担い手がいない?!どうする“草刈り”

NHK
2022年8月9日 午後8:00 公開

猛暑が続くこの夏。大変な作業の1つが、雑草を取り除く「草刈り」ですが、いま、各地で担い手の不足が深刻になっています。持続可能な草刈りへ、県内でも模索が続いています。

(橋本慎也)

草刈りを引き受けず?!

自宅や畑など私有地の草刈りは、所有者がみずから行うか、シルバー人材センターなどに委託するケースがほとんどです。

しかし、長野市やその周辺で活動する長野シルバー人材センターは、去年から、新規の草刈りの受け付けを制限せざるを得なくなっています。

背景にあるのが会員の減少と高齢化です。団塊の世代の入会ピークが過ぎたことや、高齢になるまで働く人が増えたことを背景に、ピーク時の平成22年には2450人あまりいた会員は、令和3年には約1900人と、ここ10年ほどで2割以上も減りました。最近は「コロナ禍で出歩きたくない」という理由で退会する人も少なくないといいます。

さらに年々、会員の高齢化も進み、現在の平均年齢は73.9歳。定年までデスクワークを行っていた人も多く、体力が求められる草刈りに応募する人はほとんどいないのが現状です。

センターでは、会員登録の説明会でも、草刈りへの協力を積極的に呼びかけています。しかし特に夏場は熱中症への不安もあり、多くの参加者が二の足を踏んでいます。

説明会に参加した女性

「ほかに仕事があればね、そっちのほうに行くし。日中が暑くてだめなんだよ。だから、あまり長時間は無理」

一方で、自宅や畑などの所有者も高齢化し、草刈りの依頼は増加しています。センターでは、毎日、草刈りの依頼の電話を数件、断っているといいます。

長野シルバー人材センター 藤橋範之 事務局長

「お客様からのオーダーは増えてきているにも関わらず、それをお引き受けできるうちの会員さんの手配がなかなか進んでいないという状況で本当に心苦しいです。元気でまだまだ働く意欲のあるシルバー世代の皆さんの入会を心からお待ちしている状況です」

草刈りを“所有者任せ”にせず

こうした状況を受けて、私有地の草刈りを所有者に任せるのではなく、住民の「互助会」で担おうとしている地区があります。3年前の台風19号で千曲川の堤防が決壊し大規模な浸水被害を受けた長野市の長沼地区です。

長沼地区で自治会長も務めた西澤清文さんは、浸水被害をきっかけに転居した人の住宅跡地や、増え続ける耕作放棄地の草刈りに頭を悩ませてきました。特に耕作放棄地は、土砂の流入によって、以前にも増して雑草が目立つようになり、景観や道路の見通しが悪くなったほか、ごみの不法投棄も行われるようになりました。

さらに生い茂る雑草は、害虫などの温床となり、特産のりんご園にも影響を及ぼしかねません。周囲に畑や住宅がある場所では、除草剤を使うわけにもいきません。

このため、西澤さんをはじめとした地元住民らは、去年、「長沼ワーク・ライフ組合」という互助会を立ち上げました。土地の管理が難しくなった所有者から低料金で私有地の草刈りを請け負います。草刈りを依頼する意思があるか確認がとれない人もいるほか、互助会のメンバーもまだ十分ではないなど、課題はありますが、依頼者はすでに40人を超えています。そのなかには、シルバー人材センタ-から草刈りを断られた人もいるということです。

長沼ワーク・ライフ組合 西澤清文 代表

「(活動は)被災者みずからが立ち上げたサービスですよね。互助サービスですよね。何とか地区の人たちで、(草刈りの協力者を)増やしていきたいと思いますね」

草刈りをイベントに

草刈りの担い手不足が深刻なのは、私有地だけではありません。長野市だけで4000キロを超える市道や700か所あまりにのぼる公園のうち、行政が業者に委託して草刈りを行ってきたのは1割未満です。ほとんどの道路や公園は、市から一部の経費の補助を受けながら、地元の自治会や老人会などが担ってきました。しかし、過疎化や高齢化が進むにつれ、自治会や老人会にとって、草刈りの継続が重荷となってきています。

長野市の山あいにある芋井地区は、去年から、「リビングラボ」という取り組みを進めています。自治会とは別に、学生やビジネス関係者など、地区内外の幅広い年代や立場の人に集まってもらい、さまざまな課題の解決を目指すものです。

草刈りをテーマにした、ことし3月の話し合いでは、地区の人だけで草刈りを行うのは難しいという認識で一致し、参加者からは地区外の人たちに草刈りを手伝ってもらうためのさまざまなアイデアが出されました。

「草刈りの協力者に地元の野菜や山菜を提供したい」

「温泉やバスと組み合わせて1日ツアーを企画しよう」

「合コンと草刈りを組み合わせよう」

草刈りを特典付きの“イベント”にすることで、特に若い世代の参加を促そうという考えです。

6月に開いたイベントの第1弾が、食事会を兼ねた草刈り講習会です。参加者21人のうち18人が地区外の若い人たちなどでした。さらに、これまで草刈りへの参加が少なかった地区の女性も参加しました。

参加者は経験者の指導を受けながら、草刈り機の安全な使い方を学び、公園の草刈りにもチャレンジしました。初めて草刈り機を使った参加者からは、新鮮な経験となったという声も上がっていました。

地区外の20代転勤男性

「初めてだったんですけど、そこまで操作も難しくなく、危ないところはあるにしても、やっぱりきれいに刈れると気持ちよく、いい経験ができたと思います」

地元の10代歳女性

「親の力になれればなという感じで、お手伝いできれたらいいな、という気持ちでやりました」

草刈りを終えた参加者には地元の人が作ったカレーや、とれたてのタケノコのみそ汁がふるまわれました。芋井地区は年内に、草刈りイベントの第2弾を開く予定です。

イベントを企画した羽田一郎さん

「草刈りの担い手がだんだん少なくなってきておりますので、今後、少しでもこういった機会を持って、支援してくれる人が増えればいいなと」

取材後記

私自身、緑の多い場所で育ちました。実家にいるころは、神社など地区の草刈りにも参加してきました。一方で、周囲には耕作放棄地が多く、やぶになっている場所もあります。実家にも耕すことができず、借り手も見つからない畑があり、今後が心配になります。毎年生えてくる雑草の処理は、簡単には解決できない、難しい問題です。都市部の人には想像しづらい話かもしれませんが、道路を通ったときや、公園などで草刈りを行っている人をみたとき、その背景に少しでも思いをはせていただけたら幸いです。

長野放送局 記者

橋本慎也

平成26年入局

鳥取局、前橋局経て現所属

長野市政担当ですが、戦争からペットまで幅広く取材