“ついの住みか”に入ったけれど

大船渡・陸前高田支局 村上浩
2022年2月25日 午後4:10 公開

今泉団地の議論

「83歳で体の調子も良くないのでことしで辞めたい」

「やりたくないと言う人は代わり誰か推薦してほしい」 

「団地にどんな人が住んでるのか分からないので、誰かと言われても困る」。

陸前高田市の災害公営住宅・今泉団地に住んでいる人たちによるやり取りです。
およそ60世帯が暮らすこの団地では、佐藤章さん(80)と智子さん(76)夫妻が
5年前の自治会設立当初から会長と会計を務めてきました。

今泉団地自治会を支える佐藤章・智子夫妻

智子さん「今後の役員の選び方だけど、団地は2棟で1階から3階までで
     合わせて6班だから会長をそっちから出したら副会長こっちから出すとか、
     各班から必ず1人ずつ出るような選び方を考えないと、
     このまま固定されたみたいになってしまう」

章さん「今まで散々断られてきた。簡単に「交代で」などと言ってもらうけど、
    なかなかこの苦しみは分からない」     

この日、次期役員の人選について話し合いましたが、結論はなかなか出ません。
役員の人事については今後も話し合いを続けることになりました。

震災後、各地に整備された災害公営住宅では、高齢化が進む中、住民による自治会運営や 新たなコミュニティーの再生が課題とされてきました。

”ついの住みか”として移り住んだ災害公営住宅でいま、何が起きているのか。
支援を行ってきた専門家が指摘する被災地の課題です。

住民みんなで消防訓練

2021年10月、
今泉団地で住民たちが初期消火や救急救命などを学ぶ消防訓練が行われました。
この団地では高齢者が多く暮らしていますが、この日は普段は交流の少ない
子育て世帯の姿も見られました。

裏方はエキスパート

訓練の準備を裏方として6月から進めてきたのは
岩手大学復興・地域創生ユニットの船戸義和特任助教(43)です。

交流のきっかけにもしてもらおうと、
団地の自治会の役員だけでなくほかの住民にも役割を分担することを発案しました。
するとこの日の訓練には60人近くと予想以上の住民が参加しました。

住民「こんなに集まったのは初めて」。

船戸さん「多くの人が関わってみんなで時間をかけて準備したのがすごく大きなことで        これにより色んな会話が生まれたり協力が生まれたりと相互の関係ができたのは
非常に大きなこと」。

船戸さんとは

船戸さんは震災直後から各地の仮設住宅を回って被災者のコミュニティー支援を行い、
フィールドが災害公営住宅に移っても自治会の設立準備から関わるなどして
活動を支えてきました。
これまでに関わった団地は30か所以上に上りますが、時間の経過とともに自治会活動の停滞を懸念するようになりました。
住民の高齢化が進み、役員の担い手不足が深刻になっているほか、催しや会合などを通し自治会としての経験を蓄積していくことも難しくなっているというのです。

船戸さん
「震災から10年以上がたち、当時から役員として頑張ってきた方々も年を取って
 段々体が動かなくなってできていたことができなくなったり、
 体調を崩して役員ができなくなったりして担い手不足が深刻化している」

「高齢化のスピードが早くて経験を積んで
 自治会役員として次のステップに行くのが追いつかない」。

訪問活動

住民の高齢化は、各地の災害公営住宅の自治会長も深刻に捉えていました。
およそ140世帯が暮らす岩手県山田町の山田中央団地は住民の7割以上が高齢者です。

山田中央団地 甲斐谷久孝さん
「入居から5年経ってみんな年齢を重ねてるので、
 自治会の役員にも亡くなった人がいる。
 行事をやっても参加しづらいとか、
 避難訓練をやっても階段を降りたりできないお年寄りもいる」。

コロナも影響

さらに追い打ちを掛けているのが、新型コロナウイルスの感染拡大による
自治会活動の自粛です。

特にオミクロン株が猛威を振るった年明けからは限られた人数での役員会さえ開けない
団地もあります。
船戸さんは、経験の積み重ねができなくなっているだけでなく、この数年間で確立されていた各団地自治会のやり方とか経験も失われかねないと危惧しています。

支援も課題

一方で、災害公営住宅のコミュニティーを支援する側にも課題があります。
自治会運営の課題は、時間の経過とともに団地ごとに個別化されていきます。

こうした複雑な課題を
行政や地元の社会福祉協議会の担当者らが長期的に支援していかなければなりません。

船戸さん
「団地の入居直後は『住民が負担する共益費の集め方はどうするの?』とか
 『どんな行事を企画すれば住民が参加してくれるの?』といった
 比較的簡単な課題に応えていればよかった面もあるが、時間の経過とともに
 その団地固有の課題が顕在化して状況が複雑化している。
 一方で支援者の側にはその状況がどうなっていて、これまでの経緯がどうだったかを
 見極めるような経験が足りない、状況判断するための講習とか知見が不足している」「震災からの時間の経過とともに人も予算も減っていく中で高齢化が進み支援が
 より困難になっている」。 

今後の展望は

船戸さんは3月いっぱいで岩手大を退任しますが、
今後の活動は縮小したとしても
被災地のコミュニティーには関わり続けたいと考えています。

船戸さん
「これまで自治会や地域は自立してもらうことが前提だったが、無理な団地も出てくる。
 本当に支援し続けるならば
 高齢者だけが住む所を作らなければうまくいかない。
 それはある意味では特養のような方式がやりやすい」。

その上で行政にも注文をつけます。

船戸さん
「行政としてはずっと支援できる保証が無いという前提で地域と話し合っていくことが
 求められるのではないか。
 若い人たちが関われる機会をどうやって作るかとか、人材育成などに注力するべき」。

「私がやってきたのは話し合いの文化を創っていくことで、みんなが少しずつ力を出して
 力を集合しなければ解決できない時代になっている。
 その一歩として話し合いの文化が根付いていかないと決めることも決められない。
 災害公営住宅の中には、話し合いの文化の基礎の芽がある程度出ている団地もあるので
 それが育つように水やりをしたい」

取材後記

2020年の夏に今の任地に赴任してから、
船戸義和さんに同行取材した災害公営住宅の中には、
自治会活動が活発で、毎朝欠かさずラジオ体操をしたり、
会長選挙にすべての世帯が投票したりする団地がある一方で
会長1人が頑張っても周囲は「笛吹けど踊らず」で孤立感が増しやる気を失っていく
団地の存在も知りました。

さらに高齢化率が7割を超え、コロナ禍もあって行事ができないといった
団地の現状に“限界集落”という言葉も思い浮かんだりもします。
なかなか明るい展望が見いだしにくい現状ですが、
未曾有の災害を生き抜き、ついの住みかを見つけてもなお課題に直面している人たちを
今後も見つめていきたいと思います。

NHK盛岡放送局 
大船渡・陸前高田支局
記者 村上 浩
1992年入局 2012年から宮城・福島で被災地取材を続け2020年から現任地