捨てていた水が電気に? 解説します

NHK盛岡 記者 髙橋広行
2022年12月12日 午後4:46 公開

最近「電気」と聞くと、値上げとか需要のひっ迫とか、気持ちがめいるニュースが多いですよね。ですが、これまでは捨てていた水が電気に変わるという、わくわくするようなニュースが入ってきました。
どういうこと?髙橋記者、教えてください!

2022年12月12日「おばんですいわて」で放送
放送した動画はこのページの一番下にあります(掲載は放送から2か月間です)。

四十四田ダム 水力発電 水力エネルギー カーボンニュートラル 国土交通省 岩手県 盛岡市 発電所 電気 値上げ 需要ひっ迫 天気予報

髙橋記者)
はい!私がお答えします!

先月11月に、国土交通省と岩手県から発表があったんです。
盛岡市にある四十四田ダムで、8月に大雨でたまった水を、すべて放流せずに発電に回すという試験をしたところ、一般家庭およそ300世帯が1か月分に使う電力(80MWh)を増やせたというんです。

Q 放流せずに発電?どうしてそんなことができたんですか?

髙)まず、ダムの仕組みから知る必要があります。
下の図を見てください。

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多くのダムでも共通していますが、四十四田ダムにはゲートが2種類あります。

上にあるのが、たまった水を放流する「防災用」のゲート。これを操作するのは、国土交通省です。
一方その下にあるのは、水力で電気を起こす「発電用」のゲート。一般には、放流口と呼ばれています。この放流口は、点検を除いて24時間開いていて、水の力で直径3メートル近い水車を回し電気をおこしています。岩手県企業局が管理しています。

Q 防災と発電、2つの役割があるんですね。

髙)ここからが本題です。
通常、大雨で水がたまった場合は…

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すみやかに上部にある防災用のゲートを開けます。

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水量を減らした上で、次の雨に備えているんです。

Q つまり、水害が起きないようダムの上の部分は、大雨の時はできるだけ開けておきたいということですよね?

髙)その通りです。ダムには水害を防ぐという大きな役割があるからなんですが、一方で、ただ流してしまう水をなんとか有効活用できないか、というのが、今回の話なんです。

大きなきっかけは、おととし政府が宣言した「カーボンニュートラル」です。

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2050年までに温室効果ガスの排出量と吸収量をニュートラル、等しくするというもの。

国土交通省ではもともと、財政難の中で老朽化したダムをどう活用していくのかの議論を進め、2017年に『ダム再生ビジョン』を定めました。この中に、ダムの水力発電を増やすというプランが盛り込まれていたんですが、カーボンニュートラル宣言で、実行を急ぐことになったんです。

では具体的にどうするか。
夏場(7月から9月)、まとまった雨で水がたまった際、気象予報で大雨は半日から2日間はないと判断できれば、捨てる水は、安全のために必要な一部だけにして、すぐにゲートを閉じます。

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そして、残りの水を、下の発電用の放流口から、ゆっくりゆっくり流して、より多くの水を発電に回します。

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四十四田ダムで、今回上乗せできた発電量(80MWh)は、従来の手法と比べると8%多いということでした。

Q なるほど。電力需要のひっ迫、それから電気代高騰のニュースも続いています。こういうことなら、どんどんやって欲しいです!

髙)ただ、大きな課題があります。
それは、かなりまとまった雨が降らないと、この運用はできないということなんです。
さらに台風や豪雨となった場合は、安全のためにいちはやく水位を下げる必要もあり、たまり過ぎても、それが全て発電に回せる訳ではありません。
現在の基準では、水位が159メートルから159.8メートルの間にある場合、この運用が行えることになっています(四十四田ダムの洪水時最高水位は171メートル)。

Q 安全を優先しなければならないからこそ、条件が厳しいんですね。

髙)そうなんです。
同様の取り組み、今年度から全国27のダムで始まったんですが、国土交通省に取材したところ、実は大半のダムで、この試験自体ができなかったそうです。1回でもできた、四十四田ダムはレアケースと言えます。

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国土交通省北上川ダム統合管理事務所では、取り組みを重ねる中で、基準を緩和するなど、より効率的な運用ができないか、検討していくとしています。
“効率的な運用”に期待しましょう。

NHK盛岡放送局 記者 髙橋広行 高橋広行

NHK盛岡放送局 記者 髙橋 広行
埼玉県川越市出身。2006年NHK入局。広島局、社会部、成田支局を経て2019年から盛岡局。7歳と5歳の暴れん坊(甘えん坊)将軍の父親です。
自宅から近い、四十四田ダムには家族で何度も行っていて、ふだんは見られない監査廊(ダム内部の管理用の通路)も見学させてもらいました。子どもの社会見学にもオススメですよ。

●放送された動画はこちら↓

※放送から約2か月間掲載

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