水不足 ことしの福岡は大丈夫?

NHK
2022年8月12日 午後4:34 公開

「追跡!バリサーチ」に、こんな投稿が寄せられました。

今年は猛暑で梅雨明けが早いようですがダム貯水って大丈夫なんでしょうか?

確かに、ことしは統計上最も早い梅雨明けで、まとまった雨が少なかった印象が。

調べてみると、ことし1月から7月までの福岡市の降水量は年間降水量が最少だった平成6年の同じ期間より少なくなっていることがわかりました。
大きな水害がないのは幸いですが、水不足の心配はあるのでしょうか。

【福岡の“水がめ”に行ってみた】

江川ダム

取材班がまず向かったのは、朝倉市にある「江川ダム」。
福岡都市圏をはじめ佐賀県にも広く水を供給している重要な水がめです。
取材した日の貯水率は72%。
平年より15ポイント少なくなっていて、ダム側面の土の部分などが露出していました。

仲道貴士所長

水資源機構筑後川上流総合管理所 仲道貴士所長

「ダムに流れ込む川の流域に降る雨の量は、ことしに入っておおむね例年の6割にとどまっています。かなり少ない上、今後どのくらい雨が降るか全くわかりません。水道用水のほか農業用水、工業用水として広く水を供給している側とすれば、貯水率が減ると気が気ではありません」。

【まさかまたあの“悪夢”が・・・】

昭和53年大渇水

水不足といえば、福岡県では過去に2回、大きな渇水に見舞われています。
このうち、昭和53年の大渇水では、福岡市で287日にわたって給水が制限されました。

給水車の行列に重たい水の運搬、くみ置きのバケツなど、今でも記憶に残っているという方も多いのではないでしょうか。

まさか、またあの悪夢がよみがえるのでは・・・
心配になった取材班は、最も人口が多い福岡市の水道局に向かいました。

【福岡市水道局に聞いてみた!】

「ことしは水不足、大丈夫ですか?」

舩木肇課長

福岡市水道局水管理課 舩木肇課長

「福岡市の関連ダムの合計貯水量は十分確保できているので、現時点でただちに市民生活などに影響が生じる状況ではありません」。

なんとも頼もしい答え!でも、どうして?

そのわけを聞くと、昭和53年の大渇水を契機に、福岡都市圏では水を確保する数々の取り組みが進められてきたといいます。

①筑後川の水

筑後川の水

1つ目が、はるばる筑後川から水を取り寄せること。

久留米市で取水した水をポンプでくみ上げ、地下水路「福岡導水」を使って大野城市の浄水場まで運びます。「福岡導水」の総延長は、実に25キロにも及びます。

②ダムの建設

五ケ山ダム

ダムも次々に建設してきました。
このうち、那珂川市にある県内最大級の「五ケ山ダム」は計画から40年以上の時を経て、去年1月に運用を開始しました。

これによって福岡市が水源とするダムの貯水容量は1.7倍になり、安心材料が増えたといいます。

③まみずピア

まみずピア

さらに、雨が少ない場合のバックアップ体制もあります。
東区にある「海水淡水化センターまみずピア」は国内でも最大級の淡水化施設です。
水道の需要に応じて淡水化した水を送っています。

数々の取り組みによって、1日に使える水の量は大渇水が起きた昭和53年当時の1.6倍にまで増えました。

【有効活用率は世界一!】

こうして集めた大事な水。有効に、大切に使うための取り組みも進められてきました。
福岡市水道局にある「水管理センター」では、市内外にある5つの浄水場の水をむだなく供給できるよう、水の量や水圧に加え、どの浄水場の水を使うかをエリアと時間帯によって24時間細かく調整しています。

そもそも福岡市では水圧を家庭に供給するぎりぎりのところまで低く設定しています。水が勢いよく出過ぎることでむだづかいを防ぐためで、水道管が傷むのを防ぐこともできます。こうした工夫に加え、きめ細かな漏水調査や漏水監視システムで、福岡市の水の有効活用率は98%となんと世界一。世界で最もむだなく水を使う都市なんです。

参考 東京都:96.3%、大阪市:93.7%、熊本市:92.5%
   パリ:95.4%、シアトル:94.8%、カイロ:80% 
   (福岡市水道局の資料より)

【節水意識も◎】

水の有効活用には市民も貢献しています。

渇水の経験と、小学生への水道に関する出前授業など啓発活動で節水意識は年々高まり、1人1日あたりの水の使用料は207リットルと政令市で1番少なくなっています。

舩木肇課長

福岡市水道局水管理課 舩木肇課長

「昭和53年の渇水を契機にこれまで取り組んできた節水型都市づくりの成果が出てきているんだと考えています。市民の皆さまにも引き続き水を大切に使っていただきたいと思います」。

ということで、今回の投稿の調査結果です。

ダムの貯水率は平年より低いが福岡市は大切に使えば水不足は心配ない

福岡市は心配ないかも知れませんが、ほかの自治体は大丈夫なのでしょうか。
調べてみると、2つの自治体で水不足が心配されていました。

【水不足に見舞われる町】

プール

その1つが北九州市の南、周防灘に面した苅田町です。
町が運営するプールを訪ねてみると、一見普通に見えたものの、実は水面を通常より20センチ下げていることが判明。こうすることで満水時より74トンの水の節約になるそうです。

施設内ではほかにもプールサイドのシャワーの数を半分に減らしたり、水圧を下げたりと涙ぐましい努力が・・・。

実は水不足の影響で小中学校の水泳の授業が開かれなかった苅田町では、子どもたちにも利用してもらおうと、節水しながら運営を続けているといいます。

山本繁雄施設長

苅田町町民温水プール 山本繁雄施設長

「ここが使えなくなると皆さんの行き場が無くなってしまいます。1つ1つは小さな工夫ですが、節水を心がけて長く運営できるように心がけています」。

【貯水率は大きく低下・・・苅田町の今後は】

油木ダム

取材班が町の水源「油木ダム」で確認すると貯水率は35.1%と、平年の80%を大きく下回っていました。

苅田町と隣の行橋市ではこのダムに水源のおよそ8割を頼っていますが、今後もまとまった雨が見込めないことから、減圧給水や節水の呼びかけを行わざるを得ないといいます。

たびたび水不足に見舞われるという苅田町ですが、町に聞いてみると、新たな水源の確保は難しいとのことでした。

堤典子室長

苅田町総務課危機管理室 堤典子室長

「県内にダムはたくさんありますが、水を取れる量などは決まっています。別の水源確保のために新たにダムや池を作るということは財政面の負担などで難しいですが、将来に向けて検討していくというところです」。

【水道事業 自治体によって違いが】

取材を通じて見えたのは、福岡県内でも水源の確保や水道事業の運営など、自治体によってかなり違いがあるということでした。

ダムなど水源を増やし、将来に向けて施設を維持していくことは、自治体にとって財政的な負担が非常に大きくなります。

福岡市の場合は、人口や税収が増えてきたので、いまのところうまくいっているといえますが、今後、人口減少や施設の老朽化が進むと、自治体などが行う水道事業の経営が厳しくなることが全国的に心配されています。

このため福岡県では、先月から広域での連携について検討を始めました。
県の担当者によると、「いくつかの自治体が連携して水道事業の経営を成り立たせるための仕組みづくりを行う。来年3月までにプランを策定する」ということです。

どの自治体に住んでいても同じように水が利用できる環境作りが進むかどうか、バリサーチでは取材を続けていきます。

追跡!バリサーチ取材班

仁部隆弘ディレクター、松木遥希子記者

仁部隆弘ディレクター、松木遥希子記者