なぜ高い?長野のガソリン価格

NHK
2022年6月10日 午後6:42 公開

なぜ長野県のガソリン価格は高いのか?

長野市と佐久市の2人の男性から、このような疑問が寄せられました。調べてみると、長野県のガソリン価格は、全国でもトップクラスの高さです。しかし、隣県の新潟県や静岡県はそれほど高くありません。一体何が違うのでしょうか。

(及川利文・篠田祐樹)

県民の反応は?

県民は、ガソリン価格についてどう感じているのでしょうか。長野市のガソリンスタンドで聞きました。

女性「高いです。昔からそう思っていました」

「仕事や旅行で県外に行ったときに、ガソリンスタンドで表示価格を見ると長野県はずいぶん高いんだなと実感します」

取材した5月23日時点の長野県のレギュラーガソリンの価格は、都道府県別の順番で上から8番目。全国平均よりも4円余り高い、1リットルあたり173.2円でした。

最も高かったのは長崎県で、次いで大分県、3番目は沖縄県と九州が上位を占めています。ガソリン価格は、どうも都道府県の所在地と関連がありそうです。

価格の違いは“輸送”方法

その疑問を全国のガソリン価格を調査する資源エネルギー庁にぶつけることにしました。

石油流通課の永井岳彦課長に聞きました。

「日本が輸入する原油の9割近くが中東からで、まず海沿いにある製油所に運ばれます。そして製油所でガソリン、灯油、重油に分離した後、各地に輸送されます。この輸送の際のコストの違いなどが、各地域のガソリン価格の差になります」

そこで、答えを求めて松本市のある場所に向かいました。

訪ねたのは、製油所から運ばれてきた石油製品を備蓄するオイルターミナルです。

早速ターミナルの担当者に、石油製品が届く場所へ案内してもらうと、目の前に現れたのは鉄道でした。

日本オイルターミナル松本営業所の村田改所長は、製油所から長野県のような内陸地域には鉄道で運ぶのが主流だと言います。

「長野県には、千葉県、神奈川県、三重県の製油所から県内に3か所あるオイルターミナルに石油製品が運ばれ、県内全域に供給しています」

石油製品は、海沿いにある製油所から近い場所ではタンクローリーを使って、直接、ガソリンスタンドに運ばれます。一方で、長野県など内陸の地域には、製油所から鉄道を使っていったんはオイルターミナルに運ばれた後、タンクローリーに入れ替えてガソリンスタンドに輸送されます。

さらに長野県は面積が大きいため、他県と比べてオイルターミナルからガソリンスタンドまで長い距離を運ぶことになり、より輸送コストがかかっているのです。

資源エネルギー庁によると、ガソリン価格の内訳は、原油が約4割、消費税などの各種税金が約4割、残りの約2割が輸送コストや販売コストで、この2割の部分が変動して全国で10円ほどの差が出ているそうです。

県内でも価格差?

しかし、すべての疑問がこれで解決したわけではありませんでした。

県がまとめた5月23日時点の県内各地域のガソリン価格では、県平均が172円に対して、木曽地域は180.6円と8円以上高くなっているのです。

この価格差について調べるため、価格が高い地域のガソリンスタンドへ向かいました。

調査時点のガソリン価格が、県内で2番目に高かった地域にある売木村です。人口およそ500人の村内に、ガソリンスタンドは1か所です。1日の利用者は20人前後で、ガソリンスタンドを経営する後藤文登所長は、この販売量の少なさが価格が高い理由だと言います。

「都市部でガソリンが安く出来るのは薄利多売ができるからです。うちでそんなことをやったらとてもじゃないけどやっていけないです。過疎地では利用客が少ないので、経営を維持するためには、販売価格に転嫁せざるを得ません」

実は、このガソリンスタンドは経営者の高齢化などで8年前に1度閉鎖されました。

しかし、ふだんの生活や災害時の緊急車両の給油などに支障が出るとして、国や村の支援を受けて再開されたのです。

「有事の時や大きい災害が起こった時には、燃料供給基地としての役割を発揮します。 小さな自治体ですが、学校と同じようになくてはならない施設だと思っています。需要があるかぎり、経営を続けていきたいです」

疑問にお答えします。

長野県のガソリン価格が高いのは次の2つの要因の影響が大きいことが分かりました。

▼製油所から遠いことに加えて、県の面積が大きいため輸送コストがかかる。

▼都市部と比べ販売量が少ない地域もあり、経営を維持するため販売価格を高くせざるを得ない。

ガソリン代節約するには?

総務省統計局の調べによると、年間のガソリン代の全国平均は約5万円とされています。移動に車が欠かせない長野県では、より家計への負担が大きくなっている可能性があります。毎日のように車を使うドライバーの1人として、家計への負担をなんとか減らす方法がないものか、専門家に話を聞きました。

ファイナンシャルプランナーの北村きよみさんは、家族の人数にあった自家用車を選ぶことが節約になると言います。

「3人家族、4人家族で7人乗りや8人乗りといった大きな車に乗っている人がいると 思います。そういう人は家族の人数にあった小さいサイズの車に乗り換えると、ガソリン代を抑えられるだけでなく、自動車税や自動車保険料も安くなり、家計への負担を減らすことができます」

その上で、北村さんは“車を使うのが当たり前”という発想を転換するのも節約するのに有効な方法だと指摘します。

「いくつになっても健康を維持し続け、治療費や薬代がかからないというのが、実は1番家計への負担を減らすことになると思います。そのためには例えば、家の近所のスーパーに行くのにも車を使っている人は歩いて行ってみる。ガソリン代を節約するために体を動かすことがよいと思います」

【取材後記】

実は、長野に来てからガソリンが高いと感じていました。ですので、今回の取材で価格が高い要因が分かったこと、特に過疎地域では経営を維持するために販売価格を上げざるを得ないという経営者の苦悩を知ったことは、大きな意味がありました。この機会に家計と生活スタイルの見直しにも取り組んでみようと思います。

長野放送局記者 及川利文

2012年入局。千葉局、国際部、アメリカ総局を経て2021年から長野局。

長野放送局記者 篠田祐樹

2020年入局。警察・司法担当を経て現在は飯田支局。