去年10月16日、日本一を決める天皇杯決勝で、日本サッカー史に残る下克上が起きました。J2ヴァンフォーレ甲府がJ1の強豪、サンフレッチェ広島を破り、優勝の栄冠を手にしたのです。トーナメント戦で格上のJ1 チームを5度にわたって撃破する“下克上”の連続。ホームタウンの山梨は大いに沸きました。
リーグ戦ではシーズン終盤の7連敗もあり、一時は18位まで転落。J3 に降格する可能性もささやかれていました。J1昇格を期待されていたチームにとって厳しいシーズンになりましたが、その一方、取材中、指揮を執る吉田達磨・前監督の“サッカー愛”の深さに胸を打たれる場面が多々ありました。
周辺から聞こえてくるのは、「吉田監督は四六時中、サッカーのことを考えている」「自分たちの練習が終わっても、ずっとサッカーを見続けている」といった声。実際、天皇杯について吉田監督にインタビューしたときは、2か月が経っていたにも関わらず、その時の試合の状況や、采配の意図などを細かに覚えていていることに驚かされました。そして一言一言、丁寧に言葉を紡いで答えてくれる姿からは、サッカーに向き合う誠実さを感じさせられました。
山梨の人々と共に歩み続けて
実は2000年ごろ、クラブは経営危機から存続が危ぶまれていました。しかし、選手、スタッフの献身的な努力に加えて、たくさんの地元企業とサポーターの力を得て、クラブの運営は軌道に乗りました。クリーニング店が無償でユニフォームを洗濯してくれたり、スパに選手はサービスで入れたりと、県内で支援が広がってきました。スポンサーとしての金銭的な援助だけでなく、さまざまな形で山梨の人たちに愛され、共に歩み続けてきたのです。
番組には、20年に渡ってチームに在籍している“オミさん”こと、山本英臣選手(42歳)に登場してもらいました。インタビューで印象的だったのは「もう僕にしかわからないことかもしれないけど」という言葉でした。ヴァンフォーレだからこそ生まれた、サポーターとのつながりに感謝し、後輩たちにも伝えていきたいという山本選手。この天皇杯決勝という舞台に臨むにあたって、背負っている思いの大きさに心を動かされました。
今回はチーム取材を続けてきた望月啓太アナウンサーとともに、番組を制作しました。この小さな地方クラブの苦難と奮闘の物語を通して、ヴァンフォーレ甲府の魅力を感じてもらうとともに、ただサッカーチームとして強くなるだけではない、地域に根差したスポーツチームの在り方を考えていただける機会になりましたら幸いです。
ディレクター 小林勇斗(NHK甲府)
左:渡邉 編集マン 右:小林D