”値上げの冬” 福祉を支える市民の力

NHK
2022年11月17日 午後0:08 公開

相次ぐ食品の値上げや記録的な円安による物価高。その影響が老人ホームや子ども食堂の運営に出てきています。こうした中、困窮する施設を支えようという動きが岩手県内でも始まっています。取り組みを取材しました。

2022年11月17日 おばんですいわて放送

▼相次ぐ値上げ 節約を重ねても…

老人ホーム 高齢者 施設

物価高騰の直撃を受けているのが福祉施設です。盛岡市浅岸にある特別養護老人ホーム(特養)では、相次ぐ食品の値上げによって、食事の材料費が前の年に比べて、月によっては20万円以上かさんでいるといいます。この特養では、利用者90人と地域の高齢者世帯から頼まれている昼と夜の弁当、あわせて100食以上を作っています。その材料費は、ひと月で200万円前後に上るといいます。

食事 値上げ 食材費

では、出費がかさんだ分、食事代や弁当代を値上げできるかというと、話はそう簡単ではありません。特養は介護保険料で運営されていることから利用料が決まっています。料金の見直しが行われるのは数年に1度。今回のような急な物価変動には対応できません。また、食事のカロリーや栄養価も国の基準で決まっていて、量を減らしたり安いメニューに変更したりするのも容易ではないのです。そこで、施設では弁当の容器を安いものに変えたり、容器を止める輪ゴムを無くしたりと節約を重ねています。

弁当 容器 節約

【施設の栄養士】
「食材はできれば変えずにそのまま出したいというところがあり、お弁当の容器を変えることで毎日5円とか10円でも節約できるのであれば、その分お料理の方にかけることができるお金が増えるので見直しました」

しかし、これで節約できるのは弁当1食あたり10円足らず。1か月でも1万円ほどにしかなりません。さらに、これからの季節は光熱費が追い打ちをかけます。例年冬は、電気代や灯油代が夏の2倍ほどかかるといいます。そんな時期なのに、電気料金も灯油代も高止まりしたままです。一方で、利用者の健康を考えるとエアコンはやはり24時間の稼働が必要ですし、お風呂や体を拭くのにお湯もかかせません。施設長の遠藤要さんは、この先の運営に不安を抱えていると話しています。

遠藤要施設長

【特別養護老人ホーム 遠藤 要 施設長】
「収入は一定なのに、支出は増える一方ですので、こうした状態が続けばいつか立ちゆかなくなることもあると思います。いつまで続くのか、どこまで値段が上がるのかっていうのは心配なところはあります」

▼子ども食堂 差し入れで支えられる

子ども食堂 値上げ

子ども食堂も同様に食品の値上げに苦しんでいます。盛岡市中ノ橋通にあるこども食堂では、7年ほど前から地域の子どもたちなどに無償で食事を提供する活動を続けてきました。しかし、このところの物価高騰の影響で、厳しい経営に直面しているといいます。毎月の食費は1年前と比べて3万円近く増えたといいます。

子ども食堂

ここでは、盛岡市から助成金を受けていますがそれだけでは足りず、金融機関から融資も受けるなどして運営を維持しているといいます。代表の沼田雅充さんはこうした運営を「ギリギリの状況」と説明してくれました。しかし頼ってくれる子どもたちの支援を諦めたくはないと経費を切り詰め、方々のつてを頼って運営を続けているといいます。一方で、明るい見通しもあります。

差し入れ ネギ

子ども食堂に対する市民の理解が進み、一定の寄付が寄せられているのです。これが運営経費を助けるだけでなく、職員のモチベーションにもつながっているといいます。私が取材した当日も農家の人が産直に出して売れ残ったというネギを差し入れに来ていました。寄付された食品の中には、手作りのパンケーキもあり、地域の人ができる範囲で支えてくれているそうです。ただ、こうした寄付を常に見込めるのかあてにはできません。沼田さんは安定的に支援できる仕組みづくりが必要だと指摘しています。

沼田代表

【沼田雅充代表】
「支える人たちと、支えられる人たちが一緒になって、それぞれの負担が少なく活動できるような仕組みっていうのを考えなければならない時期に来ているのかなっていう風に思いますね」

▼ふるさと納税で安定的な支援

梁川真一さん 産直 一関市

こうした中、その安定的な支援を始めたのが一関市です。ふるさと納税で子ども食堂への寄付を募り、返礼品の野菜を納税者に代わって子ども食堂に届ける取り組みを、ことし5月から始めました。きっかけを作ったのは、市内で産直施設を営む梁川真一さんです。傷や形の悪さから出荷できない“規格外”の野菜を有効に活用できないか、市役所に相談したのが始まりでした。

【梁川真一さん】
「農家のほ場を歩いていて、お店に出荷される商品以外のもので廃棄されているものがよく目についていました。こういったものをなんとかできないのかなと」

一方、梁川さんから相談を受けた交流推進課の松谷俊克さん。ふるさと納税を使ったSDGsの取り組みを考えていました。相談を受けて、ふるさと納税で“規格外”の野菜を子ども食堂に届けるアイデアを思いつきました。

【一関市役所交流推進課 松谷俊克さん】
「返礼品を誰かのためにという寄付者が増えていると聞いていたので、フードロスを抑えることもできて、子ども食堂の負担も抑えられて両方にとっていいアイデアになると考えました」

こうして、子ども食堂を支援しながらフードロスの削減もできる全国初の取り組みが始まりました。受け付ける寄付は、1万円から1000万円までとしています。寄付があり次第、送るのではなく、一定額に達するまで待ち、予定の金額が集まると、梁川さんが野菜を選んで発送し、代金は全額、農家に支払われます。送り先は「子ども食堂支援機構」から紹介を受け、困っているところを優先させているということです。5月に募集を始め、11月までに全国の29人からあわせて350万円が寄せられました。ことし9月には市内の子ども食堂に野菜を送り、11月15日の時点で、2か所目に送る準備も始めていました。

【梁川さん】
「子ども食堂の施設に物が集まらないと聞いていたので、こういった事業を通して応援出来ているという部分に関しては、本当にやってよかったなと思います」
【松谷さん】
「今回は子ども食堂ですけど、支援できる部分にフードロスとかSDGsの視点で展開できたら、それはすばらしいことかなと思います」

物価の高騰が生活のさまざまな部分を圧迫する中、市民ができる範囲で支え合う仕組みづくりが始まっています。

取材後記

取材のきっかけは、県の社会福祉協議会が行ったアンケート調査でした。物価や原油価格が高騰する中、岩手県内の高齢者介護施設や障害者支援施設の7割以上が、今後の経営への影響を不安視しているとした内容です。実情を伺おうと県内の複数の特別養護老人ホームを取材しました。
その結果、どの施設からも「収入が変えられない中、支出だけが増えていき、積み立てを崩し不安を抱えながら経営を続けている」という声が聞かれました。そうした施設に今後、どうするのか尋ねると「厳しい状況の中で自助努力は尽くしており、県や国からの支援がないともたない」という答えが返ってきました。
公的な支援を求める。これはもっともなことだと思います。ただ同時に、漠然とではありますが、もの足りない感じも受けました。行政に頼るだけでいいのだろうか。私たち市民にも何かすべきことーー身の丈にあった支援はできないのだろうか。そんな動きは出ていないのだろうか。さらに取材を進めました。そんなとき、子ども食堂の取材で、一関市が新たな取り組みを始めたことを知りました。
この取り組み、実は、市民から支援を受ける子ども食堂も、フードロスを減らすという観点では、農家を“支援する側”になっているんです。助けられるだけでなく、誰かを助けている。そんな関係の中でこそ、取り組みが「持続可能な」ものとなっていくのではないかと思います。そして、そんな取り組みや市民の意識が、ぜひ特養など、さまざまな対象に向けて広がっていってほしいと願っています。

NHK盛岡放送局 記者 渡邊貴大

平成25年(2013年)入局

福島、鳥取、広島で災害・経済・行政取材を担当