#41 ゴールキーパー・権田修一 “いい子でいようと思わない”

NHK
2023年4月28日 午後8:45 公開

 小学校のとき、深夜、目をこすりながら見たワールドカップの中継。 “いつかあの舞台に立ちたい!”と、プロサッカー選手に憧れ、気づけば大学を卒業するまで、私はサッカー漬けの日々を送っていました。まさか自分がワールドカップに出場した選手を取材する日が来るとは…。あの大舞台に立ち、日本代表を勝利に導いた選手はどんな人なのだろうか?期待と緊張が入り混じる中、清水エスパルスのホームタウン、静岡・清水を訪ね、チーム練習に取り組む権田選手に挨拶をしました。

 「移籍を模索するところから撮ってみてはどうか?」と、取材の許可をもらいました。しかし、W杯で大活躍を見せ、さまざまなメディアに引っ張りだこになっていた権田選手。練習場には多くのファンが詰めかけ、メディアはなんとか特ダネをつかみたいと会話に聞き耳を立てる、多くの視線が向けられる状況。異様な空気に包まれていました。センシティブな時期、さらに、権田選手の「不器用、真面目、あまのじゃく…」(トレーナー談)な性格も相まって、なかなか取材も進みませんでした。

 なんとか個別インタビューの許可をもらい、ここぞとばかりに聞きたい質問をぶつけました。“W杯で感じた課題はなにか?” “今どんなことをテーマに練習しているのか?” そして、本丸の移籍交渉について “どんなクラブから声がかかっているのか?”。思い返すと、ナイーブな移籍に関する質問。そんな中でも、権田選手は自分を飾らず、思いをストレートに語ってくれました。

“世界一のゴールキーパーになりたい”

 インタビューで権田選手が語った思いです。ですが、撮影を終えての帰路、私とスタッフは、“大きなことを言っているな…” 程度にしか、受け止めていませんでした。しかし、取材を重ねるうちに、この言葉こそが権田選手の本音で、日々絶えず、心の底から思っていることなのだと受け止めるようになりました。

 チーム練習がオフの日、静岡から都内のパーソナルジムに通い詰め、試行錯誤する姿。トレーナーの河口さんに取材すると、オフの日だけではなく、納得いくプレーができなかったら、試合後、遠征先から自宅に帰らず、直接ジムに来て、深夜にトレーニングをすることもあったそうです。チーム練習でも、最初にメニューをこなすのは権田選手。そして、息を切らして、1つ1つの練習に取り組む。練習後には、コーチや監督と練習内容やチームの方針について、徹底的に議論する。誰よりも“頑張り屋さん”の一面。サッカーに人生をかけて挑もうとしていることが、その節々から見えてきました。

 居酒屋でのインタビュー。“食事にもストイックだ” と、リサーチで得た情報を元に、どんなこだわりがあるのか? を聞き出すのがロケの狙いでした。しかし、私には取材を通して、本人に聞いてみたかったことがあり、ストレートにその質問をぶつけました。「どんな性格で、どんな本性ですか?」。

“性格は悪いと思う”

“いい子でいようとは思っていない”

“自分に嘘をつくことが気持ち悪い”

 たとえ、人に嫌われても、自分を貫き通す。自分の思いに正直に生きてきた。オーバートレーニング症候群になるくらい、自分に厳しい。そして、時には周囲にも厳しい。権田選手の本性が垣間見えた気がした瞬間でした。

 波乱のサッカー人生を歩んできた権田選手。次のW杯で権田選手が、サッカー日本代表をまだ見ぬ、新しい景色が見える場所に連れて行ってくれると、信じています。

                ディレクター 奥村俊樹(NHKエデュケーショナル)

※ 左より、奥村、遠藤 (音声)、中島(カメラ)