あなたの境界線は? 学校で始まった「性教育」

NHK
2022年5月24日 午後2:38 公開

小学校1年生の子どもを持つ女性から番組に声が寄せられました。

小学校1年生の娘を持つ女性からのご意見

1つ目は、
「性犯罪が多く発生している中で、学校で子どもが性暴力について学ぶ機会があるのでしょうか?」

その疑問を調べるため、学校を訪ねました。

福岡県では、性暴力について学ぶための授業が、ことし4月から小学校・中学校・高校などで始まっています。実は全国に先駆けた取り組みです。

いったいどんな内容なのでしょうか。

北九州市立藤木小学校で行われた“性暴力”の特別授業

北九州市内の小学校です。ことし4月、6年2組の教室では、臨床心理士が性暴力に関する特別授業を行っていました。

授業を行う臨床心理士の園田美貴さん

(園田美貴さん)
「性暴力ってなんですか?それをきょうの授業の中でしっかり説明していきますので」

性に関して十分な知識が備わっていない小学生にどのように伝えているのでしょうか。

授業のなかで強調されていたのは”境界線”というキーワード。

自分の“境界線”がどこにあるのか実際に手を広げて確認する様子

心理的、そして身体的に不快感や違和感を覚える距離をイメージしやすいように、”境界線”ということばを使って表現。

目に見えない”境界線”がどこにあるのか、実際に手を広げるなどして探っていきます。

そして性暴力は、この”境界線”を越えたときに起きることを説明しました。

(園田美貴さん)
「性の境界線のひとつに自分だけの大事なところがあります。それは体操服で隠れる所と口です。もし、ことばで確認せずに相手の大事なところを見たり触ったり、自分の大事なところを見せたり触らせたりすることがあれば、それは性の境界線が守られていない、つまり”性暴力”になります」。

“境界線”について学ぶ小学生たち

“境界線”について学ぶ小学生たち

性暴力の仕組みを説明する園田美貴さん

園田さんは、性暴力を生まないために境界線を越えられることが嫌な場合には、相手にはっきりと伝えていいことを子どもたちに説明していました。

さらに、相手に拒否された場合に、どう受け止めればいいかについても丁寧に説明しました。

(園田美貴さん)
「自分が相手に嫌って言っていいように相手もあなたに嫌って言っていいんです。悲しい気持ちになる、つらい気持ちになる。でもその時の嫌っていうのは、あなたのことが嫌なんではないんです。『境界線を越えられることが嫌』っていうのをあなたにも分かってほしい」。

授業を受けた子どもたちは・・・

(男子児童)
「境界線には、自分と相手を守る透明バリアーがあると分かってよかった」

(女子児童)
「嫌なことは嫌だとちゃんと人に伝えたいと思った」

授業を行った園田さんは、子どもたちがインターネットなどを通じて誤った情報に触れる前から正しい知識を教える必要があると考えています。

(園田美貴さん)。
「ゆがんだ情報があふれている中で、子どもたちが何も正確な情報を与えられないままさらされていくのは非常に危険。発達段階に応じて正しい知識を身につけていくのは、自分の人生を自分で選択できる力のひとつになる」。

授業の意義について話す園田さん

性暴力に関して正しい知識があれば、仮に被害を受けたとしても、自分を責めすぎたりせず、周りに助けを求めるような行動にもつながっていくと話していました。

“性暴力”高校生にどのように教える?

ことし4月、福岡市の高校の授業では、1年生から3年生が授業を受けました。

福岡県立福岡講倫館高校で行われた“性暴力”の特別授業

高校の授業で話されていたのは・・・。

(山村さん)。
「性被害を受けた人のうち、40パーセントが10代」。
「付き合っているけど、セックスは嫌なの。そういうこともあります。どういうことだったらお互いにOKなのか自分と相手の気持ちをそのつど1つ1つ確認することが大事です」。

高校生に授業する臨床心理士の山村容子さん

授業を聞く高校生

授業を聞く高校生

授業を聞く高校生

性暴力の被害者にも加害者にもならないために、小学校の授業と比べて、より具体的で実践的な内容が教えられていました。

福岡は全国的にも性犯罪の発生率が高く、学校で教えていかないと、性暴力はなくならないという深刻な背景があります。

県が専門家と共に検討してカリキュラムを作り、約2年間の試行期間を経て、ことし4月からこの“性暴力”に関する特別授業が始まったのです。

家庭で親は子どもにどのように“性暴力”を教えるべき?

小学校1年生の娘を持つ女性からのご意見

では、冒頭で紹介したご意見の2つ目の疑問。

「ふだん子どもに接している親は、家庭で子どもに性や性暴力についてどのように話していけばいいのでしょうか?」

長年、スクールカウンセラーとして子どもたちと関わってきた臨床心理士の山村容子さんに話を聞きました。

臨床心理士の山村容子さん

山村さんは、親は家庭で「教育をしなくては」と気負いすぎるのではなく、子どもにどんな時に嫌な気持ちになるか、まずは聞くことから始めるようアドバイスをしてくれました。

(山村さん)
「嫌かどうかは人によって違う。人それぞれ感情と気持ちは違う。あなたはどんな気持ちなのかということをぜひ子どもに聞いてもらうのがとても大事。子どもの”言ってもいいんだ”という気づきからスタートだと思う。日常の関わりの中から子どもたちに性のことを伝えていく必要があると思います」。

子どもを持つ親へアドバイスする山村さん

子どもを持つ親へアドバイスする山村さん

子どもを持つ親へアドバイスする山村さん

性に関することを子どもから大人にはなかなか話しにくいので、ふだんから大人から子どもに話しておくことで、いざという時に子どもが相談しやすくなる雰囲気を作ることも大切だと話していました。

“性暴力“について学んでいない大人の世代は

子どもたちは性暴力について学校で学び始めましたが、親の世代は学んできていないので子どもに相談された時にどのように答えたらいいか戸惑うことも多いかもしれません。

そんな時に参考になりそうなのがこちら。

“性暴力”の授業で使用されていた資料

授業で使用されている資料が福岡県のホームページで公開されています。子どもに伝える時のポイントや留意点も書かれています。

もし子どもから性暴力を受けたと相談された場合には、24時間365日、匿名で相談を受け付けている窓口「性暴力被害者支援センター・ふくおか」があります。こちらもご活用ください。

「追跡!バリサーチ」のコーナーでは、性犯罪・性暴力に関するお悩みやご意見を随時募集しています。みなさんと一緒に解決していきたいのでぜひ、ご意見をお寄せください。

追跡!バリサーチ「性犯罪・性暴力 なくすために」