性犯罪・性暴力 なくすために私たちができることを考える

NHK
2022年4月4日 午後6:56 公開

「マスコミや社会全体が性犯罪を議論してこず、
被害や加害の実態がしっかりと伝わっていない。
声を上げにくかったり、対策が進まなかったりする要因になっているのではないか」。

今回の「追跡!バリサーチ」でさまざまな当事者に話を聞く中で性暴力の被害にあった人たちの支援にあたっている専門家に指摘されたことばです。

事件取材を担当する私たちは、足元を見つめ直すことから始めました。

【報じていない】

(写真 議論する事件記者グループ)

(写真 議論する事件記者グループ)

事件取材を担当する私たち県警記者グループ(池島デスク・黄記者・下京記者・平田記者・立花記者)は、まず、今年(令和4年)1月から3か月に警察から発表された事件を一つ一つ振り返ってみました。

(写真 警察からの発表資料)

(写真 警察からの発表資料)

すると「児童買春」「公然わいせつ」「逮捕・監禁」など、性に関する事件の発生や容疑者が逮捕されたケースが63件もありました。

このうちNHKが報じたものは3件。

もちろん、すべての事件について発表された時点でニュースにするかしないかを判断しているのですが、その少なさに驚きと戸惑いの声があがりました。

担当デスクの私(池島)が福岡で記者を始めたのは22年前です。

去年(令和3年)の夏、福岡に再び赴任し、ショックを受けたのが性犯罪の深刻さでした。

(写真 10万人あたりの性犯罪発生率)

(写真 10万人あたりの性犯罪発生率)

人口10万人あたりの性犯罪の発生率のデータです。

平成22年から全国ワースト2位が続いていました。

この3年で改善はしているものの依然として10位以内に入っています。

(写真 性犯罪の認知件数・「前兆事案」の情報件数 福岡県警)

具体的な数字で見ると、去年1年間で、強制性交や強制わいせつなどの性犯罪は251件。

それにつながりかねないとされる、つきまといや痴漢、盗撮などの「前兆事案」の情報は2412件ありました。

性犯罪・性暴力をなくすために私たちの報道は十分なのか、もっとできることはないのか。

自分たちでは気づかない問題点があるのではないかと、取材現場の一つである県警記者クラブの様子をバリサーチ取材班のディレクターに記録してもらいました。

(写真 県警本部の記者クラブの様子)

(写真 県警本部の記者クラブの様子)

福岡県警察本部の記者クラブ。

ここに警察から事件や事故の情報が入ってきます。

1日の発表は多いときで十数件。その中には性に関する犯罪も多くあります。

(写真 発表文※加工しています)

(写真 発表文※加工しています)

この日、情報が入ってきたのは、福岡市内で起きた盗撮容疑の事件でした。

記者は、受け取った内容を詳しく警察に取材。

ニュースにするかを検討する段階で、記者グループでは、例えばこんなやりとりがあります。

(写真 記者クラブでの取材の様子)

(写真 記者クラブでの取材の様子)

(立花記者)
「警察によると、容疑者と被害者は、お互いに面識なしで、
ゲームセンターで遊んでいたところ、スマートフォンをお尻のあたりに近づけてきた」。

(黄記者)
「余罪などは?」。

(立花記者)
「詳しいことは、これからの捜査で調べるということらしいです」。

現場の記者たちが取材する上で注意しているのは、被害者のプライバシー、そして、犯行の手口や悪質性などです。

撮影していたディレクターから「ニュースになる事件には、一定の傾向があるのではないか」という疑問が投げかけられました。

この日、地下鉄で起きた痴漢容疑事件を取材していた平田記者は、容疑者の肩書きに注目していましたが、投げかけられた疑問にこう答えました。

(写真 平田記者)

(写真 平田記者)

(ディレクター)
「加害者の属性って大事によく見る?」。

(平田記者)
「見ます。たくさん事件の広報が出ている中でやっぱり肩書きのある人だったり
そういう人たちは、やっぱりしっかり見るようにしている。
ただ、やってることは同じなのに、一方はテレビで取り上げられて、他方は埋もれていく。
難しいですね、本当に。報道するのか、そもそもしないのか。
やっぱり議論していかないといけないのかなっていうふうに思います」。

(写真 「NHK放送ガイドライン」の一部)

(写真 「NHK放送ガイドライン」の一部)

性犯罪の報道には特有の配慮があります。

NHKの取材の基本姿勢を示すガイドラインでは、被害者の人権に注意し、報道することで被害者を傷つける二次被害が起きないか、慎重に検討するとしています。

そのことでほかの事件と比べ、報道をすべきか判断が難しく戸惑いがあるとグループでの議論でも意見として上がりました。

(写真 記者グループの議論)

(写真 記者グループの議論)

(下京記者)
「反省を込めて言うと、やっぱり性に関する取材って当然、相当難しくて。
難しいから、なかなかちょっとうまく判断できないこともある。
被害者の観点からみると報道しない方がいいかな、みたいな変な理屈を
(自分で)つけてしまうことがある」

(平田記者)。
「被害者が特定されないようにするためにも報じない方がいいよね、みたいな
認識が共通認識としてあったと思うんですけど。ちょっとおかしいのかなって
思います」

(池島デスク)。
「やっぱりこれだけ発生してるのに何も報じてないというか、
何も起きていないかのように世の中に伝わっているのではないか」。

性に関する報道が少なくなることで報道の目的のひとつである、「犯罪を防止する役割」を十分に果たせていないのではないか。

記者からは自分たちにできることはもっとあるという声も出ました。

(下京記者)。
「すごい理想をいうと、悪いことをしたらニュースになるから悪いことをするなよっていうメッセージ以上にもっとうまく犯罪を予防できるようなことがあればベストな気もします」

(写真 黄記者)

(写真 黄記者)

(黃記者)
「事件報道の目的は犯罪を防ぐこと。それは形にでないかも知れないけれど、
そこに尽きるなっていうのは最近すごく思っている。
そういった意味では、いろんな機関が手を合わせて情報共有しながら、ネットも活用しながら発信しなくてはならないと思う」

(写真 福岡県警察本部)

(写真 福岡県警察本部)

私たちが問題意識を持っているのと同じように警察も当事者として課題を感じていて、3年前からある取り組みを始めています。

それが、市民に向けて警察が発信している一次情報です。

(写真 アプリ「みまもっち」の画面)

(写真 アプリ「みまもっち」の画面)

写真は福岡県警が3年前から取り組んでいるアプリ「みまもっち」の画面です。

公然わいせつや痴漢、のぞき見やつきまといといった、県内で起きる、性に関する犯罪などを毎日収集。それを地図上で公開することで住民に注意を呼びかけています。

子どもを持つ親などを中心に約14万人が登録しています。

(写真 配信ボタン)

(写真 配信ボタン)

警察が発信に力を入れている背景には、逮捕に至らないようなケースが、その後、重大な犯罪にエスカレートする、性犯罪特有の傾向があるからだといいます。

(写真 福岡県警察本部 犯罪抑止対策室 福山美怜警部補)

(写真 福岡県警察本部 犯罪抑止対策室 福山美怜警部補)

福岡県警察本部・犯罪抑止対策室の福山美怜警部補
「実際に捕まった犯人が触ったり声をかけたりした経験があって、そこが見つからなかったことが最終的に強制性交であったり強制わいせつなどにつながっていくことがある。
いちばん最初の段階でしっかり地域に情報提供して『私たちは、あなたたちを見ているんだぞ』というところをアピールして対策をとっていくことが、最終的に性犯罪の犯人を抑止することにつながっていく」

犯罪をなくしていくために警察などが発信するこうした一次情報をどう生かしていけばいいか。それらを活用する現場についても取材し伝えていきます。

性に関する犯罪は被害の深刻さから「魂の殺人」と呼ばれ、沈黙を強いられている被害者も多いと指摘されています。

被害者が責められるのではなく、加害者が犯罪を起こさない社会をどうつくっていくのか。

皆さんの声を聞きながら、考えていきたいと思っています。

これまでも皆さんからHPや郵送で声を寄せていただいていたのですが、4月からは、LINEを通じてもお寄せいただけようになりました。

性に関する犯罪や対策などについて、あなたの声を聞かせて下さい。

▼皆さんの声・取材してもらいたいことをHPやLINEからお寄せください!