#28 “大舞台で魅せる” 鍵山優真の強さに心ひかれて

NHK
2022年4月1日 午後6:45 公開

 私が鍵山選手の演技を初めて見たのは、2019年の全日本選手権。当時、高校1年生の16歳でした。思い切りの良い4回転ジャンプ、きれいな着氷、のびのびとしたスケーティング。そして、「スケートって楽しい!」と伝えんばかりの鍵山選手が持つエネルギーに、心がひきつけられました。羽生結弦選手、宇野昌磨選手に次ぐ3位。これからどんなスケーターに成長するのだろうと、そのときは少し気長に考えていました。

 しかし、鍵山選手は想像を遙かに超えるスピードで急成長していきました。高校1年生で出場したユースオリンピックで金メダル。ジュニアからシニアに上がるタイミングを迎えて、鍵山選手は「理想のスケーター像とはなんなのか」考えるようになったと言います。個性の強いトップスケーターたちと戦う中で、「自分の色は何なのか?」と問いかけながらシーズンを過ごしていく。自分に足りないものを探すように、じっくり心と向き合っているように見えました。

 その後、高校2年生で初出場した世界選手権で銀メダル。悩みながらも鍵山選手が自分の殻を破っていく様子を間近で見て、「こんなに短期間で人は変わることができるんだ」と成長のスピードに驚きました。その顔つきは初めて会ったときよりも、キリッとした表情になっていました。

オリンピックシーズンの重圧を乗り越えて

 鍵山選手の成長は今シーズンも止まりませんでした。初出場の北京オリンピックで銀メダル。「さらなる飛躍をとげた背景には何があったのか?」が、今回の番組のテーマになりました。これまでは「失うものが何もない」という思いで臨んでいた大会も、今シーズンからは結果を意識するように。トップスケーターとしてのプレッシャーから、思うような結果が出ないこともありました。それでも苦しい状況を乗り越えることができたのは、周りからのアドバイスをスポンジのように吸収していく、鍵山選手の“素直さ”があったからこそだと思います。

 その時にハマっていること。悩んでいること。ぶつかっている壁。等身大の自分を隠すことなく、インタビューでいつも素直に打ち明けてくれる鍵山選手。名前の通り、「優」しくて、「真」っすぐな心が、彼の急成長を支えていると感じました。

 オリンピックのメダリストになり、スケート界を引っ張る存在になった鍵山選手。かけられる期待も、いっそう大きなものになるかもしれません。でも、きっと大丈夫。自分の可能性を信じて、さらなる挑戦を続けていくことを願っています。

                        ディレクター・鬼澤昌秀