「非常に珍しいバッタを捕まえました」
小学生からの投稿をもとに取材を始めた私。そこで目にした激レアなバッタとは。
(長野放送局 記者 篠田祐樹)
「珍しいバッタを捕まえました」
9月、NHK長野放送局に気になる投稿が。
「非常に珍しいバッタを捕まえました。よろしかったら取材に来てください」
バッタに特別の興味があるわけではありませんが、「非常に珍しい」というフレーズに興味がかき立てられました。いったいどんなバッタなのか。
まずは投稿者の自宅へ向かいました。
投稿してくれたのは、豊丘村に住む小学2年生の筒井岳翔くん。
さっそく問題のバッタを見せてもらったところ・・・。
“ピンクのバッタ”
なんと全身がピンク色!
岳翔くんによると、捕まえた当初は赤みが強かったものの、次第に色が薄くなってきたといいます。
岳翔くん
「最初は目もピンク色でした。捕まえてから時間が経って、触覚とかも茶色に変わってきました」
岳翔くんがピンクのバッタを見つけたのは、9月上旬、家族と一緒に村内の公園で虫取りをしていたときでした。
岳翔くん
「見つけたときは頭がくらくらしました。びっくりしました」
母親の朋子さん
「大きい声で“ピンクのバッタいたよ!”って叫んでて。嘘でしょって思ったんですけど、(岳翔くんの)手のひらを見てびっくりしました」
岳翔くんは幼い頃から生き物が大好き。休みの日には決まって、近所の川に魚をとりにいったり、公園に虫とりにいったりするそうです。
自宅にあった岳翔くんの生き物の図鑑には、たくさんの付箋が貼ってありました。
母親の朋子さん。
「芋虫やちょう、魚まで、とことんはまると探究心が旺盛なんです」
岳翔くん
「最初に捕まえた虫がバッタで、それからどんどんバッタが好きになりました。今はバッタとキリギリスが好きです」
図鑑やインターネットの動画サイトを見て、バッタの飼育方法も調べました。虫かごを縦に置いているのは、バッタがはねたときに蓋にぶつかってストレスにならないようにという岳翔くんなりの工夫です。
岳翔くん
「ピンクのバッタを捕まえて、学校の先生や友達に自慢しました。昆虫好きな人に教えたいです」
昆虫の専門家は
それにしても、なぜこんなバッタがいるのか、昆虫の専門家に話を聞いてきました。
疑問に答えてくれたのは、信州大学の東城幸治教授。
ピンクのバッタの写真を見てもらったところ、想像以上の反応がありました。
東城教授
「これはすごいですね。ここまで赤い色は珍しいです。おそらくショウリョウバッタのメスですね。基本は緑で、ときどき茶色が入ったりというのは見かけますが、おそらく突然変異で、緑色を作る色素が抜けたり、なにかの遺伝子の発現が変わることで本来の色が変わることが一番考えられます」
東城教授によると、数あるバッタの中でも、ショウリョウバッタの研究は比較的遅れているといいます。30年以上にわたって世界中の昆虫を調べてきた東城教授も、ピンク色のショウリョウバッタは見たことがないそうです。
「岳翔くんのお手柄と言って良いと思います。100匹200匹見てもああいう個体はいないわけですので、そういう意味では見つけられる可能性は1パーセント未満ですね。よく気づいて、ちゃんと持ち帰って飼育したというのもすごく重要なことです。岳翔くんには、興味を持って昆虫の研究を続けていってもらいたいですね」
「幸せのバッタ」
インターネット上では「幸せのバッタ」とも呼ばれているピンクのバッタ。
このバッタに「ピンクちゃん」と名付けて大切に飼育している岳翔くんにも、いいことがあったようです。
「僕の虫取り活動をお母さんが褒めてくれて、怒られなくなりました。これからもたくさんの虫をとって調べたり研究していきたいです」
【取材後記】
世にも珍しいピンク色のバッタ。岳翔くんは本当にうれしそうに、捕まえたバッタや昆虫のことを話してくれました。純粋に好きなことに打ち込む岳翔くんを見て、私も久しぶりに微笑ましい気分を味わえました。「幸せのバッタ」は、見つけた当人だけでなく、関わった人にもささやかな幸せを運んでくれるようです。
(長野放送局記者 篠田祐樹)
2020年入局。警察・司法担当を経て現在は飯田支局。