「空前のペットブーム」と言われてから久しく、現在、人と暮らす犬と猫は、全国に約1605万2000匹いると推定されています(一般社団法人ペットフード協会調べ)。
また、犬や猫だけでなくペットたちの種類も多様化しており、ウサギやハムスターなどの小動物、インコやカナリアなどの鳥類、コイや金魚などの魚類も大切に飼われ、家族の一員としてともに生活している人もいるでしょう。
しかしその一方で、適切な環境で飼育しなかったり、金銭的な面で飼い続けることができなくなり手放したりする人がいるのも事実です。
全国では令和2年度、2万3700匹あまり(環境省調べ)の犬や猫が殺処分されました。
岩手県内のペットを取り巻く現状や、行き場をなくしたペットたちとそれを救う動物愛護団体、関心が高まっている預かりボランティアについて取材しました。
●岩手県の犬猫の保護数・譲渡数・殺処分数
令和2年度の岩手県のデータです。
保健所に保護されたあと、新しい飼い主のもとへ譲渡された犬や猫は、596匹と、この6年で2倍近くに増えています。これにより、殺処分は4分の1にまで減りました。
ただ、飼い主から捨てられるなどして保護される犬や猫は、ここ数年そこまで減っていないというのが実情です。
●ペット店で約300匹の動物が放置
こうした中、6月、奥州市の閉店したペット店に犬や猫など約300匹が放置されているのが見つかりました。(猫が約150匹と犬が約60匹、ニワトリやハムスター、金魚などが合わせて約90匹)
この店では、以前から何匹ものペットを1つのケージで飼っていたり、掃除が行き届いていなかったりしたことから、保健所が15年前から繰り返し指導していたということです。
今回の放置は店の経営者が亡くなり、引き継ぐ人がいない中、起きました。
300匹がいつから放置されていたかは確認できていないということすが、県は6月2日に放置の事実を確認したということで、翌日から残された動物にエサを与えたり、店を掃除したりしながら、県内9か所の保健所などに移して保護しました。
一方で、犬や猫については県内の動物愛護団体にも協力を求めて引き取りを進めました。
県がこれだけの規模の大量保護を行ったのは初めてだということです。
また、ハムスターや金魚などについても、飼養経験があり、飼養設備が整っている人に大部分が譲り渡されたということです。
ただ、鳥など一部はまだ引き取りが決まっていないということで、県のホームページに情報を掲載することにしています。
●余裕がない中でも「助けたい」動物愛護団体
ただ、今回動物を引き取った動物愛護団体も、実際のところ、受け入れに余裕があるわけではありません。
雫石町の動物愛護団体「動物いのちの会いわて」を取材しました。
この会は、飼い主がいなくなった犬や猫の保護活動を21年、続けています。
今回、奥州市のペット店から犬と猫合わせて60匹を引き取ることを決めましたが、すでに約300匹もの保護動物を抱えていたということです。
会では今回の受け入れを「緊急的なものだった」としています。
代表 下机都美子さん:「どんな事情があれ犬や猫に責任はないわけで、助けたい一心で保護しました。」
会が「緊急的」というのは、動物保護施設では今、スペースの確保が課題になっていて、新たな受け入れをしづらい状況になっているからです。
というのも6月に動物愛護法が改正され、保護施設での飼育の基準が変わったからです。
まず、ケージの数値基準が以下の通りになりました。
【分離型(ケージ飼育)の基準】※寝床や休息場所となるケージ
縦:犬猫ともに体長の2倍以上
横:犬猫ともに体長の1.5倍以上
高さ:犬は体高の2倍以上、猫は体高の3倍以上
【一体型(平飼い)の基準】※休息場所と運動スペースが一体的
床面積:犬は分離型の6倍以上、猫は分離型の2倍以上
高さ:体高の2倍以上、体高の4倍以上(2つ以上の柵を設け、3段以上の構造にする)
この結果、これまでより広くて高さもあるケージが必要になり、どこの施設も手狭になっているのです。
この法改正は、度重なる動物虐待や、多頭飼育崩壊の事件を受け、悪徳なブリーダーやペット店を減らすために行われましたが、動物を守る受け皿になる動物愛護団体にも適用されます。
いのちの会でも改正された基準にしたがって、これまでの3倍から4倍の大きさのケージに移し替えていますが、収容できる数には限界があります。
また、動物の世話をするスタッフの数も変更されました。
1人のスタッフが世話できる動物の数が、犬は1人当たり20匹まで、猫は1人当たり30匹までとなり、これ以上の動物を保護するには、スタッフを増やさなければならなくなりました。
ただ、コロナ対策などの面からもボランティアを増やすのは難しいといいます。
●預かるというボランティアのかたち
こうした中で起きた奥州市のペット店での犬や猫の放置。
そこで、会が勧めているのが「預かりボランティア」という制度です。
新たな飼い主が見つかるまでの間、一般の住宅で一時的に預かって世話をしてもらいます。エサ代や通院代などの費用は、必要に応じて会が負担します。
資格はいりませんが、会では岩手県内に住んでいて、家族の同意も得られている人、そして適切な飼育環境がある人に依頼しています。
預かりボランティアに応募した人を取材しました。
名前や年齢、住んでいるところなどは匿名という条件で、話を伺いました。
この女性は奥州市の猫4匹を預かりました。
会の譲渡会をボランティアとして手伝ったことはありましたが、保護された猫を預かったのは初めてだということです。
会の活動に賛同していて、今回の大量保護が緊急事案だったことから募集に応じたということです。
預かりボランティアの女性:「できる範囲のケアをしていい状態にして新しい飼い主のところへ出してあげたいです。」
女性によりますと、保護された猫たちはみな大なり小なり人間に不信感を持っているそうです。そうした猫たちにエサを与えたり、室内で遊ばせたり、毎日のケアの中で、人との信頼関係を築き直すのが預かりボランティアの役割です。
時には病気の治療をすることもあるということで、「預かり」とはいうものの、気楽な気持ちや興味本位でできる仕事ではないと話していました。
●広がる預かりボランティア
いのちの会では、受け入れた60匹のうち、すでに半数以上の預かり先が決まっているということです。
会を取材した際にも、預かりボランティアの希望者が来ていました。
報道を見て奥州市のペット店での出来事を知り、力になりたいと、ニュースで対応を進めているとして紹介されていたこの会を訪れたと話していました。
一方でボランティアは、それなりの環境やスキルがないと務まらないので、会は丁寧に説明や面接をしていました。
会は、今後、こうした個人の協力者を増やして、一匹でも多くの犬や猫を救っていきたいとしています。
一方で、会は今回のペット店での放置は、規模こそ300匹と大きなものでしたが、1匹、2匹の単位ではよくあることで、決して珍しいことではないとしています。
大量に放置されていたので、広く報道され、社会にインパクトを与えましたが、ふだん報道されていない中にも捨てられたり、放置されたりといった悲惨なケースがあり、そうした事実を知ってほしいとしています。
代表 下机都美子さん:「より広く力を出し合わなければ助からない。そのために行政とか個人とかほかの団体とか、力を合わせて解決していく。前進していないように見えるんですけど、でも精査していくと確実に前進はしているんです。だからそこを力にしたい。」
預かりボランティアについては「動物いのちの会いわて」へ電話で問い合わせるかホームページをご確認ください。
電話 019-691-1770
保護動物の譲渡については、各愛護団体で準備が整い次第始めていくほか、
岩手県のホームページからも譲渡会情報を見ることができます。
【取材後記】
奥州市のペット店から県が保護した動物が、殺処分されるやパルボウイルスに感染しているなどのデマがSNSで拡散され、動物たちのために尽力している県や動物愛護団体が疲弊することはよくないと感じ、この件に関して真実を伝え、支援の輪を広げたいという思いから、取材を続けています。動物たちを保護して終わりではなく、その後も動物のケアをして、新たな飼い主を探すという草の根の活動は日々続いています。このようなことが繰り返されないためにも、動物を飼う人は最後まで責任を持って世話をするということが大事ですし、自分の置かれている環境を踏まえて飼わないという選択をすることも必要です。ペットも人間も同じ命ということを認識し、どちらにとっても幸せな未来が訪れるような社会であってほしいと願います。
NHK盛岡放送局 キャスター 中條奈菜花