さて、みなさん「豚汁」をどう読みますか?
「豚汁」は“ぶたじる”“とんじる”どちらなのか?「とんじる」と呼びたいところを、土地にあわせて「ぶたじる」と呼んではいるのですが…という投稿を頂きました。
実はこれ、NHK福岡でも悩む問題なんです。放送上はどちらの読み方でもよいのですが、九州向けのニュースでは「ぶたじる」のほうがなじみ深いのではないか、とつい最近も議論になりました。
福岡では実際にどうなのか?バリサーチしました!
まずは、全国チェーンのコンビニエンスストアをのぞいてみると…
“ぶた汁”と書かれた商品が。地域になじみ深い表記にしたとのことです。
やはり福岡は「ぶたじる」か!と、天神を中心に街の人たちに聞いたところ…
なんと、「とんじる」読みが続出!
意外なことに、60人聞いたなかの約7割の人が“とんじる”と答えたのです。
しかし、その中には、こんな証言も。
男性「お店では“とんじる”って言うかな」
女性「家だと“ぶたじる”」
家族や友人など、くだけた場では「ぶたじる」。お店など公な場では「とんじる」と状況に合わせて使い分けているという人が多かったんです。ふだんはあまり意識しないかもしれませんが、言われてみれば…みなさんはいかがですか? いずれにしろ2つの呼び方、かなり混在しているようです。
ではなぜ“ぶたじる”と“とんじる”二つの呼び名が生まれたのか。
九州の方言を研究している、言語学の専門家に伺うと…
二階堂整教授「言語学や方言学の視点から説明するのは難しい。
料理の名前なので料理関係の方にお聞きすると新しいことが分かるのでは?」
ということで「食」に関する研究で名高い、中村学園大学へ。
栄養科学科の三成由美名誉教授が興味深いことを教えてくれました。
三成名誉教授「『さつま汁』は“とんじる”“ぶたじる”両方のルーツかなと」
もともと鹿児島には鶏肉と野菜を煮込んで食べる「さつま汁」という郷土料理がありました。
そこへ江戸時代、中国から琉球、薩摩へと「豚」を食べる文化が入ってきたのです。
三成名誉教授「鶏が入ったのを“さつま汁”豚肉が入ったのを“ぶたじる”と呼ぶようになったのかなと」
1958年に出版された専門家向けの料理事典にも「鹿児島人はぶた汁という」と記述が。
司馬遼太郎さんの著書「街道を行く」の中でも
「『ぶた汁あり』というビラが、大衆食堂のガラス戸に貼られていた」と鹿児島の“ぶたじる”が紹介されています。
そして、1961年にNHKで放送した年の瀬の東京の様子を伝えるニュースでも「夜になりますと、温かい“ぶたじる”のサービスです」というナレーションが。
歴史的には、鹿児島で生まれた“ぶたじる”が全国に広がったと考えられるのです。
九州で“ぶたじる”呼びが根強いとされる理由に、納得がいきました。
ではなぜ、“とんじる”呼びがうまれたのか?
手がかりは身近にありました。
23年前、NHK放送文化研究所で“ぶたじる”“とんじる”の呼び名について調査を行っていたんです。
調査にあたった塩田雄大さん「(とんじる呼びは)ある食べ物の名前が影響を与えていると思います。」
塩田さん「とんかつです。」
“とんじる”の「とん」は“とんかつ”の「とん」!?
とんかつは昭和に入って誕生したとされ、東京上野が発祥だと言われています。
「とんかつ専門店で豚の落とし肉を使って豚汁を作るようになり、
とんかつ屋で出すから“とんじる”と呼ぶようになったという推測です。」
東京で生まれた“とんじる”呼びは東日本を中心に定着。2000年の調査では、地図のピンクの部分、日本のほぼ東半分に“とんじる呼びをする人が50%を超える地域”が広がっていました。
さらに、“とんじる”呼びは、テレビなど様々なメディアを通じて全国へ広がったと考えられます。
2000年の調査では、全国比でほぼ半々だった“ぶたじる”“とんじる”呼びは…
2020年の調査では、“とんじる”呼びが73%へと、その勢力を増していたんです。
今回、番組が福岡の街で聞いた声でも、およそ7割が“とんじる”呼びでした…。
歴史ある“ぶたじる”呼びは、ここ福岡でも減っていってしまうのか?
そこで、福岡の教育現場を直撃!
小学校の給食ではどちらで呼んでいるか?
先生「たぶん“ぶたじる”だと思います!」
確かに献立表にも“ぶたじる”のふりがなが!!
子どもたちはどちらで呼んでいるのか?
…ほとんどの子どもたちが、「とんじる」と答えました…。
福岡の地でも、いつか“ぶたじる”呼びが消えてしまう日が来るかもしれない…。
ちょっと寂しさを感じてしまいましたが、こどもたちに、なぜ“とんじる”と言うのか聞いてみると、「言いやすいから」という答えが。確かに、“ぶたじる”よりも“とんじる”のほうが口を動かしやすいですね…。言葉は生き物だ、と実感する取材にもなりました。
そして、今回の取材について、追跡!バリサーチのLineともだちのみなさんから、たくさんの声を頂きました。ありがとうございます!一部をご紹介します。
「絶対〜ぶたじるです。でもお店とかには「とんじる」とあるので、ぶたじるって言っちゃいけないのかなと怯んでしまいます〜」
「放送見ました。やっぱり思った通り「トンカツ」が影響してましたね。でもやっぱり「ぶたじる」でしょう。わが家では今も「ぶたじる」ですよ」
「私は博多駅っ子でした。だからブタ汁って言ってました」
「私は福岡ですがトンジルですよ!」
「私は大分県出身ですが、ブタ汁と言います」
「オイラ関東出身だけど我が家は、ぶたじると言っていたぜ」
声を頂いた皆さんのあいだでは、ぶたじる派(?!)がやや優勢でしたが、
どちらかが正解、ということではありません。
みなさん、それぞれの食文化を大切にしてください!
海猫屋さんからは、かわいらしいイラストを頂きました!
ぶたじるにゆずごしょう、ぶたまんに酢じょうゆ、本当に良く合いますよね!
(ちなみに、“肉まん”“ぶたまん”の呼び名にも同じような論争が、という声も多数頂きました…)
なじみ深い言葉にも、調べてみたら奥深い世界がありました!
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