長野市の茶臼山動物園は、自然界で同じ地域に生息するオランウータンとコツメカワウソを一緒に飼育して公開しようという試みを1年前から続けています。成功すれば全国で初めてとなる試みですが、“同居”には時間がかかりそうです。
(橋本慎也)
種の違いは超えられるか
メスのオランウータンの「フジコ」。
コツメカワウソの兄弟「トライ」と「バブル」。
生息地の環境を再現しながら動物本来の行動を引き出す生息環境展示を取り入れている長野市の茶臼山動物園。
去年9月から自然界で同じ生息地にいるオランウータンとコツメカワウソを一緒に育てる「混合飼育」に取り組んでいます。
オランウータンの展示施設を自然の森に近い環境にリニューアルしたことをきっかけに始まった試みで、動物園では“同居”させることで動物の本来の姿に近い行動を引き出せると考えています。
海外では成功例も報告されていて、ベルギーの動物園ではオランウータンとカワウソが一緒に遊ぶなど互いに交流することでより活動的になったといいます。
日本で成功すれば初めての試み。担当しているのは飼育員の樽井奈々子さんです。
「違う動物を同じところで展示することによって、お互いに刺激が感じられると思っています。展示の内容も深まるのではないかと取り組んでいます」。
波乱の“お見合い”
しかし、この1年は樽井さんにとって苦労の連続でした。
樽井さんは、本格的な一般公開に向けた準備として、はじめのうちはガラス越しで両者を対面させました。
スタートから3か月後の去年12月には、両者が直接触れられるように金網越しでの“お見合い”を行いました。
オランウータンのフジコに興味を示すコツメカワウソのトライとバブル。
一方のフジコは、金網を激しくたたくなど攻撃的な様子を見せました。間近でほかの動物を見たことがなかったため、近寄ってきたカワウソを見て驚いてしまったのです。
その後も、月に3回から4回ほどのペースで金網越しでの“お見合い”を続けています。
両者が距離を縮めてほしいと樽井さんは、“お見合い”する部屋を変えたり、大勢の来園者から見られていることを想定して複数の飼育員が見守るなかで“お見合い”をしたりといった工夫を重ねました。
スタートから1年で変化
試みから1年。両者の距離を縮めるのは簡単ではありませんでしたが、少しずつ変化が見られるようになってきました。
元気に動き回るトライとバブルは、相変わらずフジコを恐れる様子はありません。
一方のフジコも、ゆっくり餌を食べることが増えて落ち着いてきたといいます。
さらに樽井さんの話では、フジコはトライとバブルがいる隣の部屋のそばまで行って、2匹を待っているかのように餌を食べながら金網越しに様子を伺う姿も見られるといいます。
仲良くなる?
長年、オランウータンの飼育や研究をしてきた日本オランウータン・リサーチセンターの黒鳥英俊代表理事は、ベルギーの動物園ほど両者が仲良くなるのは珍しいものの、時間をかければ一緒に暮らすことは可能だとみています。
「茶臼山動物園の取り組みは非常にいい取り組みだと思います。いま、フジコは1頭で生活してますが、本来はほかの動物と暮らしている動物なので、ほかにも動物がいたほうがいいと思います。また、木々や水辺があってオランウータンにもカワウソにもいい施設です。これまでかなり慎重にやってきたのだと思いますが、海外ではオランウータンと小さなコツメカワウソが一緒にいても、大きなトラブルがあったという事例はありません。海外の例も参考にして、いろいろとトライしたらいいと思います」
当初、一般公開を目標としていたスタートから1年。まだ一般公開は実現していませんが、茶臼山動物園は今後も試行錯誤を続けることにしています。
「オランウータンのフジコ、コツメカワウソのトライとバブルがお互いに認め合うというか、存在を意識しあって、うまく生活してくれることがいちばんだと思っています。今後に期待して、もう少し長い目で、温かい目で見守っていただけるとうれしいです」(茶臼山動物園飼育員・樽井さん)
オランウータンとコツメカワウソのの“お見合い”は、これからも月に3回から4回行われる予定で、来園者にも公開されます。コツメカワウソのトライとバブルは一般公開されていませんが、“お見合い”の時であれば来園者は会えるということです。
両者は良好な関係を築くことはできるのでしょうか。