災害救助犬いまも山積する課題

眞野隼伸
2022年3月29日 午後7:41 公開

●災害救助犬いまも山積する課題●

災害現場で人のにおいを頼りに救助を待つ人などを捜し出す災害救助犬。東日本大震災やその後に発生した熊本地震、北海道の胆振東部地震など大きな災害では必ずといっていいほど災害救助犬が捜索に参加しています。

東日本大震災の発生から11年がたった岩手県の災害救助犬をめぐる状況はどうなっているのか。取材を進めてみると、当時と大きな変化はなく、課題が山積していることが見えてきました。

●震災の記憶を胸に今も災害救助犬を育成●

雪の残る盛岡市内を駆ける1歳のジャーマンシェパード。災害救助犬になるための訓練を日々行っている「つる」です。

訓練を始めてまだ6ヶ月ですが、指示に従って、物陰に隠れた人を見つけるとほえて居場所を知らせるなど災害救助犬として必要な動作を学んでいます。

訓練をしているのは飼い主の四戸正子さん。災害救助犬の育成や派遣を手がける民間のNPO法人の理事を務めています。

災害救助犬は国の決まった規定があるわけではなく、全国に40以上ある団体がそれぞれの規則に従い認定をしているということです。

四戸正子さん

「今はもう本当に初歩でボールや餌を使ったり、ご褒美でその行動があっているということを教えている段階」

15年以上災害救助犬の育成に携わってきた四戸さん。育成を始めて4頭目となる「つる」も災害救助犬にしようと訓練に励んでいます。

普段は会社員として働く四戸さんは、出社前の朝や帰宅してからの夜、さらには週末の時間を使って災害救助犬の育成を続けています。育成の負担も大きいなか、それでも訓練を続ける背景には東日本大震災での経験がありました。

●東日本大震災で生存者見つけられず●

11年前の東日本大震災の際、四戸さんが所属する団体は発生2日後に岩手県沿岸部に入りました。沿岸3県でのべ19日間、災害救助犬68頭と訓練士102人が出動しましたが生存者を見つけることはできなかったということです。

四戸正子さん

「現場は建物など跡形もないような状態で言葉では言い表せない状況でした。犬は一生懸命探しているのですけども、生存者を見つけられなかったのは残念なところです」

東日本大震災のような津波で甚大な被害を受けた現場では人のにおいを頼りに捜す災害救助犬にとっては、さまざまなにおいがあり、捜索が難しい部分もあるということですが、もう少し早く団体のメンバーが現場に入ることができれば、もしかしたら生存者を見つけられたかもしれないという思いもあるということです。

●県と協定も出動要請は…●

実は震災発生4か月前の平成22年(2010年)11月、四戸さんのNPO法人を含む2つの災害救助犬団体は岩手県と災害時における災害救助犬の出動に関する協定を結んでいました。

その協定の内容は岩手県が災害現場で活動する消防や警察、市町村からの求めを受けて初めて団体に出動要請を出すというものでした。しかし、当時、未曾有の大災害で混乱が続く中、県から団体に出動要請が出されることはありませんでした。

災害救助犬と現場に入って生存者の救出につなげたい。その一心で四戸さんの団体は発生直後の県庁に出向き、何か出来ないかと声を上げたといいます。すると、反応がかえってきました。

四戸正子さん

「県庁にいた消防の人が『自分たちのチームで災害救助犬を使います』ということで手を  あげてくれて、その時に消防の人が手をあげてくれなかったら、おそらくもじもじしているような状態が続いていたと思う」

●現場の理解を深めるために●

この経験から四戸さんたちは県から早期に出動要請が出されるためには現場で活動する消防や警察、自衛隊などの理解が不可欠だと考えるようになったといいます。そのため県内にとどまらず毎年のように各地の防災イベントに参加し、災害救助犬の認知度向上に努めてきましたが、現場での災害救助犬の利用にはまだ大きな壁があると四戸さんは感じています。

四戸正子さん

「消防や自衛隊や警察の人たちに理解してもらう場はまだまだできていない状況。現場に出て災害救助犬が活動できるいかせるというところにはまだまだたどりつけていない」

現場で捜索活動を行う消防などは「災害救助犬」の存在は把握していますがどんな捜索に加わってもらうかや、災害救助犬と行動をともにするハンドラーの現場での安全を確保できるのかなど懸念材料もあるという声も聞こえています。

また、四戸さんなどの団体に出動を要請する岩手県は災害救助犬の運用はあくまで現場が判断することだとして震災発生以降、災害救助犬の団体との協定内容の見直しなどは行っていません。育成や派遣が委ねられている災害救助犬の民間団体にも課題はあります。四戸さんとともに震災当時、現場で活動した犬はすでに引退しています。現在、訓練中のシェパード「つる」が今後、災害救助犬として認定されないと四戸さんの団体では災害が発生したとき、すぐに県内で活動できない状況になっています。

四戸正子さん

「育てるところから現場で使うまでの体制がちゃんと整っていないというのが現状です」

●変化に向け独自の取り組みも●

こうしたなか、災害時の迅速な運用につなげようと独自に動く自治体も出てきています。震災で大きな被害を受けた大槌町です。

大槌町では6年前に町内に住む災害救助犬の飼い主と災害時の出動に関する協定を締結しました。県などを介さず大槌町が直接、災害救助犬の飼い主に出動を要請することにしたのです。

大槌町 防災対策課 平野圭 主任

「救助活動を迅速かつ円滑に行うのが目的。犬の嗅覚はある意味、有能な探知機の役割を果たすと思う災害に対応するための1つの武器になるのではないかと考えています」

この協定を結んだことで、大槌町では災害対策本部のメンバーに災害救助犬の飼い主を加えたほか災害対策本部に犬用のテントの設置を認めるなど実用的な運用に向けた調整も進められています。

大槌町 防災対策課 平野圭 主任

「県内でも前例がない部分になっていて、まだわからない点もあるが、大槌町がまずお互いに協力し合っていい意味で先行事案みたいな形でほかのところにも広められたら幅が広がっていくととらえている」

いつ起きるかわからない災害で少しでも多くの命を救う一助に災害救助犬を今後、どういかしていけるのでしょうか。

四戸正子さん

「災害時の第一線で動くためには行政の力添えも必要になるし、救助犬が訓練している特性とかもちゃんと理解してもらい、ピンポイントですぐに活用できる体制ができればいいなと思っている。現場で使えるようになるまでは育成などを頑張っていきたいです」

●取材後記●

震災から11年、ハード面での復興・復旧などが進められる裏で災害救助犬という「もしものための備え」は後回しにされてきてしまったのかもしれません。災害救助犬に関わる人のなかには、災害で家族を失った経験から育成を始めた人や生活を犠牲にしながら育成を続ける人たちがいます。原動力となっているのは、いつか来るかもしれない災害時に救助を待つ人を少しでも早く助けたいという思いです。それは防災や救助に関わるすべての人に立場を越えて当てはまるものだと思います。迅速な運用に向けて、いまだ多くの課題を抱える災害救助犬。震災で甚大な被害を受けた岩手県だからこそ、活用のしかたや育成の面も含めていろいろな立場を越えて考える時期を迎えているのではないでしょうか。

盛岡放送局宮古支局 記者 眞野隼伸

平成31年(2019年)入局

現在、宮古支局で宮古市・山田町など沿岸部を中心に取材。

犬と猫なら断然!犬派です。

趣味はサッカー。宮古市にあるチームに所属中。