原発事故から11年半 埋められた“除染土”の行方

NHK
2022年9月13日 午前10:03 公開

11年前に起きた東京電力福島第一原子力発電所の事故でまき散らされた放射性物質による汚染は広範囲に及び、岩手でも学校の校庭や公園などで除染が行われ、はぎとられた土は同じ敷地内に埋め戻され保管されました。

しかし一時的な保管と見られたこうした“除染土”は運び出せないままの状態が続き、今も搬出のメドは立っていません。長期間に及ぶ“一時保管”の現状を追いました。

(NHK盛岡放送局 村上浩)

【今も続く放射線測定】

一関市内の幼稚園です。専用の機器を使って職員が調べていたのは「空間放射線量」です。

実はこの幼稚園には、除染作業で剥ぎ取られた土“除去土壌(=除染土)”が埋められているのです。職員は年に1回、こうして空間放射線量を測定。国の定めた基準値を上回っていないことが確認していました。

 (幼稚園の園長)

「こういうものがあるのはちょっと心配ですが、子どもたちは土いじりが好きなので、1年に1回チェックしてもらうことで安心」

 (一関市の担当者)

「例年どおりの数値で問題はないと思う」

【発端は原発事故】

11年前の福島第一原発の事故でまき散らされた放射性物質は200キロ以上離れた岩手にも降り注ぎました。

一関市と奥州市、平泉町の3自治体は国の費用負担で放射性物質を取り除く除染を実施。学校の校庭や公園などで剥ぎ取られた土は、放射線物質が雨で漏れ出さないよう遮水シートを覆った上で同じ敷地内に埋め戻して一時的に保管されました。

一関市での保管場所は200か所以上に上ります。それから10年以上たった今も除染土は運び出されることなく埋められたままです。

【福島では最終処分に向けた動き】

一方、福島第一原発が立地する福島県では県内の除染で出た土などの中間貯蔵施設への搬入が3月にほぼ完了しました。

法律で定められた2045年までの福島県外での最終処分に向け、国はこうした除染土を少しでも減らそうと、放射物質の濃度が一定の基準を下回った土を再生利用できないか実証実験を進めています。

【“見通しが立たない” 福島県以外の現状】

しかし、一関市など福島県外の除染土の処分をどうするかは見通しが立っていません。

国は茨城県や宮城県などで行っている埋め立て処分の実証実験の結果を踏まえてガイドラインを示すとしていますが、その時期は明確に示されないままです。

環境省のホームページ 「今後の進め方」2022年2月24日より

こうした中、一関市は市民の安全安心のため除染土がない場所も含めて市内500か所で放射線の測定・監視を続けています。

しかし、費用は自前。作業は各担当部署が通常業務とは別に行うため、すべての場所の測定結果がまとまるのは1年がかりになります。

(一関市市民環境部 小野寺愛人次長)

「何人もの職員が何日もかかって測定するので、負担に感じている」「国には早く処理方針のガイドラインを示して欲しい」

埋められたままの除染土について問題意識を持ち続けているのが市議会議員の千葉信吉さんです。9月の議会の一般質問で保管状況などを質しました。

(一関市議 千葉信吉さん)

「時間の経過とともに、この問題で質問するのは自分1人になってしまったが、風化させないために注意喚起している」

【“福島県内と県外で対応が大きく分かれている”】

この問題について、放射性廃棄物行政に詳しい信州大学の茅野恒秀准教授は、国の無責任さを指摘します。

(信州大学 茅野恒秀准教授)

 「一言で言うと国が対処すべき責任を放棄していて、福島県内と県外とで対応が大きく分かれていて県外の除染土については全く見向きもされず放置されている」

さらにこの状態がこの先も続くのではないかと危惧しています。

 (信州大学 茅野恒秀准教授)

「土壌の最終処分や再生利用については国の言ってるスピードでは国民の理解は得られないし、国のガイドラインを待っている状況ではもう10年、同じ状況が続く可能性もある」「そこに住み続ける住民の皆さんが一方的に被害者として問題が先送りされていく」

そのうえで、県と市町村の連携や被災地どうしの連帯が必要と助言しています。

(信州大学 茅野恒秀准教授)

 「福島と宮城岩手は置かれている状況が違うが、だからと言って対応が違うとなると当事者同士の分断を生む。直面している問題は大小差があるが同じ構図に置かれているとしっかり連帯していくのが大事」

震災と原発事故から11年半。

人の目に触れること無く地中で保管されている除染土の先行きは見えないままです。

【動画】「原発事故から11年半 埋められた“除染土”の行方」(おばんですいわて 9月14日放送)

【取材後記】

「震災について言及する際、岩手県では『東日本大震災津波』という表現がしばしば見られるように、とかく津波による被災ばかり強調されがちだが、原発事故による被害が見過ごされているのではないか」

2021年に引退した一関市の前市長が残したこの言葉が取材を始めたきっかけでした。震災後6年あまり、宮城・福島と被災地を渡り歩き、何か少しは知ったつもりになっていた自分は少なからず衝撃を受けたのを覚えています。

一関市内の除染土の保管場所は学校の校庭や幼稚園の園庭など200か所に上りますが、市では「子どもたちが興味本位で立ち入ってはいけない」などとして保管された場所の公表は控えられたまま10年以上が過ぎ、市民の関心も薄れつつあります。

こうしたことから、一関市を含む関係自治体の担当者からは「放射線量は着実に下がっていて、安定して保管できているので、このままでもよいのではないか」「そっとしておいて欲しい」といった本音の一方で、「毎年、確認できる空間線量よりも地中の放射性物質の濃度がどれだけ下がっているか分からない事の方が問題だ」との本質を突いた懸念も聞かれます。

原発事故のあと、福島県以外で除染土などを保管しているのは7県で合わせて55の自治体に上り保管量は31万㎥を超えています。

「当初設定された帰還困難区域」を除く地域だけでも1400万㎥とされる福島に比べれば少ないと言えるかも知れませんが、身近な学校の校庭や公園などの地中に除染土という放射性廃棄物が埋められたまま放置されていることは見過ごせないのではないか。

今後も国などの動向を注意深く見ていきたいと思います。

盛岡放送局 大船渡・陸前高田支局 記者 村上浩

1992 年入局。2012年から宮城・福島で被災地取材を続け、2020年から大船渡・陸前高田支局勤務。