プラ新法施行から8か月 県内の取り組みは

NHK 矢野裕一朗
2022年12月20日 午後3:49 公開

新たな法律とは?

環境汚染につながるプラスチックごみの回収やリサイクルを強化するための法律、プラスチック資源循環促進法が4月に施行され、12月で8か月となりました。

この法律ではまず、使い捨てのプラスチック製品を大量に提供する企業などに対し、別の素材に替えたり、有料化したりして削減するよう求めています。そして自治体に対しては、プラスチックごみを分別回収し、再び製品などにリサイクルするよう求めています。すでに多くの自治体が食品トレーや卵のパックなどを回収していますが、新しい法律ではリサイクルの対象として、おもちゃや洗面器など、これまで燃えるごみとして回収してきたごみを加えています。

しかし、施行を受けて何か新しい取り組みを始めたか県内の33市町村に尋ねると、「実施していない」あるいは「検討中」と回答したのは31市町村に上りました。なぜ、進んでいないのか。岩手町で11月に行われた取り組みを取材しました。

耕運機を動かしたのは

岩手町で11月行われた実証試験です。

テストで使われたのはこちらの耕運機です。燃料が入れられると耕運機は動きだし、テストは成功でした。

ただ、テストで注目されていたのは耕運機ではなく、こちらの燃料です。この燃料、実は岩手町で回収されたプラスチックごみから作られているのです。耕運機を使う農場もたくさんプラごみを出しています。その数、町内だけで年間およそ90トン。これまで町役場と協力して処分していました。

(酪農家の千葉一幸さん)「酪農家にしてみれば今までやっかい者だった牧草ロールの包装紙などのごみが、こういった形で資源としてまた使えることはいいことだと思います」

燃料のもとの“プラごみ” 初めての分別回収は

人口およそ1万2千人の岩手町。年間、およそ3800トンのごみが排出されます。環境省の調査では、家庭から出るごみの1割強がプラごみとされています。

岩手町ではこれまでプラごみの分別回収は行われず、白いトレーを除いて燃えるごみとして捨てられていました。今回、今後を見据えて、婦人会のメンバー50世帯を対象に分別回収の実証試験が行われました。分別は新たな手間なだけに、メンバーにチラシを配って徹底を呼びかけました。

(岩手町婦人団体連絡協議会 岩崎幸子さん
「地球規模で海洋性ごみやマイクロプラスチックが問題となる中、次世代の子どもたちのことを考えても、いま、私たちもやれるところから何かに取り組まないといけないなと思い、協力しています」

町は、どれだけのプラゴミが出るのかも探るため、町民に対して回収前の1か月間、プラごみを家庭でためるよう求めました。そして回収の日。ごみを持ってくる町民の反応は。

(町民)

「ふだん何気なしにごみを捨てていたけど、よく見ればかなりのものがプラごみでね、プラ、プラ、プラだって一生懸命集めて入れました」

「プラごみはたまりやすかったです。分別の難しさはなかったです」

分別回収に肯定的な意見が多く聞かれました。今回の実証に協力した50世帯がひと月に出したプラごみは約240キロ。分別できているかどうか、婦人会がチェックしました。銀紙を入れるなど若干の勘違いはありましたが、分別はおおむね徹底されていました。

(岩手町婦人団体連絡協議会岩崎幸子さん)「うれしいですね。分別の意識は、みなさんちゃんと持ってくれたんだなと感じました」

半分はリサイクルされず それなら…

岩手町は、回収したプラごみについて、ペレットにして再びプラスチックにする時の原料にするという計画を構想しています。ただ、ペレットにできるのは、回収したプラごみの半分ほど。もう半分はリサイクルには向かず、焼却するしかありません。これでは余分なCO2も排出してしまいます。

そこで、燃料にすることにしたのです。ペレットにできないごみも、こちらの油化装置に入れて加熱すれば油になります。CO2も排出されません。

ただ、こうした装置は町内にはありません。また、ごみをペレットに加工できる業者も県内にはありません。町がこの枠組みでリサイクルを始めるとなると、燃料をつくる装置を設置する費用も、ペレットにするためごみを県外に運ぶ費用も、町民が負担することになります。町は費用や効果をよく分析し、町民に説明したいとしています。

岩手町 みらい創造課 熊谷洋造さん「プラごみの分別をするとこんないいことがあるんだと、恩恵を感じていただくことが、町民の皆さんのリサイクルへのモチベーションを高めることにつながると思います。費用面や環境面にどう好影響があるかというところをしっかり分析して皆さんに伝えながら、この“岩手町モデル”ができていけばいいなと思います」

おわりに

自治体が、プラスチックごみの分別回収やリサイクルを行うには、まず費用がかかります。それに、回収業者やリサイクル業者の選定、さらには処理施設の検討や、共同で処理を行う自治体との連携など、多くの調整も必要になります。法律が施行されても多くの自治体でリサイクルが進んでいないのはこのためです。

さらに、実際にリサイクルをやるとしても長距離輸送をしたうえ、リサイクルに向かないごみは焼却されてしまいます。これでは何のために苦労して分別回収をやるのかと思わざるを得ません。

岩手町ではさらに費用はかかりますが、燃料に加工することで、焼却するプラごみを減らそうと模索しています。実証試験のあと、町民から「資源になると思えばやりがいになる」といった声も寄せられたということです。

ごみを減らして環境を守り、子どもたちに残していくには当然コストがかかります。それは不要なコストなのか、出さなければいけないコストなのか、町は住民に丁寧に説明し、納得してもらたうえで取り組みを進めていきたいと話していました。

盛岡放送局 記者 矢野裕一朗

福岡県出身。2018年NHK入局。盛岡局は初任地。現在は行政、選挙、医療などを担当。日ごろから熱心にプラごみの分別を行っています。

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