「明日を」とともに おばんですいわて をお届けする予定だ。一日の終わりに、彼らの曲でまた一歩踏み出す勇気を感じてもらえたらうれしい。

NHK盛岡放送局
ニュースディレクター 渡辺信之
2015年NHK入局 2018年から盛岡局
最近の"伴走曲"は 止まない雨の向こう/SaToMansion