スカイランニングー標高2000m級の山の頂を目指して急しゅんな山道を駆け登り、そのタイムを競うという競技です。この競技の世界選手権が9月11日にイタリアで開催され、日本代表として長野県の秋山穂乃果選手が出場しました。秋山選手は実は警察官との二刀流なのです。その強さの秘密を探ってみると、ストイックなまでのトレーニングと食事があったのです。
(川村允俊)
トップクラスのランナー
(提供:日本スカイランニング協会)
秋山選手は山道を登ったり降りたりするスカイランニングで登りを得意とし、競技を始めてわずか5年ですが、日本トップクラスのランナーになっています。去年9月には長野県の志賀高原で行われた日本選手権で優勝しました。
職業は警察官
秋山選手は長野県警察本部に所属する警察官です。スカイランニングも好きですが、警察の仕事にも誇りを持っていて「できれば両立して続けたい」と話します。
秋山選手の1日に密着
平日のある1日に密着してみました。すると、自宅から出てきた秋山選手はトレーニングウエア姿で現れました。そうです、秋山選手のトレーニングは朝の通勤から始まるのです。
秋山選手は高校から大学まで陸上部で、長距離を専門にしていました。走ることと山登りが好きな秋山選手にとって、両立できるスカイランニングはまさにうってつけの競技と言えるのです。
自宅から勤務先の警察本部までは約3km。ですが、山道を走る感覚を養いつつ足腰を強化するため、あえて善光寺の北に位置する山を登り、山道を走って通っているのです。その距離はなんと7倍近いおよそ20km。これを毎朝の日課としている秋山選手、強くなることがうなずけます。
秋山選手は県警察本部で特殊詐欺の被害防止などを担当しています。その職場は10階にありますが、エレベーターを使わず常に階段で移動しています。仕事中も体を鍛えることを忘れない、しかし、仕事も全力でやる。さすがです。
食事にも気をつかっています。この日の昼ごはんをのぞいてみると、オートミールと豆とトマトの煮込み。タンパク質を取りつつ脂肪を減らすという食事です。力強く、かつ、軽快に走ることができる体を作るためです。さらに、筋肉量を増やすプロテインも欠かさず飲んでいます。
勤務を終えた秋山選手が向かった先は自宅ではなく、スポーツジムです。朝のランニングでは主に下半身を鍛えますが、ここでは主に上半身の筋力強化に取り組みます。毎日夜8時までこうしたトレーニングをストイックに行っています。
つらいと思うこともあるということですが、同僚の支えがあるからこそ頑張れると話します。
「警察は事件や事故があれば呼び出されることが多いですけど、今は呼び出しを免除してもらっている立場です。だから、頑張らないと周りの警察官に失礼だと言う気持ちがすごくあります。最初は警察官とスカイランニングの選手の両立なんかできるわけないと環境を責めることもありました。でもそうではなくて、与えられた環境の中でできることをやろうと思って取り組んでいます」
世界選手権へ
同僚から応援のメーセージが書かれた旗をもらい秋山選手は世界の大舞台に挑みました。仲間の応援を胸に、秋山選手は世界選手権で初めての表彰台を狙いました。
しかし残念ながら、結果は目標に届かない13位でした。それでも参加44選手中の13位ですから健闘したと言えるでしょう。
秋山選手のコメントです。
「応援をしてくださったみなさんのおかげで、世界選手権では全力を出すことができました。次の世界大会では、より上をめざして全力で頑張ります」
【取材後記】
1日中競技に専念できるプロの選手と違い、トレーニングと仕事を両立させて日本代表にまでなるのは並大抵の努力ではできません。秋山選手は努力しても失敗したり、結果に結びつかなかったりして、競技が嫌になってしまったこともあったと話していました。しかし、与えられた環境の中で諦めず努力している姿はかっこよく見えました。秋山選手の姿を見て自分も頑張ろうと思いました。
長野放送局記者 川村允俊
平成30年入局。警察・司法担当として軽井沢町で起きたバス事故や動物に関わる社会問題を取材。