このドキュメンタリーがヤバい!12月30日放送
このドキュメンタリーがヤバい!2021
初回放送日: 2021年12月30日
今、ひそかなブームとなっているドキュメンタリー。今年のNHK作品からバナナマン設楽・ヒコロヒー・長濱ねる・大島新がイチオシを選出。魅力を笑いありで語りつくす 今年もあの特番が返ってきた!今、雑誌で特集されひそかなブームとなっているドキュメンタリー。2021年NHKの話題作108本の中からみんなのイチオシを選出▼バナナマン設楽がホレた伝説の絵本作家の生活▼ヒコロヒーが語る庵野秀明▼長濱ねるも驚きの最新カメラ▼大島新が感嘆!デジタル時代の番組…ドキュメンタリーの魅力をやさしく楽しく語りつくす!今、NHKプラスでみられる番組も大紹介!
番組でご紹介したドキュメンタリーの制作スタッフからのメッセージ
プロフェッショナル仕事の流儀「庵野秀明スペシャル」
Q.1 制作するうえで、どんなことにこだわりましたか? とにかく庵野さんに面白く振り回されること Q.2 ぜひ見てもらいたいシーンは? Aパートを書き直すというシーン(Gopro定点の画)。この会議はカメラは入らないで欲しいと言われ、こっそりと仕込んで撮りました。それまで撮影した中で初めて“何か始まった”という感じがしたシーンです。一部しか放送されていませんが、周りのスタッフの絶望的な雰囲気からも壮絶さは伝わるかと思います。 Q.3 苦労したところ、難しかったことは? プロフェッショナル庵野秀明の回なのに、「他を撮れ」と言われ続けたこと。 Q.4 放送後の反響で印象的なことはありますか? 他番組で、少し太い明朝のテロップを入れようとすると、エディターさんから「エヴァっぽくですか?」と言われます。そういう意図は全くないのに、そう見られがちになりました。 (番組ディレクター 久保田 暁)
100カメ 「オールナイトニッポン」
Q.1 制作するうえで、どんなことにこだわりましたか? 無理に大きな物語を作らないことです。これまで私が制作してきたドキュメンタリーでは起承転結のあるキレイな構成を求められる事がほとんどでしたが、今回プロデューサーからは、「ストーリーは気にせず、面白いと思うシーンをただ並べてみよう」というアドバイスをもらいました。ナレーションもインタビューもないので、どうやって番組を進めればいいか苦戦しましたが、番組デスクやプロデューサーと編集するうちに、100カメは従来のドキュメンタリーではとらえられなかった〝ありのままの姿〟を切り取り、観察する事が楽しいのだと気づきました。 ストーリーに寄せた“予定調和”や“恣意性”を取り払えるのは、この番組の強みであり、大きなこだわりだと思います。 Q.2 ぜひ見てもらいたいシーンは? 生放送の準備でディレクターとサブ作家さんが、使える下ネタの線引きをするシーン。先輩(作家)の顔色を伺う後輩(ディレクター)という、どこにでもあるような人間関係が見られ、ラジオ局という遠い世界でもグッと身近に感じられます。是非2人のさりげない目線や表情に注目して見てください。誰にでも“あるある”な場面です。 Q.3 苦労したところ、難しかったことは? 2日間“100カメ”を回し続けて撮れた、2000時間の映像を30分に濃縮することです。オールナイトニッポンを好きな私にとっては収録素材のどれもが貴重な宝の山。ラジオスタッフの何気ない会話のどれもが面白く、なかなかシーンを選び出せませんでした。さらに、100台のカメラで様々な角度から撮影しているので、編集パターンは無限大。はじめは選り取り見取りのように思えましたが、場面を厳選するのは非常に悩みました。 Q.4 放送後の反響で印象的なことはありますか? 放送前からSNSで話題になっていて、これほど番組を楽しみにしてもらえたことは初めてで嬉しかったです。やはり深夜ラジオのリスナーさんは熱量がすごい!と思いました。さらに、放送翌週はオールナイトニッポンのパーソナリティーの方々がラジオでも番組について語って下さり、またSNSが盛り上がりました。放送の前後2週間は、毎日SNSを見るのが楽しかったです。 (番組ディレクター 伊藤 雅人)
ETV特集「五味太郎はいかが?」
Q.1 制作するうえで、どんなことにこだわりましたか? 五味さんに怒られないこと(笑) 作り手が、予定調和にならないこと。 受け手が、余白を楽しめること。 ・・・五味さんの絵本みたいに。 Q.2 ぜひ見てもらいたいシーンは? 絵本の見せ方かな。 最初は、絵本を読む演出にしていた。 でも五味さんにそこだけ言われた。 見る側に委ねろ。 邪魔するな。 信じろ。 引き算していったら、 根元的なものだけが残った。 言葉にしちゃうと簡単だけど・・たどり着いたときの衝撃と言ったら。 観てみてください。 Q.3 苦労したところ、難しかったことは? この番組の編集中、「このドキュメンタリーがヤバい」一回目の放送を見ていた。 「NHKのディレクターは、もっと作家性を出したほうがいい」と誰かが言ってた。 本当かな?今回の番組づくりで、 「テレビは、作家性に閉じてはいけない」と感じた。 番組は、カメラマンや音声、車両、音響効果、CP・・・みんなが集まってつくる。 特に、編集の熱海さんでなければ、まったく違う番組になっていた。 みんなが、ちっちゃなプライドかなぐり捨てて、這いずり回って考えて、 五味さんへの愛を叫んだ。 そんな番組は、いかが? Q.4 放送後の反響で印象的なことはありますか? 番組が、「終」ではなく、「つづくかも」で終わってるので、 次はいつ?とたくさん聞かれた! 五味さん、とりあえずやりましょう? (番組ディレクター 松原 翔)
ノーナレ「シュガーデート」
Q.1 制作するうえで、どんなことにこだわりましたか? 取材の基本でもありますが、可能な限り多くの“パパ活”をしている女性と男性の話を聞くように心がけました。限られた制作期間ということもあり、電話取材も含めて50人程度にとどまりましたが…。ひと口に“パパ活”と言っても、そこに関わる人たちにはさまざまな事情があり、一人か二人を取材して普遍化することは出来ないと考えました。NHKが制作するドキュメンタリーは、一人の取材対象者を掘り下げていくことがセオリーで、何かしらの結論を導き出すことが多いと思います。 一方で今回は、できるだけ多くの取材対象者のインタビューで構成し、また、もう少し事情を知りたいと思ってもらえる余白を残すことで、視聴者に“パパ活”という現象を考えてもらうきっかけにしたいと考えました。また、視聴者に考えてもらうという趣旨で、各シーンにわかりやすい意味づけをしないように、番組を通してBGM(音楽)をつけませんでした。 また、番組全体の読後感は、ある種、スッキリしないものにしようとこだわりました。“パパ活”だけではありませんが、世の中のあらゆることが、白と黒で分けられるものではなく、ましてや、ハッピーエンドで終わるわけでもないので、混とんとした現実を伝えるべきだと考えました。 Q.2 ぜひ見てもらいたいシーンは? “パパ活”で危険な思いをしているにもかかわらず、今も“パパ活”を続けている女性が出てきます。頭や理屈では理解していても、“パパ活”をやめられない現実をどう見るか、考えていただければ幸いです。 Q.3 苦労したところ、難しかったことは? “パパ活”している人たちには後ろめたさがあり、それでも続けるしかないと考える事情があります。プライバシーに配慮した上で、どのようにリアルな声を伝えていくかに苦労しました。一方で、 当事者たちは“パパ活”のことを周りに話せないということもあり、心にとどめている言葉をたくさんお持ちでした。たとえ共感されなかったとしても、それぞれに伝えたい思いがあったので、インタビューに答えて下さったのだと思います。 Q.4 放送後の反響で印象的なことはありますか? ネットや周囲からは「読後感が最悪」という声が少なくありませんでした。予想はしていましたが、想像以上でした。また、読後感でいいますと、「現実を投げかけるだけで無責任だ」という声もありました。たしかに、30分近く付き合って見て、救いを感じられないと視聴者にとっては歯がゆい感情を持つのは当然だと思います。一方で、「パパ活のリアルを初めて見た」、「コロナの影響がパパ活にも出るなんて」…など、今まで知らなかった現実に向き合っていただいた視聴者もいました。 テレビは後味の悪い玉、目を背けたくなるような現実を視聴者に投げかけることも、時には必要だという思いがあったので、一人でも“パパ活”を考えるきっかけにつながっていれば幸いです。 また、当事者の中には、言葉で口にすることで、自分を客観視することができたと話して下さった方もいます。番組の中で自分の姿を見ることで、危険なことをしていることに改めて気づいたともおっしゃっていました。
NHKスペシャル「REGENERATION 銃弾のスラム 再生の記録」
Q.1 制作するうえで、どんなことにこだわりましたか? ▼「主観的な目線」映像を生かすため、番組制作の常識の枠にとらわれないように努めました。 そもそもですが、異色の牧師アンディさんとの出会いは、2020年放送のNHKスペシャル・BS1スペシャル「世界同時ドキュメント 私たちの闘い」の取材で、世界各地で新型ウイルスと闘う市井の人々を探していたとき、南アフリカに「ギャング牧師」と呼ばれる人物がいる話を聞いたことが始まりでした。「スマホやアクションカメラで、あなたの活動を一筆書きで記録してみませんか」との依頼に共鳴してくれたアンディさんは、自らの体にカメラを丸一日装着したまま、ギャングの間を駆け回りました。その映像を初めて見たときの衝撃は忘れられません。今後コミュニケーションを重ねて二人三脚で撮影を進めたら、壮大な物語を見られるかもしれないと直感しました。 職業カメラマンの映像とは違い、ピンポイントで狙って撮れるわけではないので、ギャングの顔が一部しか映っていなかったり、アンディさんの顔が見たいと感じる瞬間でも都合良く顔は映っていない。けれどもこの「もっと見たいのに見えない」もどかしさが、逆に快感となり没入感につながるように、基本的な映像ルールも時には飛び越えながら、映像の持つリアルな手触りを大切にしようと努めました。 Q.2 ぜひ見てもらいたいシーンは? ▼巨大ギャングの幹部プレストンの「目」の変化 極度の貧困から犯罪に手を染め、組織から抜け出せなくなっていくギャングの若者たち。 その闇の中にあったプレストンが、アンディというひとりの「部外者」の本気に触れて、自分たちも現状を変えられるかもしれない、変わりたいというわずかな希望を、少しずつ膨らませていくプロセスを、当事者の言葉と映像に注目して一緒に体験していただけたらと思います。私自身、そのプロセスに伴走しながら、果たしてプレストンにはアンディの熱意が響くのか、疑念と希望との間で何度も心揺さぶられ、彼の目が徐々に光を取り戻していく姿に、ハッとさせられたからです。とくに「プレストンが約束の土地を訪れたシーン」。物語を伴走あるいは追体験しながら、何か大事なことが心に突き刺さってくる、これぞ現在進行形ドキュメンタリーの醍醐味だと、改めて実感したシーンでした。 Q.3 苦労したところ、難しかったことは? ▼ギャングとの距離感 牧師アンディさんの活動の社会的意味を正確に理解するためには、一歩引いた立場からの「客観的な目線」での取材の積み上げも不可欠でした。ギャングが抱えている闇は何なのか、アンディのことをどう思っているのか、ギャングへのインタビュー取材も重ねる必要がありました。彼らとの距離の取り方を一歩間違えれば、リアルな映像もとたんに「嘘くさく」なってしまう恐れがありましたし、抗争が進行中の状況下では、互いに安全の確保も問題となります。取材者としてギャングとどう対峙するか、神経をすり減らす日々でした。 Q.4 放送後の反響で印象的なことはありますか? ▼見た方の人生軸に応じて、様々なとらえ方をしていただけたことがとてもありがたく、発見でもありました。 「最初は遠い国の話か、と興味本位で見始めたら、いつの間にか食い入るように最後まで見た。とてもひとごととは思えなかった」「プレストンは、今ここから抜け出せない自分と同じ」という声。 ギャングたちの荒んだ環境を日本の戦後の状況と重ねる声もありました。 そして、アンディさんやギャングの変化に触れて「世界を変えるのは、ほんの小さな一歩からなんだ。自分も一歩を踏み出そうと思った」という声も頂きました。 ▼中でも印象的だったご意見があります。 最初は「変わり者」としか感じられなかったアンディの姿が、番組が進むにつれ見え方が変わり、重要な問いを突き付けてきた。「悪いのはギャングだけなのか?ギャングの悲哀を直視しようとせず、何のアクションも起こさない、おまえたちはどうなんだ?」と。普遍的なテーマ「格差という世界共通の困難と、私たちはどう立ち向かうか」を、この物語の中にくみ取って頂けた気がして、制作してよかったなと素直に思わせていただきました。 (番組ディレクター 座間味 圭子)
ETV特集「原発事故 最悪のシナリオ」
Q.1 制作するうえで、どんなことにこだわりましたか? 原発事故当初の緊張感を、インタビューでいかに再現するかです。 この番組は事故直後に危機管理を担った政府首脳や自衛隊、アメリカ軍関係者らのインタビューを中心に構成しています。当時の決断の難しさや事態の進捗を巡る危機意識をどうやって視聴者の皆さんに共有してもらえるか。その手段として出演者の皆さんには、数時間に及ぶロングインタビューを行いました。出演者の皆さんに当時の経験を思い出していただきながら、じっくりと話を聞くことで、感情のこもったインタビューが撮影できたように思います。 Q.2 ぜひ見てもらいたいシーンは? 政府首脳や高官らの喜怒哀楽のこもったインタビューです。 上述の通り、通り一遍に話を伺うインタビューではなく、10年前の出来事があたかも眼前で起きていることかのように、視聴者の皆さんの想像力をかき立てるインタビューを目指しました。当時、重い責任を担った方々が、これだけ赤裸々に思いを表出するという機会は、これまでなかなかなかったかのように思います。 Q.3 苦労したところ、難しかったことは? 日本政府、自衛隊、アメリカ政府、米軍、東京電力など、複雑に入り組んだ当事者の関係をどう整理し番組に仕上げるかです。 番組は、原発事故の「最悪のシナリオ」をめぐる当事者らの動きを時間軸に沿って再構成していくことを試みました。それらの事実はこれまで断片的には語られていたものの、誰が何を判断し、その判断が、他の人のどんな判断に影響したのか、取材を始めた当初はわからないままでした。 百名以上の当事者に取材し、情報を一つ一つ積み上げ検証していく行為は、大変な労力のいる作業でした。 Q.4 放送後の反響で印象的なことはありますか? 当時の政府高官の一部は番組をON AIRで見てくださったようでした。 彼らのような政策決定の中心にいる人たちでさえ、番組で初めて事実の詳細を知ったそうです。 彼らが番組後に感想をとツィートするなどされたことをふくめ、Twitterの反響はとても大きくかったです。これが「バズる」と言うことかと、喜びと同時にハラハラする気持ちで放送後を迎えました。 (番組ディレクター 石原 大史)
ETV特集「ドキュメント 精神科病院×新型コロナ」
Q.1 制作するうえで、どんなことにこだわりましたか? 病院の中にカメラを据えていると、絶句してしまうような厳しい現実を突きつけられることも多々ありましたが、自分が率直に感じた驚きや怒りの気持ちを大切にしながら取材を続けました。全てのことは「精神科病院のなかで起きていること」ではなく、私たちが暮らす社会と地続きであるということが、テレビをご覧いただく皆さんに少しでも伝わればと思いながら制作しました。(持丸) 普段、高い塀に囲まれ、入ることが難しい精神科病院の内部。新型コロナの裏側で何が起こっているのか、これまで何が起こってきたのか。取材の狙いは「特定の病院が悪い」とか「特殊な病院が悪い」という話ではありません。日本社会が生み出した、人間の尊厳や命までも奪う構造そのものを描くことを意図しました。(青山) Q.2 ぜひ見てもらいたいシーンは? 全てのシーンです。取材に御協力下さった方は、患者さん、ご家族、医療者、それぞれ立場こそ違えど「精神医療の現状を変えたい」という思いで真摯に取材にこたえて下さいました。「自分がもし彼らの立場だったら」、「南京錠をかける側に居たら」と、考えながらご覧いただけたらと思います。(持丸) 特にY病院の患者の証言と、松沢病院の苦悩、そして行政の対応です。「世の中に何かが起きた時に、ひずみは必ず脆弱な人のところに行く」という院長の言葉の意味を噛みしめてほしいです(青山) Q.3 苦労したところ、難しかったことは? 苦労したのは、証言者を探すこと。精神疾患と新型コロナ感染という二重のスティグマを抱える人も多く、取材への協力者を探すのはとても大変でした。また、重い口を開いてくれた告発者たちの安全をどう担保するかということにも腐心しました。病院によっては、閉鎖病棟に暮らす患者さんたちの通信手段が想像以上に制限されていて、やりとりをすること自体も難しく、薄氷を踏むような取材の連続でした。(持丸) 現場に密着した持丸ディレクターとともに制作したのですが、取材相手のみなさん、それぞれが強い思いを持って取材に応えてくださっている膨大な1年の記録をどのように再構成していくか、取材・編集の作業が非常に難しかったです(青山) Q.4 放送後の反響で印象的なことはありますか? 見る人の立場によって全く異なるご感想をいただいたことが印象的でした。嬉しかったのは、取材先の患者さんやそのご家族、医療者の方々から、「伝えてくれてありがとう」と言っていただけたこと。一方でご出演いただいた方の中には、夜間テレビを見ることが出来ず、携帯電話もネットも使えない環境のため、未だに番組にアクセスできていないという長期入院の患者さんもいらして、ちょっと複雑な心境です。(持丸) ETV特集はEテレ深夜に放送しています。今回たまたまオリンピック期間中の放送となり、「こういう番組を待っていた」「もっとこういう番組をやるべきだ」という反響を、思ってもみないほど多く頂けてうれしく思いました。ETV特集は普段から面白い回が多いので、皆さん毎週チャンネルを合わせていただけるとありがたいです。(青山) (番組ディレクター 持丸彰子・青山浩平)
シェア・ストーリーズ 〜人生最後に誰と何を話しますか?〜
Q.1 制作するうえで、どんなことにこだわりましたか? 著名人ではない市井の人々が交わす「会話」だけを見せる番組です。 喫茶店で、偶然に隣の人の会話が聞こえてそれが妙に面白いと感じるような番組にしたいと思いました。 Q.2 ぜひ見てもらいたいシーンは? 最後のほうに出てくる在日コリアンのご夫婦の会話のなかで、お父さんがギターを弾くところです。 撮影をしていたとき、「この人に出会えてよかった」と、こころから思った瞬間だからです。 Q.3 苦労したところ、難しかったことは? 一般の人から「人生最後の会話」を募集するという企画だったので、会話をしてくれる人を探すことに非常に苦労しました。およそ200人ほどの人とメールやリモートで取材をして、そのうち40組ほどに撮影をお願いしました。たいへんでした!!! Q.4 放送後の反響で印象的なことはありますか? 非常に悩みながら撮影に臨んでくださった、難病を抱えた娘さんとの会話をしてくれたお母さんからオンエア直後に電話があって、「番組に出てよかった」といってくださったことです。ほっとしたしうれしかったです。 (番組ディレクター 寺越 陽子)
東北ココから「埋もれたい”俺” 23歳の景色」
Q.1 制作するうえで、どんなことにこだわりましたか? ①セクシャルマイノリティ当事者も、仙台に暮らす他の人々と同じように、“普通”に暮らしているということを感じてもらうこと。顔出ししないという事情ゆえでもあったのですが、視聴者が彼の目線に立って共感してもらえるように、「目線カメラ」を据えました。(アイデアは上司です笑) ②私も24歳で主人公と同世代。若さや今らしさが伝わるように、爽やかな番組にすることにこだわりました!若い世代に人気のヨルシカさんの曲を使ったり、n-buna(ヨルシカ)さんにナレーションもお願いしました。 Q.2 ぜひ見てもらいたいシーンは? ① 高校時代からの友達とのBBQのシーン →友達同士でバーベキューをしているだけの場面なのですが…、セクシャリティとか関係なく一緒に遊んで話せる「友達」という存在がすごく尊く、良いな~、と感じました。 ② n-bunaさんのナレーション(シーンじゃないですが) →ナレーションはn-buna(ヨルシカ)さん。人生初のナレーションとは思えない、とっても素敵な落ち着いた声で、収録の時は何度も読み直して下さり沢山協力して頂きました。 Q.3 苦労したところ、難しかったことは? 番組として、何気ない日常にどういう意味を持たせて、撮影していけばいいのか悩みました。「彼の生活をただ見せてもらっていては、珍しいもの見たさと変わらないよ」とロケ中にカメラマンから言われ、非常に反省しました。また、そもそも初めての30分番組で全てが大変でした💧。 Q.4 放送後の反響で印象的なことはありますか? 発達障害があるお子さんのお母さんからもらったお手紙。お子さんの見た目では分からない生きづらさと番組主人公の彼を重ねて、番組に共感して頂きました。「“埋もれたい俺”さんを応援しています!」というお言葉を頂き、なんだか嬉しかったです! (番組ディレクター 中里 規子)
ノーナレ「クイズ最高の一問」
Q.1 制作するうえで、どんなことにこだわりましたか? 【シチュエーション型のドキュメンタリーへの挑戦】 これまで人物ドキュメンタリーを制作する際には、被写体の「日常」を徹底的に観察する、いわゆる密着取材の形で撮影してきました。しかし、レギュラー番組の撮影期間である1、2ヶ月の短期間には、想定外のことが必ずしも起きるわけではなく、予定調和を超えるためには少なからず運のようなものに左右されることにジレンマを感じていました。 被写体の本質を描くための手法は、他にもあるのではないか、と考えるなかで思いついたのが今回の企画です。 主人公の方に制作側が用意したある種の「非日常」の囲いの中に入っていただくことで、感情の起伏に遭遇する機会の確率を高め、密度の濃い番組にしたいと考えました。 また、「日本屈指のクイズ作家が考える人生最高の一問は何か」という、一見バラエティー番組のような切り口にすることで、エンターテイメントと硬派なドキュメンタリーを融合させることにもこだわりました。 Q.2 ぜひ見てもらいたいシーンは? 番組ラストで出題される「人生最高の一問」です。 最後に出題されるクイズから逆算して、それまでのパートを構成しています。 番組で伝えたかったクイズ作家の主人公たちの心・技・体の核が凝縮されている場面です。 Q.3 苦労したところ、難しかったことは? 「最高の一問」に何を出題するか。主人公のお二人と何回も議論を重ねてひとつのクイズに辿り着きましたが、放送するまでは視聴者の方に納得してもらえるか不安もありました。 放送後の反響は、「時間返せ!」などといった批判的なものごくわずかで、概ね好意的な意見が多かったので安心しました。 Q.4 放送後の反響で印象的なことはありますか? 「一本の映画を見たような満足感があった」と評価してくれる方々がいらっしゃったのは嬉しかったです。また、主人公がクイズ作家であるということからか千鳥のノブさん、東野幸治さん、パンサー向井さんをはじめテレビ業界で活躍する方が感想をSNSで発信してくださり、一か八かの企画を肯定してもらえた気持ちになりました。一方で、番組の根幹が制作側の演出によるものであるため「これはドキュメンタリーではないよね」と局内の方々を中心に批判的な意見も多くありました。 (番組ディレクター 東森 勇二)
ノーナレ「鯨を獲る」
Q.1 制作するうえで、どんなことにこだわりましたか? 自分自身が裸になること。 電波のない洋上に53日間泊まり込み、毎日同じ風呂に入って家族以上に密に過ごしました。 毎年、半年以上も家族と離れて南極に漁に出ていた乗組員のみなさんの世界観を映像に残すためには、自分自身も何もかもさらけ出して生活しなければならないと思い、悩みも全て打ち明けて本心から向き合うことを一生懸命続けました。 Q.2 ぜひ見てもらいたいシーンは? 大向見習い砲手が最後の射撃を終えたあと、捕殺報告書を記入する横顔があります。 「鯨を獲る」ということを自分のものにした男がどんな顔を見せるのか。 誇りを賭けて生き物を狩ることとはどんなことなのか、ヒトとして生きることとは一体どんなことなのか、ありのままに映し出された横顔だと思います。この横顔から捕鯨というものの真実を自由に感じて欲しいです。 Q.3 苦労したところ、難しかったことは? 海の広さを映像的に表現すること。 洋上で広大な海をひたすら眺め続けてクジラの痕跡を探す「探鯨」をしていると、数キロ先が歩いて数分で行けるように感じるほど近くに見え、現実感が消え、自分が自然と一体となったような不思議な感覚を覚えるのですが、この巨大な感動をどう表現できるか苦心しました。クジラを狩る者だけが知るクジラの思考、海の神秘を少しでも映像に残すことができていたら嬉しいです。 Q.4 放送後の反響で印象的なことはありますか? クジラの焼き肉がおいしそうだと言って頂けて嬉しかったです! 少し炙って半分生で食べるのですが、いくら食べても食べ飽きない不思議な味です。乗組員も口を揃えて「なぜだかクジラは毎日食べられるんだよなあ」と言っていました。 (番組ディレクター 鈴木 夏生)
ドキュメント72時間「夏の終わりに 駅地下の駐輪場で」
Q.1 制作するうえで、どんなことにこだわりましたか? こだわりといったものは特にありません。むしろ、そういった制作者としての自我みたいなものを極力、排して現場に望む事を心がけています。いつ、誰と出会い、何が起こるか分からない、どんな人からどんな話が聞けるか、その時になってみないと分からない、そんなスリリングなロケがドキュメント72時間の現場なので、何が起こっても素直に反応できる心持ちを何よりも大切にしています。 Q.2 ぜひ見てもらいたいシーンは? こちらも特にありません。正確に言うと、ないわけではないけど、ある部分のみに注目してほしくはない、というのが正直な気持ちです。テーマを持って特定の被写体を描く一般的なドキュメンタリーとは違い、この番組で描いているのは「時間」であり「場所」であって、その中で出会う人々を通して、3日間で何が見えてくるのか、という試みをしています。 ぜひ見てほしいところを、あえて言うなら、読後感というところでしょうか。番組が始まったときのその回の場所に対する印象が、3日間を通してどう変化したのか。どこにでもある街角に3日間いただけで、自分の知らなかった世界にすこし触れられる、それがこの番組の醍醐味だと考えています。 Q.3 苦労したところ、難しかったことは? 駐輪場は、「自宅」と「職場や学校」などの間の、ただ通り過ぎるだけの場所のため、ここに滞在して何かをするという人がいないため滞在時間が短く、こちらが声をかけるタイミングを逃す事が多かったです。また朝のピーク時など、これから仕事に向かう人たちは時間がないため、取材に応じてもらえない、むしろ迷惑をかけてしまうこともありました。当然、ロケ前からある程度は想定していましたが、いざその状況に身を置くと胃が痛くなる思いをしました。 Q.4 放送後の反響で印象的なことはありますか? 平成から令和に世が変わっても、暮らしは一向に楽にならない。加えてコロナ禍によってますます未来に見通しが立たなくなった。それでも、それぞれの日常を生きていかなくてはいけない。 今回の「駐輪場」の回では、そういった今の時代の断片を切り取れたのではないか、今の社会の空気を感じられる作りになったのではないか、そんな手応えを感じていました。 放送後に寄せられた感想で印象的だったのは、まったく違う反応が、大きく分けて2つあった事です。 ひとつは、どんな状況でも懸命に生きている人たちの姿に「励まされた」という声。 もうひとつは、つらい状況で生きる人たちの姿を「見たくない」という声。 YouTubeや動画配信サービスが一般化するにつれ、自分の見たい物を見る、見たい物しか見ない、という傾向が強くなってきた印象があり、「ドキュメント72時間」という番組にに求めらる役割も少しずつ変化してきているのかもしれない、そんな事を考えさせられました。 (番組ディレクター 中村 洋三)
カノン~家族のしらべ 2017~2021~
Q.1 制作するうえで、どんなことにこだわりましたか? あまりに筋書きのない番組で、ディレクターのスキルを特段発揮できたわけではありませんが、唯一こだわった点があるとすれば、ご家族のありのままの日常を記録すること。飾らないご家族で、その暮らしぶりや営みがとても魅力的に思えたからです。とは言っても家庭に他人が入るとどんな人でも普段通りには振る舞えないもの。「私(カメラ)を石ころだと思って気にしないでください」と無茶なお願いをしたりもしましたが、結局、ディレクターやカメラの存在を石ころや空気のように感じて頂けるようになるまで、(ご迷惑を顧みず)とにかくご家庭に居座り続けました。 Q.2 ぜひ見てもらいたいシーンは? 主人公のしおりちゃんが出産の直前にピアノで「カノン」を奏でるシーンです。しおりちゃんが特別養子縁組で家族として迎えられた時に買った記念のオルゴールの音色であり、番組のタイトルでもあり、とても重要な意味を持つ「カノン」。だからこそ、お腹の大きいしおりちゃんがカノンを弾くシーンを番組上どこに置くか、とても迷いました。一つの音が重奏となって厚みを帯びていくように、新たな家族が増えて一つになっていく家族の姿と、しおりちゃんの母になる覚悟を、出産直前に弾く「カノン」に少しでも感じて頂けると嬉しいです。 Q.3 苦労したところ、難しかったことは? ご家族との距離のとり方、です。2017年から4年間、長期に渡ってご家族に密着させて頂きましたが、その中でディレクターは「石ころのような存在」になるのと同時に、家族のあらゆることを知り過ぎてしまう存在になります。そのため、インタビューの質問の投げ方やご家族の言葉が、「内輪の内容」になることが多々ありました。家族に最も近い存在ながらも常に客観性を保つこと、バランスのよい距離感を見つけることが、ディレクターとして最後まで悩ましい点でした。 Q.4 放送後の反響で印象的なことはありますか? 多くのディレクターから「どのようにして決定的なシーンを撮影できたのか」と質問をもらったことです。決して、全てのシーンに都合よく居合わせられるはずもなく、むしろ現実に起こっている決定的なシーンはほとんど撮ることができませんでした。そんなとき編集スタッフにもらったのが「撮れないことがドキュメンタリー」という言葉です。全てを記録できないのが当たり前。むしろ、背景にあるさまざまな事情で撮れない事実こそがリアルなのだと。編集・撮影スタッフが映像表現でカバーしてくれたことで、撮れなかった部分は生々しく、「決定的なシーン」はリアルさを持って感じてもらえたのではないかと思いました。 (番組ディレクター 安里 愛美)
NHKスペシャル「イナサ~風寄せる大地 16年の記録~」
Q.1 制作するうえで、どんなことにこだわりましたか? →東日本大震災10年というタイミングで、16年間の記録をまとめたものではありましたが、 いわゆる震災の特集番組としてだけではなく、人と人のつながり、人と土地とのつながり、 力強い生き方という、普遍的なテーマを描くことにこだわりました。 Q.2 ぜひ見てもらいたいシーンは? →仮設住宅で、壁を隔てた別々の生活になってしまった漁師の祖父のために、当時高校生の孫娘が手作りの大漁旗を渡すシーンです。津波によって生活が一変したにもかかわらず、この土地でその海に生き海を愛す祖父の気持ちを、無意識に自分の心と重ね合わせている孫娘が、ごく自然に画面に出ています。 Q.3 苦労したところ、難しかったことは? →ドキュメンタリーはいつも難しい。強いて言えば、16年という歳月の長さと重みをこの尺にまとめたところでしょうか。 Q.4 放送後の反響で印象的なことはありますか? →幅広い世代から反響があり、特に若い世代から、人間の物語として受け取ってもらえたことです。 (担当プロデューサー:福田 秀則)
日本一の氷瀑に挑む「立山連峰ハンノキ滝 単独初登攀(はん)の記録」
Q.1 制作するうえで、どんなことにこだわりましたか? 500mに及ぶ氷瀑の登攀を撮影するなんて前代未聞。しかも単独の登攀であり、他の山番組やレース番組のように、カメラマンが密着することも叶わない。また急遽立ち上がった企画だったため、大規模な撮影隊を組織することも難しかった。限られたスタッフの中で、それでもできる限り密着感を出すようにしたいと考え悩んだ末、超望遠レンズやドローン、さらに360度カメラなど、最新の機材を駆使することにした。特に360度カメラは、眼前の主観映像だけでなく、垂直の足元や、頭上から雪崩が落ちてくる様子など、臨場感・迫力ともに抜群の映像を提供してくれた。 Q.2 ぜひ見てもらいたいシーンは?(理由もお願いします) ハンノキ滝核心部、中段の氷瀑と格闘するシーン。ドローンと360度カメラをふんだんに使い、氷瀑の美しさ、それを登る臨場感、緊迫感が十二分に伝わってくる、これまで見たことのない映像となっている。またその間のギハードさんのつぶやきも見所の一つ。極限の状況の中、クライマーがどんなことを考え、アックスを振るっているのか、あからさまに語ってくれている。 Q.3 苦労したところ、難しかったことは? 垂直の氷瀑での撮影は全てが難しい撮影だった。そもそも滝の下のベースキャンプに行くことすら厳しい。厳冬期の立山は雪崩も多く、現地の人たちも行くのを躊躇うような場所。撮影隊には、ディレクターやカメラマン、歩荷も含め、山のスペシャリストを選抜して撮影に挑んだ。 滝の上部は、下からのカメラでも狙えないため、別働隊が先回りし、滝の上部から下降、ハーネスで固定しながらの撮影となった。ギハードさん本人の快挙もさることながら、事故無く難しい撮影を貫徹した撮影スタッフにも拍手を送りたい。 Q.4 放送後の反響で印象的なことはありますか? 「日常では決して見ることの無い風景に圧倒された」「見る者を無心にしてしまう迫力があった」等、映像への驚きについての感想を多数頂いたが、印象に残ったのが「意外と地味な作業の繰り返しで、張り付いている姿はかっこいいものでは無かったが、その大変さが伝わってきて感動した」「孤独なクライミングの恐怖感、ありのままの姿が映し出され、自然に挑むことの意味を考えさせられた」という感想。冒険は、一見かっこいいものに思えるが、実際には雄大なる自然の中、孤独に耐えながら、地味なことを一つ一つ積み上げていくもの、というリアルな部分が伝わったように思う。 (番組プロデューサー 国沢 五月)
ETV特集「夫婦別姓〜”結婚”できないふたりの取材日記〜」
Q.1 制作するうえで、どんなことにこだわりましたか? 自分を含め、登場人物のそれぞれの"あたりまえ"をしっかりと記録することにこだわりました。 制作のきっかけは、プロポーズした際、「あなたの名字にはなりたくない」と言った妻の一言。 結婚では女性が名字を変えるのが"あたりまえ"と考えていた私にとって、自分の中の"あたりまえ"が否定され、大きな衝撃を受けた一方、考え直した瞬間でもありました。 なぜ、自分を含め、多くの日本人が「改姓するのは女性側」を"あたりまえ"と思うようになっているのか。家族は同じ名字が"あたりまえ"なのか。"あたりまえ"の選択をしないといけないのか、日本社会の"あたりまえ"は、本当に"あたりまえ"なのか、などと・・・。 当事者の心境としては、深刻な問題に悩み、苦しい日々でしたが、これはとても大切な議論につながるのでは!という予感がしたので、映像に残していくことを決めました。自分自身が夫婦の名字や家族についての"あたりまえ"に悩まされ、葛藤し続けたので、いろんな人の"あたりまえ"をとことん撮ってみようと臨んだのです。 番組では、自分や両親、選択的夫婦別姓に反対する人のそれぞれの"あたりまえ"や"常識"が出てきます。決して、お互いの主張を真っ向から否定することはせず、同じテーブルについてしっかりと話し合うことを心掛けました。 セルフドキュメンタリーは2年半にわたる記録となりましたが、当事者になったことで改めて日本社会の"あたりまえ"と向き合いました。それっておかしくない?もう一度考え直すべきじゃない?夫婦の名字だけではなくて、この社会にある色んな"あたりまえ"が、誰かを苦しめてない?もっと楽にいこうよ、日本社会!という願いも込めて、作品を仕上げました。 Q.2 ぜひ見てもらいたいシーンは? 開始から16分後あたり、自宅にて夫婦二人で話し合うシーンです。 私自身が自分の中の"あたりまえ"を一度崩し、夫婦別姓で生きていくことを決意したものの、 "ふつう"ではない家族になることで、子どもができたら、子どもが嫌な思いをするのではないかと心が揺らいでいるシーンです。そのこと自体にショックを受けた妻は、泣きながら「あなたは根本的には変わってない。」と・・・。 "自分撮り"の中で、一番ハッとした瞬間でした。 "多数派"にいないと不安になってしまう自分、 世の中の"あたりまえ"から外れ、得体の知れない不安にビビっている自分、のような・・・ ここでのふたりの話し合いは2カットのみですが、後ろのカットは5分近くが素材のままです。 "間"も含めて、一番、一緒になにかを感じ、考えてほしいなぁと思うシーンです。 Q.3 苦労したところ、難しかったことは? いろいろあった気がするのですが、もう忘れました(笑) それよりも作品に顔出しで協力してくれたすべての方への感謝の気持ちでいっぱいです。身内であるがゆえに、とてもセンシティブな話になったにもかかわらず、しっかりと思いをぶつけてくれた妻や両親。裁判の原告でありながら、お子さんも一緒に自分の考えを伝えてくれた事実婚家族。一切の忖度なしに"国側"の論理を語ってくれた亀井静香元衆議院議員などなど。皆さんに改めて心からありがとうございましたと伝えたいです。 Q.4 放送後の反響で印象的なことはありますか? 放送後、SNSでは亀井元議員の発言に非難が集中してしまったのが、個人的には不本意でした。 その人個人の人格を疑うのではなく、亀井氏の"あたりまえ"はなぜそうなったのか、番組全体を通して見て、夫婦同姓が義務付けられた時代背景などを踏まえたうえで、あの発言をそれぞれが咀嚼してほしいと今でも思っています。 (番組ディレクター 高橋敬明)
ノーナレ「お父さんのねぶたがいちばん好き」
「いやあーこんな子どもがいるんですねえ・・・青森には」 「いっちょねぶた再起の年を、じゅんちゃんの目線で記録していく番組はどうかな?」 はじめてじゅんちゃんと出会った日の帰りみち、局に戻る車のなかで私と阿部カメラマンはそんなやりとりをしていました。 去年7月の暑い日。私たちは青森のねぶた師全員のインタビューを撮るべく、家々を回っていました。皆さんのなかには「え、“ねぶた師”? “ねぶた”ならなんとなく知っているけど・・・」という方もいるかもしれません。当然です。私もそうでした。青森に赴任するまで秋田4年、仙台4年と、東北の文化・風土についての話題にそれなりに触れる機会の多かったはずの私が、です。「“師”とつくくらいだから、きっと孤高の雰囲気の漂う、気難しい人たちばかりだろうなあ」みたいな偏見さえ抱いていました。失礼のないように、ととりあえずの下調べをして、話を伺いに飛び出したのです。ところが・・・。 「違った。青森に住んで3年にもなるのに、全く知らなかった・・・」。 青森の短い夏を彩る「青森ねぶた祭」。あの巨大な紙の「灯籠」は毎年新しいものが手作りされています。どんなものにするのかを構想し、下絵を描き、針金を束ね骨組みして和紙を貼り、色をのせて作り上げていくのが“ねぶた師”と呼ばれる人たちです。 そのねぶた師たちの取材を通してわかったのは、“ねぶた”がいかにチームの力で生み出されているかということ。紙貼りは多くが家族内の誰かが手伝っての共同作業です。それでも自らが塗った色に納得できず、完成直前になってビリビリに破き、「ここはイチから作り直しだ!」と言い出すねぶた師や、祭りが近づくにつれ「まだ出来ていない」「予算が尽きそうだ」と悪夢にうなされるねぶた師もいます。そうした数々のピンチをみんなの結束力で乗り切った末に、あの鮮やかな青森のねぶたがあったのです。そのため多くのねぶた師が、家族に対して感謝の気持ちを口にしていました。インタビューに立ち会った際に、そんな夫の気持ちを知り、カメラの後ろで泣き出す妻もいます。 「おいおい。これは実に興味深い世界だぞ」 予想を心地良いくらいに覆されたところに、人は「より知りたい」というエネルギーが湧き出るのかもしれません。私もねぶたの世界についての関心がさらに高まりました。そんなとき、物語の主人公・じゅんちゃんに出会ったのです。 じゅんちゃんのお父さんは、青森市で大型ねぶたを制作している14人のねぶた師のひとりです。「ねぶたの無い夏」をどう受け止めているのかインタビューしていたとき、突然カメラの画角の外から女の子の声がしたのです。娘のじゅんちゃんでした。「私はお父さんのねぶたが、いちばん好き!」。まさに番組タイトルそのままの言葉でした。「ねぶたは元気のもと」「ねぶた小屋は夢の国」。10歳の女の子から次々と繰り出される“言葉”に、私たちは次第に引き寄せられていきました。 NHK青森放送局では、過去にねぶた師を主人公にした番組を何度も作ってきました。しかし、ねぶた師を支える家族に焦点をあてた番組は数えるほど。とりわけ“子どもの視点”でとらえた記録はほとんどありません。そこで冒頭のような会話となったのです。「去年ねぶた祭りが行われなかった。そのぶんも含めて『2倍爆発したい!』と言っている。盛り上がるぜーきっと」。 ・・・しかし、そんな浅はかなディレクターの考えは、またも見事に打ち砕かれます。 「ねぶた祭り、今年も中止」。 あれを撮りたいこれを撮りたいと前もって考えていたことは、すべて吹き飛びました。それでもじゅんちゃんに出会った私たちは、この状況下のじゅんちゃん家族を記録したいと取材をお願いし、撮影を続けさせていただきました。コロナ対策でそう頻繁にお邪魔するわけにもいかず、番組に登場する映像は、限られた日にカメラを持って行って、たまたまその日に記録できたものがほとんどです。 番組の結末含めて、事前の予想や思い込みが次々と覆され、「あとは視てくださった方々に、おまかせ!」という気持ちで送り出したこの番組。どんな映像や音声、そして言葉が、皆さんの印象に残っているでしょうか。ひとつでもあったなら、本当に嬉しく思います。 (番組ディレクター 小林竜夫)
目撃!にっぽん「妹が生まれなかったかもしれない世界 ~出生前診断と向き合って~」
Q.1 制作するうえで、どんなことにこだわりましたか? ●賛否両論もありセンシティブなテーマだからこそ、「結論ありき」の番組には絶対にしたくありませんでした。そもそも自分の中にも結論はなかったからこそ、取材の過程そのものを番組にしたいと思いました。最初に全体の構成を考えるのではなく、ひとつずつ取材を重ね、取材で感じたことをもとに「次にどんな人に話を聞いてみたいか」という自分のモチベーションを大切に取材や編集をしました。 Q.2 ぜひ見てもらいたいシーンは? ●出生前診断でそれぞれの決断をした人たちは、覚悟を持って私に話をしてくれました。その言葉はどれも重く、是非聞いてほしいです。編集マンもずっと泣きながら素材を見ていました。なかなかインタビューを短く切れず、30分番組なのに最初の試写は1時間以上ありました・・・。 ●そして、私の妹・彩英のなにげない姿を見てほしいと思います。妹に、「生まれてきてよかったか?」なんてことは聞けないし、聞いたとしてもその質問の意味は理解できないと思います。それでも、彩英のこぼす言葉の中には、姉の私からすると、彼女はとても幸せに生きているんじゃないかと思う言葉が散らばっています。たとえば番組の最後の方で、彩英がカラスが怖かったけど通りがかりのお姉さんが助けてくれた話を私にしてくれるシーンがあります。私は彩英のこの話を聞いたときにとても嬉しくなったし、その先にあたたかな社会を感じました。 Q.3 苦労したところ、難しかったことは? ●セルフドキュメンタリーならではの難しさだと思いますが、ディレクターである自分と、個人としての自分、どちらも消すことはできないので、常に両方の自分がいる感じがしていました。特に編集作業のときには、自分の家族の話の部分などはどの部分を使うのがいいのか判断が難しく、自分の大切にしたいものを忘れないようにしながらも編集チームで客観的な意見をもらいながら作ってきました。 ●また、本音を話してくれた両親や取材を受けてくれたみなさんが、番組の尺の中で編集していったときに客観的にどう見えるかということや番組全体のバランスは、複眼的に確認しながら丁寧に制作しました。 Q.4 放送後の反響で印象的なことはありますか? ●夫婦やカップルで番組を観てくれた方が、出生前診断について話すきっかけになったと言ってくれることが一番嬉しかったです。出生前診断を受けて異常がわかったひとたちの決断を変えたい訳ではなく、選択をする人たちが納得のいく選択をできることや、いま生きている障害のある人たちに向ける視線が少しでも温かいものになるといいなと思っています。 ●ニュートラルな視線であったことが、「自分ならどうする?」と考えることができたという声をたくさんいただきました。セルフドキュメンタリーであるからこそ自分の当事者性をもっと出したほうがいいのか?など迷うこともあったのですが、演出方法はセルフドキュメンタリーでもニュートラルな視点で描いたことで伝えられた想いがあり、観ている人に考える余地を与えることができたのかもしれないと放送後に感じました。 (番組ディレクター 植村優香)
NHKスペシャル 「緊迫ミャンマー 市民たちのデジタル・レジスタンス」
Q.1 制作するうえで、どんなことにこだわりましたか? 今回、こだわったのは、市民が軍の弾圧を撮影してSNS上に投稿した無数の動画や写真を、番組としてどう活かせるか、という点です。現地の市民たちが「この惨状を国際社会に知って欲しい」との思いから決死の覚悟で撮影・発信したものばかりで、こうした貴重な告発をネット上だけで埋もれさせてはいけないと考えたからです。そこで、それらの動画や写真の真偽を検証し、撮影した人物、日時や場所などを調べあげ、「フェイク」ではないと確信出来たものだけ、番組で再構成しました。それが、ネット時代のTV報道の役割だと考えたためです。 Q.2 ぜひ見てもらいたいシーンは? 3月3日、軍に対する抗議デモのさなかに銃弾に倒れた19歳のエンジェルさんという女性の死について多角的に検証している部分です。今回、私たちは、世界各地の主要メディアが使い始めた「オープンソース調査」と呼ばれる、デジタル技術を使った新しい調査報道に挑戦しました。SNS上の動画や写真を分析することを中心に、その場にいた人などを探し当てて証言を取るなどして、エンジェルさんの殺害を否定していた軍の主張とは違う結果、つまり、軍が殺害に関与していた可能性を示しました。その点を見てもらえたらと思います。 Q.3 苦労したところ、難しかったことは? 現地に取材に行くことが出来ず、かつ、ミャンマー軍による情報統制などもあり、現地で何が起きているのかを正確に把握することが難しく、やはり、ネットやSNS上に投稿された情報や、動画・写真などから弾圧の実態を検証していった訳ですが、その際、出来る限り、当事者や関係者の証言をとるなど、ファクト・チェックを行い、その検証に耐えたものだけを使用する。いわば「真偽を確かめる作業」にいちばん時間を割きました。 Q.4 放送後の反響で印象的なことはありますか? 番組の放送後、視聴者の方々からは、この新たな調査報道に対して「NHKの本気度を感じた」という意見など、大きな反響をいただけたことが印象に残ってます。 (番組プロデューサー 善家 賢)