The Crossroad 伊藤英明さん

NHK
2023年2月8日 午後5:58 公開

2月6日(月)と13日(月)の2週に渡り
BSプレミアムとBS4Kで放送される
サスペンスドラマ「ガラパゴス」。
ミステリアスな刑事を演じるのは、
伊藤英明さんです。
ドラマデビューから26年。
これまで幅広い役柄を演じてきました。
きょうはそんな伊藤さんの
人生の分岐点を伺います。
聞き手は礒野佑子アナウンサーです。

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礒野:「『ガラパゴス』前編、拝見しました。」

伊藤:「ありがとうございます。
どうでした?どうでしたかっていう(笑)」

磯:「かっこよかったです。
あの、いつもかっこいいんですけれど♡」

伊:「いや、かっこいいとかじゃなくて(笑)
でもかっこいいも必要ですよね、
ビジュアルもね。」

■そんな伊藤さんに
人生の分岐点をたずねてみると…

伊:「このお話をいただいてから
自分の分岐点について考えたんですよね。
分岐点について振り返ってみたんですよ。
分岐点になるはずのところがならなかったり、
この瞬間も分岐点だったな…
もしかしたら分岐点にいる時は
分岐点だと分からなかった。
分岐点と言ったら…。」

■分岐点を、
一つに絞りこめないという伊藤さん。
しばらく考える中で、
俳優としての覚悟を決めたできごとについて
語りだしてくれました。

伊:「自分の中で役者・俳優というと、
もちろんかっこよくて、芸事に秀でていて、
人をひきつけるカリスマ性があって、
何が欠けても役者と言ってはいけないと
自分の中であったんですよ。
『それを全うするには、
相当な覚悟が必要だよ。』ということを
津川さんが教えてくださったと思います。」

■伊藤さんに
俳優としての覚悟を教えてくれたのは、
2018年に亡くなった津川雅彦さんでした。
それまで、数多くの作品に恵まれ、
順調に俳優人生を歩んできた伊藤さん。
しかし、その裏で
伊藤さんは人知れず悩み続けていました。

伊:「どの役を演じても反省点とともに
出来上がった作品を
まっすぐ見られなかったりするんですけれど。
自信がなかったんでしょうね。
恥ずかしかったんでしょうね。
罪悪感があったんでしょうね。
例えば旅行でビザを申請するときにだって、
職業を書く欄があるんですよね。
あの時に“俳優”って書けなかったんですよ、
ずっと。」

礒:「何て書いていたんですか?」

伊:「“会社員”と書いてたんです。」

礒:「いやいやいや。」

伊:「僕みたいなものが
俳優って言っちゃいけないだろう
というのがあったんですよ。」

■そんな思いを抱えながら
活動を続けていた伊藤さん。
40歳を手前にして、
あの名優、津川雅彦さんと
共演することになりました。
その作品は、
2015年放送のNHKプレミアムドラマ
「リキッド〜鬼の酒 奇跡の蔵〜」
金沢の造り酒屋を舞台に、
若き経営者が、伝説の杜氏と共に
造り酒屋の復活に挑む物語です。

伊:「津川さん演じる杜氏に会うことで、
酒造りの厳しさ、人に物を提供する責任を、
役を通して教えてくださった気がして。」

■津川さんと芝居をする中で、
熱い感情が交差し合う瞬間を経験しました。

伊:「僕の感情に寄り添うような
お芝居をしてくださったんです。
涙をボロボロ流して。」

伊:「津川さんが役を超えて、
僕の心に触れてくださって、
自分の心が揺さぶられたまま演技ができて、
役の見た景色が、
あたかも自分が見た景色のような感覚を
初めて津川さんが見せてくださって。」

■この大きな経験をした翌年、
伊藤さんはある決断をします。
アメリカでの俳優活動への挑戦です。
そのとき、俳優として働くビザ取得の推薦状を、
津川さんが直筆で書いてくれました。

伊:「だったら僕はその(津川さんの)名前を
汚してはいけないと思ったりもしたんですよね。
覚悟が決まった瞬間、
覚悟が必要だということを、
津川さんが僕に分かるように、
戒めじゃないけれど、
責任感を持たせてくださったのかなという。
まずは自分が俳優として
自信を持って歩まなければいけない、
俳優にならなきゃいけないという風に。」

■その後、ハリウッド映画への出演を目指し、
アメリカでトレーニングを積んでいた伊藤さん。
そんなある日、津川さんが入院したと聞き、
あわてて電話をかけました。

伊:「『津川さん、
あす帰国しようと思っているんですけれど、
津川さんどうですか?』と言ったら
『病院で申し訳ないけれど顔を出してくれる?』
とおっしゃったんですよ。
『分かりました。日本に帰国次第、
連絡させていただきます。』と。」

■ところがこの会話の翌日、
津川さんは帰らぬ人となりました。

伊:「死に目にも立ち会えなくて。
もう少し早く帰っていればと。
役を演じるときに
津川さんだったらこの瞬間どうするかなとか。
亡くなってしまったから、
その答えを
自分で見つけるしかないじゃないですか。
津川さんと出会えたのは
何か自分自身の役割のために、
お教えをいただくために、
出会ったのかなと思ったり。
だからその出会いは
本当に大きな僕の分岐点だったと思います。」