長野県は、毎日、県内に確保している新型コロナウイルス患者用の病床の使用状況を公表しています。公表されているのは全県の使用率や北信・中信・東信・南信の4地域ごとの使用率ですが、これについて上田市の男性から次のような身近な疑問が寄せられました。
「例えば4地域が25%以上なのに、県全体の率が一番低い地域の率より低くなるのはなぜでしょうか」
さっそく調べてみました。(及川利文)
病床使用率に謎が?
これは長野県が10月24日に公表した病床使用率です。寄せられた疑問のように、4つの地域すべての病床使用率が35%以上になっているにも関わらず、全県の病床使用率は33.9%でした。確かにこれは疑問に思います。
その理由を病床使用率を公表している県の感染症対策課に聞きました。
「全県の病床使用率と地域ごとの使用率とでは、対象としている病床数が違う。地域ごとのほうが対象としている病床数が少ないため、使用率に違いが出ることがある」
これはどういうことなのか解説します。
長野県が県内に確保している病床は、全部で531床。以下はその内訳です。
▼一般病床(軽症・中等症)…473
▼専門病床・重症者用病床 … 58
全県の病床使用率は、県内すべての確保病床である531床が対象となっています。
一方で、地域ごとの使用率は、専門病床や重症者用病床を除いた一般病床のみが対象です。
つまり分母が違うため、4地域で最も低い地域よりも全県が下回ることがあるのです。
なぜ対象が違う?
これで全県と地域ごとの病床使用率に違いが出ることがあることは理解できました。ただ、新たな疑問が出てきました。なぜ対象が違うのでしょうか。感染症対策課は、次のように説明します。
「重症者は地域を越えて体制の整った病院に入院することがある。専門病床は4つの地域すべてにはない。こうした理由から重症者用と専門病床は地域ごとの病床使用率を見る上での対象とはしていない」
つまり、重症者用や専門病床を除いた一般病床の使用率が地域ごとの医療の状況を反映しているからということなんだそうです。
今の病床使用率の公表方法では不十分
この病床使用率の公表方法について、医師で長野県の専門家懇談会のメンバーでもある信州大学医学部附属病院感染制御室の金井信一郎副室長に聞きました。金井医師は、地域ごとに病床使用率を公表する利点について次のように話します。
(金井信一郎 医師)
「地域の病床使用率が高いということは、その地域の医療がひっ迫してきているということであり、その数字をもとに行政側が住民に感染が広がるような行動は控えてもらうといった対策を取ることにつなげられる」
一方で金井医師は、これまでも新型コロナの患者は県が確保している病床以外にも入院していたことなどから、今の地域ごとの病床使用率の公表方法では、実際の医療の感染状況や医療のひっ迫度を表していないとも指摘します。
「県が確保している病状ではない病床に入院している新型コロナウイルスの患者がかなりの数に上っている。例えば、別の疾患で入院していた患者が、病院内で新型コロナウイルスに感染することもある。単純に確保している病床の使用率だけではなく、それ以外の病床にどれだけ入院しているのかを合わせて発表したほうがいいと思う。第7波のピークのときには、確保病床とそれ以外の病床に入院している患者を合わせると、確保病床数を上回っていて、公表されていた数字よりも医療のひっ迫度は高かった」
お答えします
今回寄せられた、新型コロナウイルスの病床使用率に関する疑問の回答です。
▼全県の病床使用率は確保病床すべての使用状況を示す。
▼地域ごとの病床使用率は一般病床数のみの使用状況を示す。
→対象病床数(分母)が全県のほうが多いため、地域の最も低い使用率よりも全県の使用率が低くなることがある。
【取材後記】
取材した金井医師によると、これまでは新型コロナやインフルエンザといった感染症が同時に流行することはあまりなかったそうです。ただ、インフルエンザは3年ほど流行していないため免疫を持つ人が非常に少なくなっていることに加え、海外との交流が再び盛んになっていることで海外から持ち込まれる可能性もあり、ことしの冬は同時流行を想定した対策を立てておくことが重要だと指摘していました。毎日発表される病床使用率も確認しながら、感染を防ぐための行動を取っていきたいと思います。
長野放送局記者 及川利文
2012年入局。千葉局、国際部、アメリカ総局を経て2021年から長野局。