パリ・シャンゼリゼ通りに“チャグチャグ” 岩手の「馬コ」文化、世界へ

盛岡放送局 記者 梅澤美紀
2022年9月27日 午後3:39 公開

岩手の代表的な伝統行事「チャグチャグ馬コ」が、パリで披露されました。「馬搬」と呼ばれる伝統技術を継承する遠野市の男性が、フランスで開かれる馬車レースの大会に招待されたことがきっかけとなって実現したものです。「南部盛岡チャグチャグ馬コ同好会」のメンバーも渡仏し、現地の「馬コ」とともにシャンゼリゼ通りを歩きました。

【動画】「おばんですいわて」9月27日放送

岩手の初夏の風物詩「チャグチャグ馬コ」

岩手を代表する伝統行事「チャグチャグ馬コ」。江戸時代、農作業を手伝った馬に感謝しようと始まり、初夏の風物詩として続けられてきました。

チャグチャグ馬コ 2022年6月

華やかな装束をまとった数十頭の馬が、はんてんなどを着た子どもを背に乗せ、滝沢市から盛岡市までのおよそ14キロメートルを「チャグチャグ」と鈴の音を響かせながら行進します。去年とおととしは新型コロナウイルスの影響で中止となりましたが、ことし6月、3年ぶりに開催。待ち望んだ多くの人々が、行進を見ようと集まりました。

フランス招待のきっかけ-遠野市の「馬方」

なぜ岩手の伝統行事が今回、初めてパリで披露されることになったのか。きっかけには、遠野市の「馬方」の存在があります。

遠野市の馬方 岩間敬さん

岩間敬さん(44)。

農林業の機械化が進み馬の活用が少なくなった今も、馬を使って田畑を耕す「馬耕」や、山から切り出した木を馬で運び出す「馬搬」を受け継いでいます。特に、山を傷つけることなく木材を搬出する馬搬の技術は高く評価されていて、11年前からはヨーロッパ各地の馬搬の大会に参加し、優勝経験もあります。また、農林業において今も馬文化が根付くフランスの技術者を日本に招待し研修会を行うなど、馬を通してフランスとの交流を深めてきました。

こうした縁もあり、今回、フランス政府主催の「ルート・ドゥ・ポワソン」という馬車レースの大会に招待されたのです。

同時に、日本の馬に関わる文化を紹介してほしいと依頼され、「南部盛岡チャグチャグ馬コ同好会」にも掛け合い、「チャグチャグ馬コ」を現地の馬で再現することになりました。

岩間敬さん 「チャグチャグ馬コも、もともとは『働く馬』が本質にある。これを機に日本、岩手のみなさんに働く馬について知ってもらい、馬の活用について考えるいいきっかけになったら嬉しい」

いざ、フランスへ

今月14日。盛岡駅には、「チャグチャグ馬コ」のはんてんを着た「南部盛岡チャグチャグ馬コ同好会」のメンバー3人の姿がありました。

南部盛岡チャグチャグ馬コ同好会 菊地和夫 会長 「期待と、ちょっと不安もありますね。国を挙げての馬の祭りということで、フランスの方々に日本の、岩手の馬事文化を披露してきたい」

南部盛岡チャグチャグ馬コ同好会 青年部 鈴木学さん「緊張しています。パリでお店やっている方々もお店を休んだりしてたくさん集まってくれそうなので、一緒に楽しんでいきたいなと思います」

南部盛岡チャグチャグ馬コ同好会 盛岡駅を出発

参加者に着てもらうはんてんや馬の背に敷く布などを持って、フランスへ出発しました。

シャンゼリゼ通りに響いた“チャグチャグ”

そして迎えた当日。

ヨーロッパ各地のチームが馬車レースのゴール地点である凱旋門に着々と到着するなかに、岩間さんの姿もありました。

チャグチャグ馬コの準備

レース後に行われるパレードに向けて、「チャグチャグ馬コ」の準備を始めます。
用意されたのはペルシュロンという、体重が1トン近くになる大型の馬。岩手でチャグチャグ馬コに参加する馬の多くもこの種類で、フランスのペルシュ地方にルーツをもちます。岩間さんと8年以上交流のあるフランスの馬主から調達しました。

同好会のメンバーも立ち会い、事前に岩手から送っていた装束を、現地の馬に飾りつけます。沿道には準備段階から、立ち止まってもの珍しそうに見たり写真を撮ったりする人たちの姿がありました。

写真を撮っていた観客

写真を撮っていた観客 「フランスの馬はこんなに豪華に着飾ることはない。本当に美しいと思う。200年前からあるの?江戸時代なのね。この飾りは日本の芸術表現において何を意味しているのかしら。もっとたくさん知りたい」

そして、いよいよパレ-ド開始。

シャンゼリゼ通りを歩くチャグチャグ馬コ

馬の背に乗るのは、パリに住む日本人の子どもたち。大使館職員の家族やフランスの馬主なども、馬の引き手として参加しました。凱旋門を出発し、大統領官邸であるエリゼ宮を目指してシャンゼリゼ通りを歩きます。ひときわ目立つ日本の馬文化に、沿道の観客たちはカメラを向けていました。

南部盛岡チャグチャグ馬コ同好会 菊地和夫 会長

南部盛岡チャグチャグ馬コ同好会 菊地和夫 会長 「鳥肌が立つくらい感動しました。この先あるかないか分かりませんけれども、素晴らしいシャンゼリゼ通りを行進できてとても良かった。馬の頭数とか、チャグチャグ馬コやる人が減ってきてますけれども、何とか努力をして、続けていけるよう努力していきたい」

岩間敬さん 「馬がいる意味、価値を理解して活用していく社会にしないと、文化もどんどん衰退していく。これを機に、なぜ馬が今の時代にあって生かされるのかという価値を考えてこれから進んでいければ、良い方向にいくんじゃないかと思う」

働く馬に感謝しようと始まり、続けられきた「チャグチャグ馬コ」。馬を大切にするフランスの人たちにも、まつりの心は伝わったようです。

フランスでは今でも、ワインをつくるためのブドウ畑で農耕馬が使われたり、ゴミ収集に馬車が使われたりするなど、馬が現役で働いています。岩間さんは今回の参加を機に、フランスとの間で馬の活用に関して情報交換や文化交流をいっそう進め、日本国内での馬文化の再評価にもつなげたいとしています。

NHK盛岡放送局 記者 梅澤美紀

NHK盛岡放送局 記者 梅澤美紀
令和2年(2020年)入局
経済、国際、災害取材などを担当
岩手3年目。ことし初めて「チャグチャグ馬コ」を見ることができました。