長引くコロナ禍で、密を避けて楽しめることから、アウトドア人気が高まっている。
そのなかでも注目を集めているのがキャンピングカーだ。
国はことし4月、キャンピングカーとして登録するために必要な条件を一部緩和。
今後さらなる普及が期待されていて、長野県内でもそれを見越した動きが始まっている。
(長野放送局記者 西澤文香)
いま注目のキャンピングカー
新緑の季節を迎えた信州。
大型連休のキャンプ場は、首都圏や中京圏などから訪れた人たちが、ふだん味わえない豊かな自然を満喫していた。
色とりどりのテントが張られているなか、目を引いたのがキャンピングカーだ。
所有者は、千葉県の60代の男性。
前日の夜に家族と共に出発し、途中、車中で仮眠をとって来たという。
(キャンピングカーを所有する男性)
「長年の夢で、2年前に購入しました。車の中で足を伸ばして寝られるし、時間を気にすることなく目的地にむけて出発できることが一番。コロナ禍でも、キャンピングカーなら好きなところへ行って、ほかの人と接触せずに楽しめる」
このキャンピングカー、今、注目を集めていて、各地でイベントが開催されるほどだ。
大型連休中、広島市内で行われた展示会には、最新の車種がずらり。
アウトドア好きな家族連れなどで大いににぎわった。
(家族連れの男性)
「ずっと欲しいな、いいなと思っていた。車中泊したいなと。子どもがいるとホテルに泊まるのも大変なので」
(夫婦で訪れていた男性)
「釣りもするので、別荘を持つよりもキャンピングカーがあればいろいろ旅行に行けるしいいなと」
年々台数も増加
キャンピングカーの人気は、統計でも裏付けられている。
こちらは、国内で保有されている台数の推移を表したグラフだ。
キャンピングカーに関連する業界団体でつくる日本RV協会によると、国内で保有されている台数は、去年時点で約13万6000台で、年々増え続けている。
国内での生産台数は、去年1年間で8000台あまり。
長野市にある製造・販売会社も全国から注文が寄せられ、対応に追われている。
キャンピングカーというと、背が高い、大型の車体を思い浮かべる人もいるのではないだろうか。
しかし、この会社が扱うのは、主に一般車をベースにしたキャンピングカーだ。
車内にベッドにもなるソファやキッチンなどを取り付け、客からのオーダーにあわせて1台1台作っている。
この会社のスケジュール表を見せてもらうと、オーダーは5月時点で114台。
納車までに1年はかかるといい、大忙しだ。
(かーいんてりあ高橋 佐藤裕紀さん)
「以前は半年ほどで納車できていたが、今は注文数が増えているのでお客さまには1年ほど待ってもらっている。スタッフの人数は限られているので、作れる台数にも限度がある」
人気の背景には、コロナ禍でアウトドアを楽しむ人が増えていることに加え、災害時の避難場所としても活用できることがあるという。
「これまでは60代以上のリタイア世代のお客さまが多かったが、最近は、30代や40代の子育て世代の方も増えている。自家用車として併用できるような車も、どんどん伸びていっている状況」
普及を後押しする動きも
キャンピングカー人気が高まる中、ことし4月、さらに後押しするような動きがあった。
「構造要件」の一部改正だ。
キャンピングカーは、安全性などを確保するために、耐火性や車内の広さなどの一定の基準を満たしたうえで、特殊車両として車両登録する必要がある。
今回、装備や仕様の基準を、国土交通省が一部緩和したのだ。
例えば、キッチンなどの水回り周辺は、高さがこれまで1m60cm必要だったが、1m20cmに緩和された。また、大人用の就寝設備は、乗車定員3人以下の場合は2人分必要だったが、1人分でもよくなった。
これによって、車体の背を高くするような改造の必要がなくなり、一般車そのままのサイズでも登録しやすくなったのだ。
工賃も安くなるため、これまでよりも安価にキャンピングカーを購入できるようになり、業界はいっそうの普及に期待している。
なぜこのような緩和が行われたのか?
国土交通省は、表向き、単身でアウトドアを楽しむ人が増えるなどライフスタイルの変化に対応した結果だと説明している。
しかし、業界関係者は、キャンピングカー人気が高まっているからこその理由があったと解説する。
(業界関係者)
「キャンピングカーは高価なため、普通の車を“改造”し、キャンピングカー風に使う人が増えている。違法ではないがホームセンターなどで手に入るような燃えやすい材料を使っていることなどが多く、安全性が疑問視されていた」
そのため、基準をクリアしやすくし、コストを抑えて購入できるようにすることで、安全性が確保されたキャンピングカーの普及を図ることにしたのだという。
さらなる普及に期待
キャンピングカーの増加を見据えた動きも始まっている。
八ヶ岳にあるキャンプ場では、ことし4月にリニューアルオープンする際に、キャンピングカーを止められる場所を新たに整備。電化製品を使えるよう、電源も設置した。
(池の平ホテル&リゾーツ 小林靖さん)
「キャンピングカーのお客さまが、今後増えるだろうと。コロナ禍で、密にならない自然の中なら安心という声も多く、われわれも時代にあわせて変化していく必要があるかなと思っている」
キャンピングカーの普及が地方活性化につながる可能性があると、日本RV協会は夢を語る。
(日本RV協会 髙橋宣行 副会長)
「キャンピングカーが普及することは、地方創生につながっていく話だ。公共交通機関が どんどん疲弊して、移動手段が自動車になっていくとき、風光明美な場所にキャンピングカーを止められるキャンプ場や、車中泊ができる施設をつくることで、訪れた人が長期滞在できる環境ができる。平らな土地と電源設備があれば人が集まれるので、これからは自動車旅行のインフラ整備を考えていくことが大切だ」
【取材後記】
車体が大きく高価で、生活に余裕がないと手が出せないという印象だったキャンピングカー。今後、安価になって普及が進むと、新たなスタイルの旅行が生まれるかもしれない。
国内トップレベルの豊かな自然に恵まれる信州にとって、キャンピングカーの普及は、新たな地域の魅力を全国に発信する大きなチャンスだろう。
長野放送局記者 西澤文香
民放を経て2019年入局。たき火で焼いたマシュマロは最高。