ペットブームの陰で… 飼育崩壊・パピーミル 命を守るために私たちができること

NHK
2022年9月26日 午後9:00 公開

9月20日からの26日までの1週間は動物愛護週間でした。私たちに癒やしや元気を与え、友達や家族同様にもなるペットたち。そんな動物たちとどうつきあい、絆を深めていくのか、学び、考えようと設けられた1週間です。
しかし、動物愛護が呼びかけられている一方で、飼いきれなくなって捨てられたペットや、お金もうけのために無理な繁殖を強いられるイヌやネコ。そして、いきすぎた繁殖の結果、捨てられた子イヌや子ネコなど、人間の勝手な都合でもてあそばれている小さな命がたくさんあります。
癒やしを与えてくれるはずだったペットたちが、知らないところで傷つけられ、苦痛にさいなまれないよう、私たちに何ができるのか取材しました。

●ペット店の多頭飼育崩壊

ことし6月、奥州市の閉店したペット店で、イヌやネコなど約300匹が放置されているのが見つかりました(ネコ149匹、イヌ61匹、ニワトリ・ハムスター・金魚など合わせて約90匹)。私たちが暮らしているすぐ近くで多くの命が長い間、劣悪な環境に置き去りにされていたのです。

奥州市 問題のペット店

放置されていた動物たちはすべて保護され、今、飼い主を探して譲渡する活動が進んでいます。9月17日、奥州保健所が行った譲渡会で、訪れた人たちにこの出来事について感想を聞きました。

30代・男性
「(動物保護の問題に)関心を持っていければ、こういったことも減っていくように思います」

40代・女性
「1匹でも飼うことができればなあって、何か助けることができたらなと思って来ました」

10代・女性
「ここにいる子たちは全員生きている。そういう子たちが1匹でも多く救われるような日 本・世界になってほしいと思います」

奥州保健所譲渡会

(※ちなみにこの店で保護された約300匹のうち、9月9日の時点で、イヌ53匹、ネコ98匹、そのほかの小動物のすべてが新たな飼い主に引き取られています)

●パピーミル(子犬工場)の実態

この問題の発覚を受けて8月、県内で活動する動物愛護団体が岩手県に対し、問題のある業者への指導を徹底し、違反を見つけたら「措置命令」や「登録取り消し」など強い処分を行うよう求めました。この要請には5000人あまりの署名も添えられていました。
要請を行った団体の1つで代表を務める山屋歩美さんは「このペット店での問題は、まさに“氷山の一角”だ」と言います。
山屋さんは、かつてペットショップのトリマーや、ペットを育てるブリーダーのスタッフをしていました。そこで適切とは思えないペットの飼育を数多く見たといいます。その経験が現在の活動につながっているということです。

アニマルファースト 山屋歩美さん

山屋歩美さん
「親イヌ・繁殖犬を狭いケージの中で、身動きがとれない状態で飼育していたり、ご飯の量が少なかったり、お水をあげていなかったり、病気になっても病院に連れて行かずに、そのまま衰弱して亡くなってしまった子も見たことがあります。とにかくかわいそうで助けたいという気持ちで動いています」

その山屋さんが指摘する深刻な問題が“パピーミル”です。日本語に直訳すると「子犬工場」となります。

パピーミル 子犬工場

ペットブームの中、人気のある種類の子イヌや子ネコは、高額の値段(20万円~50万円ほど)で取り引きされています。そこで、なるべく費用をかけず「工場」のように、どんどん子どもを産ませて、販売する業者がいるというのです。
山屋さんはこうした“パピーミル”から保護したイヌの写真や映像を示しながら、実態を説明してくれました。

このうち14歳のオスのチワワは子犬を増やすためのいわゆる“繁殖犬”でした。保護された時、失明して耳は聞こえなくなっていました。歯もすべて抜け落ち、後ろ足は骨折、ストレスからなのか毛も抜けて、あばら骨が浮き出すほど痩せていました。そんな状態なのに病院へは連れて行かれず、治療もされないまま放置されていたということです。

繁殖引退犬 チワワ

狭いケージに閉じ込められたイヌの写真もありました。
今の動物愛護管理法ではケージの広さをイヌの身体の高さの2倍以上とすることなどが求められていますが、写っていたケージはイヌの背中が天井につくほどの高さでした。いずれも世話をするスタッフの人件費やエサ代などを抑えた結果、飼育環境が劣悪な状況になっていたということです。
山屋さんは、衰弱して生まれたために売れないと判断され、新聞紙にくるまれ、捨てられていた子イヌも見たことがあると話していました。

パピーミル 実態

そして、こうした問題を保健所に知らせても「目に見えた効果は表れない」と指摘しました。

山屋歩美さん
「お水を常に飲めない状態であったり、病気になっても治療を受けさせたりしない行為は動物愛護法違反になると明記されているのですが、保健所の判断では『それは虐待ではない』と。残念なことに働きかけをしても目に見えて効果が表れていないのが現状です」

このため保健所を管轄する県に、業者に対する指導の徹底や強い処分を求めたのでした。山屋さんたちの要請に対し県は「対応については検討中」としています。

●私たちにできること

なぜ対応が進まないのか?
理由の1つは業者側が立ち入り検査に応じないからです。直接的な証拠をつかめないと指導や処分はできません。
さらに職員が不足して手が回らないという事情もあります。業者への指導や立ち入り検査は、獣医師の資格を持つ「公務員獣医師」など特別な資格のある職員しかできません。
ただ、こうした職員はどこの自治体でも十分にそろっている訳ではありません。そのうえ、動物に関する近所トラブル対応や家畜の健康管理、食肉の検査、飲食店の衛生指導など複数の業務を抱えています。つまり、指導や監視に十分に時間をさけないというのが実情です。

ペットをめぐる政策に詳しい成城大学法学部の打越綾子教授は、まず指導や処分を行う自治体の側にもっと強い権限を与えることが必要だと指摘しています。業者側が立ち入り検査を拒めないよう条例や要綱を整備する必要があるとしています。
また、人手不足については専門家が集まる学会でも課題として指摘されていて、どうしたら獣医師などの資格を取った学生が自治体に就職してくれるのか議論も始まっているということです。

成城大学 法学部 打越綾子教授

さらに打越教授は、私たちにもできることがあると話しています。ペットを迎える際、ちゃんとした業者かどうか見極め、問題のある飼育は許さないという強い意識を持つことが不可欠だとしています。

成城大学法学部 打越綾子教授
「動物取扱業者をめぐる課題は昔からあって、そこに十分な手立てができてこなかった経緯はあると思います。これを改善していくのにはどうしても時間がかかる。ペットを迎える時に、その子の生まれた環境とか、親イヌ、親ネコの状態を確認する。それが正確にできなくても、それをするという社会的風潮を作っていくことが大事だと思います」。

成城大学 法学部 打越綾子教授

【動画】「ペットブームの陰で…」(おばんですいわて 2022年9月21日放送)

【取材後記】

ペットショップのショーケースの中で愛らしい姿を見せるイヌやネコたち。そんなペットたちの親について考えたことがある人はどれだけいるでしょうか?私も取材を進めて実態を知るまでは、実は深く考えたことはありませんでした。
現状を知ることで、ペットを飼う人1人ひとりが知識と意識を持つことができ、不幸な連鎖を生まないことにつながることを祈っています。優良なブリーダーやショップももちろんたくさんいますが、悪質な業者もいるということを心に留めていただき、いざペットを飼うという時は衝動的ではなく時間をかけて判断してほしいと思います。 
ペットをアクセサリーのような感覚で選ばず、生き物として尊重し、愛情を注いでいく。それが問題の解決にもつながるのではないでしょうか。

NHK盛岡放送局 キャスター 中條奈菜花

NHK盛岡放送局 キャスター 中條奈菜花