The Crossroad 草笛光子さん

NHK
2023年3月8日 午後3:27 公開

今回のゲストは、草笛光子さん。
俳優デビューから70年。
ことし90歳を迎えます。
最近は、私服のコレクションを披露した
ファッションブックが話題になるなど、
輝き続けています。
そんな草笛さんに、
人生の分岐点を伺いました。
聞き手は佐藤俊吉アナウンサーです。

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■草笛さんは16歳のとき松竹歌劇団に入り、
歌やダンスの特訓に明け暮れる日々を
過ごしました。
その後、実力が認められ、
テレビやラジオのミュージカル調の音楽番組に
出演するようになります。

佐藤:「この頃はテレビ黎明期と言いますか、
いろいろな苦労があったのではないかと。」

草笛:「そう、私は相当いろいろなことを
やらされているの。
(当時は)“ミュージカル”なんて
言っていませんからね。音楽入りドラマ。」

佐:「音楽入りドラマ。」

草:「歌入りドラマ。
だから森繁久彌さんたちと
歌入りドラマやるわけ。
後ろにバンドがいて、歌ったりしゃべったり。」

■草笛さんは、当時まだ馴染みの薄かった
ミュージカルにのめり込んでいきました。

草:「それから自分で一生懸命働いて
ニューヨークへ行って、この目で見よう。
(ミュージカルを)見たときは感動しましたね。
やっと見られた。」

■当時のニューヨークでの
映像が残っていました。
本場のミュージカルを学ぶため、
ブロードウェイの劇場に通う草笛さんの姿です。
しかし、
日本にミュージカルを根付かせることは、
簡単ではありませんでした。

草:「(周りから)『草笛さんね、
ミュージカルと一生懸命言っているけれど、
本当に日本にミュージカルが根づくのは
あなたが死んでからよ』と言われて。
『嫌だ、生きているうちに根づかなきゃ』
と非常に思いましたけれどね。
日本でミュージカルができる窓口を
見つけたくて、
それでNHKの資料室へ行って
『レコード聴かせて』とか
『譜面貸して』とか、
(楽譜を)写させてもらったり。」

■そんな努力を重ねているさなか、
心が折れてしまう出来事が起こります。

草:「私、あるミュージカルに
組み込まれていたの。
そうしたら(役を)降ろされたのね。
『降りてるよ』と一言で。
あ、私ダメだと思って(俳優を)
辞めようかなと思っていたのですけれど。」

■報われない思いを抱え、
演劇の世界から身を引こうとさえ思った
草笛さん。
そんなとき、人生の分岐点が訪れます。

草:「傷心でニューヨークへ
行ったときに見たのが
“ラ・マンチャ”だった。」

■ミュージカル「ラ・マンチャの男」。
暗いろう獄の中、
囚人たちが繰り広げる物語に
草笛さんは衝撃を受けました。
それまで見ていた舞台とは
全く違うものだったのです。

草:「夢の世界を
歌と踊りとお芝居で見せるのだと思っていたら、
夢ひとつもないわけよね、
囚人の世界でね。
それが、何も分からないで見た私が
ダーンと感動しちゃったんですよ。
こんなものがもうニューヨークにできているのか
と思って、あぁ日本は遅れちゃうと思った。
そこでまた火がバッと点いたわけね。
ははは。
こんなことしちゃいられない。
そんなね、ひとつ役を降ろされたからって
クヨクヨするんじゃない、
まだこんなすごいものがある。」

■その後、帰国すると、
「ラ・マンチャの男」を日本で上演すべく、
舞台関係者にかけあいました。

草:「『これ(上演権を)取ってください』と。
『どんなんだい?』と言われても
『きれいなもんじゃないの』というのがね。
『きれいじゃないのか?』と言うから、
『そう、みんな囚人です』と言うと
『え!?』と。
何度かな。6~7回足を運んで、
やっと『あ、いいものらしいね』と言ってくれた。」

■そして、2年の準備期間を経て、
ついに舞台の幕が開きました。
この公演で、草笛さんは輝きを取り戻します。

草:「ミュージカルに興味のある人は、
『これ取ってくれてありがとう』って。
その時は、苦労してよかったと思いました。」

■この「ラ・マンチャの男」は、
50年以上のロングラン公演を続けています。
実は、草笛さんが、
そのきっかけを作っていたのです。
分岐点となる舞台を糧に
草笛さんは、
さらに幅広い活躍を続けてきました。

草:「やはりミュージカルに対する
私の夢というか、
ただ普通のお芝居だけじゃない
思いがあるんでしょうね、中に。
それをやらせていただけたから、
ミュージカルの一面は幸せな道、
歩けたわけね。」

■まもなく90歳を迎える草笛さん。
その情熱は今も健在です。

佐:「お疲れじゃないですか、大丈夫ですか?」

草:「もういいの?」

佐:「はい、バッチリでした。」

草:「何かつまんないね。
もっとやりたい!ふふふ。」