スピードスケート女子500mで長年、世界の頂点を争ってきた小平奈緒さんとイ・サンファさん。ふたりの関係性が大きく注目を集めたのは2018年のピョンチャンオリンピックでした。3連覇を逃し泣き崩れるサンファさんを優しく抱き寄せる小平さん。当時、大学生でスピードスケートをよく知らなかった私でも、テレビで見たその光景は強く印象に残っていました。
そして、ことしの北京オリンピック。ふたりは立場が変わってからもドラマを生み出しました。連覇に挑んだ小平さんはけがの影響で17位。サンファさんは、そのレースを解説者として涙しながら見守りました。
4月、小平さんは今秋のレースを最後に引退することを発表しました。それを知ったサンファさんが小平さんの地元・長野を訪れることになり、私たちはふたりの旅路に同行することが許されました。国境を超えた特別な関係はどのようにして築かれてきたのか。ピョンチャンでの名場面はどのようにして生まれたのか。わたしは胸躍らせながら、ロケに向かいました。
根底にあったのは「相手を気遣い、思いやる気持ち」
ふたりは2日間、小平さんの案内する場所を巡りながら過ごしました。10代で出会ったときのことから、ともに競い、成長していった日々、ピョンチャン、北京五輪まで。これほど向き合って話をしたのは、初めての経験だったと言います。
その中で特に印象深かったのが、相手を気遣い、思いやるエピソードでした。レースで自分が勝っても、負けた選手のためにガッツポーズはしないこと。ピョンチャン五輪前、サンファさんは好調の小平さんの邪魔にならないよう、あえて声をかけることを避けていたこと。小平さんは自身のレース後、次に滑るサンファさんのため、静かにしてほしいと観客にジェスチャーで伝えたこと。
今回のロケ中、私たちもふたりの優しさに触れる場面がありました。小平さんはカメラの回っていないところで「サンファ、さっき寿司にわさび入れすぎて大変だったんですよ」と楽しかったやりとりを教えてくれました。サンファさんは「ナオのいい表情を引き出せるのは私だけだから任せて!」と現場を盛り上げてくれました。周囲を思いやる気持ちが強いふたり。アスリートとしての実力だけでなく、人としての魅力に惹かれ合ったからこそ、友情は築かれていったのだと感じました。
ラストレースに向けて 友情はこれからも
10月に長野で行われる全日本距離別選手権が小平さんの競技人生ラストレースです。サンファさんは「悔いの無いよう楽しんで滑っておいで」と言葉をかけました。それに小平さんは「人生最高のレースをする」と約束しました。ラストレースの後、ふたりはどんな会話を交わすのでしょうか。これからも続く2人の物語を楽しみにしたいです。
ディレクター:鏡桜之介