12/2放送「ヒントは“現場”にあり!~町おこしの達人・新たな挑戦~」制作後記

NHK
2022年12月21日 午前11:49 公開

今回の番組を担当した、松江放送局ディレクターの仲です。

舞台となったのは広島県北広島町。町おこしの達人である寺本英仁さんが“ある目的”を果たすため、北広島町の公務員とともに実施した、新たな取り組みにスポットライトを当てました。

実は番組でお伝えしきれなかった、北広島町の人々の思いや魅力はまだまだあります。

取材者である私が感じたことも併せて、改めてご紹介させてください。


2022年春。

私はある知らせを受けました。

島根県の邑南町で数々の町おこしをけん引し“スーパー公務員”とも呼ばれていた寺本英仁さんが、28年務めた町役場を退職したというのです。
   

“新たに挑戦したいこととは何ですか?”

私の問いに対して寺本さんはこう語ってくれました。

「日本の田舎を元気にするために、スーパー公務員となる人材を育てたい」
  

培ってきた町おこしのノウハウを伝授しながら、各地に町おこしをリードできる人材を育てたいと考えていたのです。歩みを進める寺本さんの決意が存分に伝わってきた瞬間でした。

寺本さんは今、総務省の制度である『外部専門家(地域力創造アドバイザー)』に認定されています。

地域の魅力や価値向上に取り組む市町村が、地域力創造アドバイザーを招へいし、指導・助言を受けながら取り組む際に、招へいに必要な経費を総務省が支援するというものです。

そして、アドバイザーとして歩みを進めた寺本さんを招き入れた町こそ、番組でもご紹介した広島県北広島町でした。
 

歯止めのかからない過疎化に危機感を抱いていた北広島町の箕野博司町長は今年、新たに出資して「まちづくり会社」を設立しました。特産品の開発やPRなど、地域活性化のため様々な業務を担う組織です。

北広島町 箕野 博司町長

「人口も全体的に縮小しているという状況の中で、地域内にお金が落ちる仕組みなど、新しいチャレンジを始めなければならないという思いです。できれば若者も多く移住して来てもらいたいと思いますし、経済活動が盛んになれば人口も多少なりとも増えるか、減少を抑えることができるのではと思っています。」

新たな領域で町おこしを推進する基盤を築いたからこそ、効果的な施策を実現するためアドバイザーの寺本さんを招く決断をしたのです。
  
  

そして番組では、まちづくり会社で働く沖中満春さんが、寺本さんの指導のもと現場へ足を運び、生産者から様々な気づきを得るなど、スーパー公務員として成長していく様子に密着しています。

番組ではご紹介できなかったのですが、沖中さんがほうれんそう農家の丸住隼一さんのもとへ訪れたときには…

ほうれんそう農家 丸住 隼一さん(左)

1年目は土づくりがうまくいかず挫折を経験したという丸住さんが、どのような努力を積んで自信のあるほうれんそうを作り上げてきたのか、またほうれんそう作りにおけるやりがいを聞き出していた姿が印象的でした。

さらに、町のワイナリーを訪れたときには…

ワイナリーの代表 郷田 勝弘さん(右端)

自身が運営するイベントに地酒を提供してほしいと熱意をもって交渉に臨み、なんと“限定40本生産”、そして“完全新作”である貴重なオレンジワインを提供してもらいました。

これまでに経験したことのない生産者からの前向きな協力に、沖中さんの表情には笑顔があふれ出ていました。
  
  

そして着実に、みずから現場へ足を運び生産者と関係性を築くことへの自信を培っていったのです。

「(現場に出向くことで)生産者さんがいいものを作られているということは知っていたけど、どういうふうにいいのかということが分かるようになったかなと思います。これからも皆と協力しあって、生産者さんの思いを聞きに現場へ行きたいです。将来的にはうちにも来て、と言われるような会社にしていきたいと思います。」

沖中さんが信頼を寄せている同僚の1年目公務員 新中 裕子さん

数々の生産者から協力を集め、新たな町おこしの1つとして実施した屋外レストラン。北広島町至高の食材で作られた料理や、作り手のこだわりが満載の地酒が提供されました。その未公開カットをお見せします。

「アマゴのコンフィ」

地元で養殖されたアマゴを、塩こうじや黒にんにくなどで深みのある味をつけ、低温の油でじっくり煮ることで旨味を凝縮しました。

「サーモンのロースト ほうれんそうのソースを添えて」

寒暖差のある地形で育ったほうれんそうは甘みが強く、その特徴を生かしてメイン料理に加えられるソースになりました。

オレンジワインの魅力や、作り手の思いを伝える酒屋店主の加計 智紹さん

生産者の思いが込められた料理や地酒がお客さんに届きます。
  

この場に足を運んだ皆さんの笑顔が印象的で、北広島町の魅力が存分に伝わっていると肌で感じました。

そして私が最も感動したのが、生産者と沖中さんの間に新たな決意が生まれていたこと。

「今度は北広島町の食材を使った披露宴をやろう」など、アイデアがあふれ出ていました。

地域の人々の間につながりが生まれ、さらに一歩動き出すきっかけとなった屋外レストラン。
 

寺本さんのもとで、第2のスーパー公務員として一歩を踏み出した沖中さんがこれからも地域の価値を掘り起こしながら生産者とともにカタチにしていきます。
 

北広島町の挑戦はまだ始まったばかりです。

“どの町でも第2のスーパー公務員を育成することはできる”と、確かな手応えを感じた寺本さんもまた、新たなスーパー公務員を全国各地に育てるための歩みを加速させます。

(松江放送局ディレクター・仲 紗代子)