解説者の視点! "名手"宮本慎也が語る『サードコンバート論』

NHK
2024年3月29日 午前8:30 公開

近年、実績のある選手たちのサードへのコンバートが相次いでいる。昨季途中、巨人・坂本勇人選手が34歳でショートからサードへ。今季は、33歳の楽天・浅村栄斗選手と31歳のロッテ・中村奨吾選手が、セカンドからサードへのコンバートに挑戦している。いずれも前のポジションでゴールデングラブ賞を獲得した実績がある中、30代前半の年齢でのコンバートだ。(※2024年2月21日スポーツオンライン掲載)

ヤクルトで19シーズンプレーした、NHKプロ野球解説の宮本慎也さんは、ショートとして6回ゴールデングラブ賞を獲得。38歳になる2008年シーズンの途中からサードへ転向すると、今度はサードとしてゴールデングラブ賞を4年連続で獲得した。そんな守備のレジェンドでもある宮本慎也さんに、このキャンプ取材中にサードコンバートの難しさと奥深さを伺った。

サードコンバートのメリット


宮本慎也さん

『まずは、体は楽ですよ。運動量で言ったら、内野手の中で一番少ないと思います。ファーストより楽ですからね。ファーストは守備位置から1塁ベースに入らなくてはいけないですし、その後に捕球もあります。サードは極端な話、守備位置そのままで顔だけ動かしたらよい時もありますから。だから、年齢を重ねてきた30代前半の選手たちにとっては、良いタイミングだと思います。野球人生は伸びると思います。ただその分、打たないと試合に出られませんけどね。また、別のポジションをやっていた選手がサードに行くと、慣れるまでが難しい。コンバート当初はその難しさがわからない。“やればやるほど”、難しさがわかってくるものです。』

守備の名手・宮本さんはサードコンバートについて、その難しさを4つ挙げてくれました

サードコンバートの難しさ ~その1・打球~


宮本さん

『まずサードは、ショートやセカンドと比べると打球の強さ・質が変わりますよね。打者との距離も近くなるため、その対応が求められます。打球も強く近くなるので、正面に入ると間に合わない。ある程度の打球は、体の横でシングルハンドで、基本的に“斜め”に捕りに行って、打球との距離を取るイメージでした。また、“右打者か、左打者か”によっても打球の質が変わります。右打者は、引っ張りの打者はトップスピンの打球が来るので差し込まれます。一方で、左打者の打球はスライス回転することが多いので、正面に入ろうとし過ぎると行き過ぎてしまいます。例えば、三遊間に飛んだ時に「間に合わない」と思ってショートやセカンドの感覚で打球を追ってしまうとスライス回転で行きすぎてしまうのです。ショートやセカンドは「足を使って守れ」と言われます。しかし、足を使い過ぎてしまうと打球とズレてしまうので、極端に言うと、動き出しを“一歩遅らせて”、体の横で捕るような対応をしていました。』

サードコンバートの難しさ~その2・景色~


宮本さん

“景色の違い”にも最初は戸惑いました。ショートの場合は、ピッチャーの延長線上にバッターも見えます。そのため、打球への反応もしやすいですし、ボールも追いやすい。でも、サードは、ピッチャーを横から見るため、ピッチャーを見てしまうと視界にバッターが入ってきません。そのため、基本はバッターを見て、バッターの反応が頼りになります。難しかったのは“右の好打者”への反応です。サードの位置から見ると、右打者は体でバットが隠れます。ほとんどの選手は、早めに体が開いてくれるので苦労はしないんです。しかし、本当に良いバッターは、体が開かずに最後に「パーン」とバットが出てくるので難しいんです。特に、阪神にいたマートンが難しかった。バットが出てくるのが遅いんです。極端に言うと、「見逃すかな」と思ったら最後に「パーン」とバットが出てくる感じ。「あっ!」と思ったら、その辺まで打球が来ているという感覚がマートンにはありました。』

サードコンバートの難しさ~その3・スローイング~


宮本さん

『スローイングは正確性がより求められます。前の打球に対しては、1塁への送球は角度が付く分、ファーストが送球を捕ることができる横幅は狭くなります。“送球の横幅のズレ”は悪送球になりやすいので気を付けなくてはいけません。また、“肩の強さ”も必要になります。ショートは動きながら捕ることが多いので、足を使って投げることができます。ただサードは、強い打球だと“足が止まった状態”で捕ることが多いですから、そこから力を起こしていかなくてはいけません。結構、肩の強さが必要だと感じます。』

サードコンバートの難しさ~その4・守備位置~


宮本さん

『守備位置は、まずアンツーカー(芝の切れ目)が邪魔になってくるので、すごく後ろで守るか、前で守ることで、“アンツーカーを消さない”といけません。また私は、3塁線に対して平行に右足を前に出していました。右足のラインに基準を作ることで、それよりも右側に来たら逆シングルと決めていました。そもそも、3塁線にボールが来る確率は低いので、左側と右側の打球について8対2くらいで自分の左側、つまり三遊間の打球を意識していました。バッターや状況によっても変えました。例えば、「変化球で引っ掛けそうだな」と感じたときは、3塁線に比重を置きました。阪神で活躍した赤星憲広が打席に入って、レフトがレフト線に寄っているなら、「3塁線を抜けてもツーベースにはならないな」と感じて、三遊間に意識をより強く持ちました。さらに、絶対に3塁線を抜かせてはいけない状況もあるので、その時々の状況、バッターによって対応していました。』

“サードの先輩たち”の言葉


宮本さん

『サードに移った当初、自分より先にサードを守っていた“サードの先輩たち”の言葉は参考になりました。例えば、当時中日の監督だった落合博満さんに、“バッターと正対して守るべきか”、“3塁線に沿って足を置くべきか”など、“守るときの体の向き”についてのアドバイスを頂きました。その他、“守る位置”については、サード歴が長い村田修一(横浜、巨人で活躍 現・ロッテコーチ)に指摘を受けました。私は「ツーベースになったら嫌だな」という心理が働き、3塁線寄りに守っていたんです。それを見た村田が「そんなに3塁線に寄って守ったら駄目ですよ。他のサードを見て下さい、そんなところにいないですから。基本的には3塁線にボールが来る確率は低いので」と言われました。また、グラブについては、小笠原道大(日本ハム・巨人・中日でプレー)からアドバイスを受けました。「サード用のグラブでしたら、網の部分で捕った時、打球が強いので簡単にグラブの紐が緩んでしまいます。グラブと網の結び目が多い方が持っていかれないですよ」と言われて、結び目が多いグラブに変えました。』

巨人・坂本勇人の“現在地”


今回、巨人のキャンプ地も訪れた宮本さん。そこには、昨季途中ショートからサードへのコンバートとなった巨人・坂本勇人選手がいました。

宮本さんの現役時代、ともにショートを守った坂本選手が宮本さんに弟子入りするなど親交のある2人。今回のキャンプでも、坂本選手にアドバイスを求められた宮本さんが、それに応じるシーンが見られました。

宮本さん

『シートノックを見て、勇人はまだわかっていないことがあるんだろうなとは感じました。ショートの動きのクセがまだ抜けていないなと感じる場面もありました。それは、捕球するときの“左足の使い方”です。本人から、「二塁への送球が上から投げにくいのですが、横から投げても良いのでしょうか?」という質問がありました。私は、「横からでも良いよ。さらに、捕球するときに“左足を前に出さない方が”、2塁に投げるときに楽になるはずだよ。そうすれば捕った体勢のままで投げられるから」と伝えました。ショートの時は左足を前に踏み込んでも対応できますが、サードだと2塁への送球は角度が付いて“自分の真横に投げる”形になるので、左足が前に出ていると邪魔になってしまうのです。勇人は、サードでも、ショートと同じように左足を前に出して捕球していました。そのため「三遊間の打球を捕球するときは、少し開き気味というか、“左足を下げる”と、そのままの流れでプレーできるよ」とも伝えました。勇人は「なるほど」と深く頷いていました。あれくらいの選手ですから理解すればすぐにできると思います。ただ、そこがわからないままになっていると、どんどん難しくなってしまいます。』

グラウンドでは、宮本さんからアドバイスを聞いた坂本選手がその場で動きを確認するようなシーンも見られました。

セカンドからの挑戦


一方で、今季は楽天・浅村栄斗選手、ロッテ・中村奨吾選手に代表されるように、“セカンドからサードへのコンバート”も相次いでいる。

自主トレーニングでサード守備を練習する浅村選手

セカンドからのコンバートの難しさ、そして浅村選手、中村選手についても伺いました。

宮本さん

『基本的にはショートからサードも、セカンドからサードも難しさは一緒です。ただ、セカンドからのコンバートで一番の特徴は『スローイングの距離』だと思います。セカンドはファーストに近いですが、サードは一気に遠くなります。肩の強さ、正確な送球が求められます。楽天・浅村は、もう少しじっくり見ないとわかりませんが、送球が決して得意な方ではないと思っています。そのため、送球で苦労しなければいいなと感じています。』

三塁手用(左)と二塁手用のグラブを手にする中村選手

宮本さん

『ロッテの中村は、過去にサードも守っているので、ある程度のことはわかっていると思います。ただ、ロッテのサードは安田尚憲もいます。安田のサードはよく守れていると私は感じています。ですから、中村としては、バッティングを伸ばしていかないと試合に出られなくなってしまうかもしれません。』

“奥深さ”を知る


宮本慎也さん

『最初は、見た目は簡単そうなので、私も簡単だと思っていました。ただ、打球に関してはやればやるほど奥深い。私も『サードはこのように守ったらいいんだ』と本当の意味で理解するまでは、2、3年かかりました。サードへのコンバートからしばらくの間は、『これで合っているかなぁ。違うかなぁ』と手探りでやってきました。実際に試合に出場してみないとわからないこともありますしね。そもそも試合の打球はノックの打球と違います。それに、サードの打球は強くて近くて不規則な打球が多いですからね。私もシーズン10個以上のエラーを記録した年があります。それだけ理解するまでに時間がかかるのです。』

この記事を書いた人

筒井 亮太郎 アナウンサー

平成15年入局 札幌放送局
4年前から2回目の札幌勤務

プロ野球の他に、ウィンタースポーツ、ラグビー、柔道などの中継も担当

西川 順一 アナウンサー

平成17年入局
山形・金沢・新潟・福岡を経てNHKグローバルメディアサービスでスポーツ実況を担当。
学生時代に経験したスポーツは競泳・柔道。柔道は一応有段者ですが、その実力は…