戦争をデジタル技術でよりリアルに 東大教授と学生の取り組み

NHK
2023年11月6日 午後1:48 公開

ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始してから
今月で1年9か月。
いまだ東部や南部で激しい攻防が繰り返され、
兵士の犠牲も増え続けています。
また、パレスチナのガザ地区では、
イスラエル軍が激しい空爆や戦車による
軍事行動を拡大しており、
現在進行形で争いが起きています。

一方、日本では太平洋戦争の終結から
78年が経ち、戦争を直に知る人が
減り続けています。
忘れてはいけない戦争の記憶を、
次の世代にどう伝え、考えていくのか。
最新技術をいかして「体感」してもらおうという
新たな取り組みを取材しました。
(写真・文:
ニュースLIVE!ゆう5時 溪 美智ディレクター)

■東京大学大学院にある、渡邉英徳研究室
(東京大学大学院 情報学環)。
ウクライナの被害の実態を
VR(バーチャルリアリティー)で
体験できると聞き、訪ねました。

  ■さっそくVRゴーグルを付けると、
目の前に破壊された建物の光景がリアルに
映し出されます。  

■こちらは首都キーウ近くの村、ホレンカで、
ロシア軍の攻撃を受けて損壊した集合住宅。
前には壊れた滑り台が置かれたままで、
子どもが暮らしていた日常が奪われたことが
伝わってきます。

■こちらは、ウクライナ北部の
チェルニヒウ州にある学校の地下室。
2022年3月、ロシア兵によって350名以上の
住民が約1か月間、監禁されていた場所です。
窓のない部屋に監禁された人が、
日付を記録しようと壁に残したカレンダーなど、
実際にその場に行ったかのように細かい部分まで
見ることができます。

■VRコンテンツを企画・開発した、
渡邉英徳教授です。

■人工衛星から撮影したウクライナの画像や、
現地のクリエイターなどが制作し、
ネット上に公開している3Dモデルを入手し、
デジタル地球儀プラットフォーム「Cesium」に
マッピングして公開しています。

ウクライナ衛星画像マップ (※NHKサイトを離れます)※別タブで開きます

■2023年8月、大学院生と協力して、
ウクライナで被害を受けた建物などの
3Dモデルが見られるVRコンテンツを
完成させました。

渡邉さん「『我々が生きている日本の普通の街と
同じような街がウクライナでは破壊されて、
生活の場が奪われた』というような感覚を、
3Dのデータであれば
よりビビッドに伝えられる。
一人でも多く、
『生活の場が奪われるような戦争は嫌だ』という
直感的な感覚を持つ人が増えることは、
とてもいいことなのではないかと思います」

■渡邉さんのもとで学ぶ学生たちも、
デジタルで戦争を伝える研究に
取り組んでいます。
大学院生の小松尚平さん。
過去の戦争をよりリアルに感じてもらいたいと
注目したのが、この最新の機械。

■28台のカメラで全身を同時撮影し、
服装や髪の毛までそっくりなアバター、
自分の分身を作ることができます。

■このアバターを、太平洋戦争時の
古い写真に合成。
自由にパソコンなどで操作し、
原爆投下直後の広島の街を歩き回ることができる
コンテンツを制作しました。

■普段ならすぐに見るのをやめてしまうような
写真でも、
自分の分身がいればじっくり見入ってしまい、
興味が出てくるのでは、というねらいです。

小松さん「やっぱり、戦争の現実みたいなものを
肌で感じることはすごく難しい。
(日本での)戦争を体験した世代が
もういなくなってしまう
このタイミングで作らないと、
そういった人たちの声とか記憶とか、
もしくは災いの経験というものを次の世代に
継承できないな、と思ったのがきっかけです」

■大学2年生の冨田萌衣さんと岡野明莉さんが
いま取り組んでいるのは、
戦時中に新聞社の特派員が撮影した
「従軍動物」の写真だけを集めた
デジタルアーカイブです。

■撮影された場所の緯度と経度の情報をもとに、
デジタル地球儀の上で正しい位置を割り当て、
マッピング。
どんな場所で撮られたどんな写真なのか、
デジタル地球儀の上を旅するような感覚で
見ることができるコンテンツを作っています。

■冨田さんは、戦時中しばしば撮影されていた
という動物の「墓」の写真に注目しました。
例えばこちらは、死んでしまった馬の墓を
映した写真。

■こうした写真が戦時中に撮影され、
新聞で報道されていたと
初めて知ったという冨田さん。
戦争を伝えるとはどういうことなのか、
改めて考えさせられたと言います。

冨田さん「動物たちを撮った写真から、
当時の人達が戦争に対してどんなふうに
考えたかったのかといった、
一歩引いた目線みたいなものも
写真アーカイブを通じて伝えられたらいいなと
思っています」

■一方、岡野さんは、従軍していた
犬の写真だけを集めました。

■軍用犬がこんなにも戦地にいたことに驚いた
岡野さん。
兵士と犬が交流する様子や、
前線に連れて行かれた犬の写真を見て、
これまでと異なる角度で戦争を捉えるきっかけに
なったと言います。

岡野さん「今までは戦争っていうものに対して
ぼんやりとしか理解していなかったけれど、
(戦時中の写真には)出来事の一瞬一瞬が
切り取られている感じで、具体的な所まで
想像が及ぶようになったと思います」

■従軍動物の写真を集めたデジタルアーカイブ。
完成は2024年2月頃を予定しています。
見た人たちに向けて、伝えたいことは。

岡野さん「ただぼんやりと『戦争』ではなくて、
犬がご飯を食べている瞬間とか、
出撃前に犬を抱いている瞬間とか、
そういう具体的な場面を見てもらうことで、
戦争に対する解像度みたいなものが
少しでも上がったらいいなと思います」