変われるか?"エスカレーター"マナー 2022年1月26日

NHK福岡放送局 記者 福原 健
2022年4月4日 午前11:03 公開

「エスカレーターでは、右側に立たないといけない」。

百武桃香さんの言葉です。
百武さんは左半身にまひがあり、エスカレーターはいつも右側に乗ります。  

去年12月、百武さんへの取材を元にエスカレーターの乗り方についてお伝えしました。

「右側を歩く人のために空ける」という乗り方が浸透するなか、歩行中に転倒するなどの事故が起きていることや百武さんのように片側にしか立てない人もいるため、2列乗りが呼びかけられているという内容です。  

しかし「2列乗り」はほとんど浸透していないため、私たちは現状を知ってほしいと、ツイッターに放送内容をまとめた動画を公開しました。  

動画は広く拡散され、再生回数は110万回を超えました。
同時に多くの意見もあり、関心の高さに驚きました。  

そこで先週の「追跡!バリサーチ」で追加取材。
見えてきたのは「呼びかけ以外のアイデアの必要性」でした。  

どうすればすべての人が気持ちよく利用できるのか、一緒に考えていただけると嬉しいです。  

【あのインフルエンサーも反応】

なぜ、これだけ多くの反響があったのか。
私たちはツイートを分析することから始めました。  

これは、動画が掲載されたツイートの拡散数のグラフです。
動画を公開した3日後、12月24日に大きく伸びていることが分かります。
この背景には2人のキーパーソンがいました。  

24日に拡散した1人が「レンタルなんもしない人」さんです。
そのツイートがこちら。  

「わざと空いている側に立ちはだかって、『エスカレーターは歩けない』を
当たり前にしていこうかな」。  

どんな気持ちで意見を発信したのか、話を聞きました。

(「レンタルなんもしない人」さん)。
「自分が知らなかったし知らない人も多いだろうなと思ったので、
もっと知られてもいいんじゃないかという気持ちだった。
(自分の)子供を右側に立たせている状態の時に、
その状態ができただけでドキドキするので、
エスカレーターは片側を空けないといけないっていう風潮が
当たり前になりすぎているなって思う。
当たり前になりすぎているから自分も染まっているのであって、
その当たり前を変えていかない限りは、
今のままになってしまうんだろうなって思う」。  

さらに、23日に拡散のきっかけを作った人にも取材しました。

大阪の作業療法士、竹林崇さんです。

普段から半身まひを抱える障害者などのリハビリに取り組んでいる竹林さんにとって、片側にしか立てない人がいるエスカレーターの話はひと事ではありませんでした。  

(竹林さん)。
「ツイートへの意見を見てみると
『まひしている方の手で持てないならば横向きに乗ればいい』という意見があった。
こうした一般目線での意見はもっともらしく聞こえるが、
上下肢にまひがある方にとっては前進するだけでも難しく、
そういう状況に対して想像を働かせるための情報が今かなり足りていない。
今回もエスカレーター危ないですよっていう話で止まるのではなくて、
どうしても配慮が必要なんですという情報を頒布することで
そういう潮流が少しずつできていくんじゃないかなと思う」。  

竹林さんのツイートは私たちのツイートを上回る7000件を超えるリツイート、9400あまりの「いいね」を集めています。  

影響力のあるインフルエンサーが「知ってほしい」と共感したことが、広く拡散されたことにつながっていました。  

【なぜ、変わらないのか?】

反響を確認した後、私たちは「もしかしたら乗り方に変化が起きているかもしれない」と
駅の様子を見に行ってみましたが、そんなわけはありませんでした。  

右側を空ける人、空いた右側を駆け上がっていく人を見るたび浸透させることの難しさを感じました。  

「なぜ、変わらないのか?」

集まった意見に目を通すと、そこには答えとなるつぶやきがありました。

こうした「2列乗りがルールなのは分かっているけれど、それができない」という意見は多く見られました。  

このほかにも・・・

こういった条例や罰則を設けないとダメだという声もありました。

SNSという匿名性の高いものを介しているからこそ、様々な考えを知ることができました。  

【変わらないのは『世界共通』】

ではどうすればいいのでしょうか?
強制的な取り組みしかないのでしょうか?  

エスカレーターに詳しい江戸川大学の斗鬼正一名誉教授は、強制するような取り組みは決して効果的とはいえないといいます。  

(江戸川大学・斗鬼正一名誉教授)
「本来マナーは条例とか罰則とか強制するものではない。
メーカーも鉄道事業者も利用者も行政も、みんなが考えていく必要がある。
『歩く権利』を主張する方々を頭から押さえつけていいのかという問題は、
民主主義の国としてある」。  

実際に、埼玉県では去年10月から2列乗りを呼びかける条例が施行されましたが、利用風景は大きく変わっていないという声もあります。  

また、世界を見ると韓国が2007年から行政主導で2列乗りの呼びかけを行いましたが
「このような行政主導の強圧的なやり方はおかしい」と反発があり8年後に断念しました。  

斗鬼教授は、世界レベルで見ても「2列乗り」が守られている国はないといいます。

【福岡で変われば世界初? 求められる「アイデア」】

1月中旬の福岡市交通局。
呼びかけ以外にどういう取り組みが効果的か、話し合いが続いていました。  

(ミーティングでのやり取り)。
「なんで止まる必要があるか言わんけん、みんなしない」。
「走っちゃいけない以外のメッセージが必要」。  

(福岡市交通局営業課・宮崎岳彦課長)。
「エスカレーター付近とかにポスターとかはったりしているが、
皆さんすぐ通り過ぎてしまうので、
なかなかメッセージが届かない部分もある。
右側に立つ勇気を与えるというか、背中を後押しする。
右側に止まってる人がそういうプレッシャーを感じなくても
済むようにしていきたい」。  

もし、福岡からマナーを変えることができれば、それは世界で初めてと言えるかもしれません。
そのために必要なのは「アイデア」です。  

みなさんは、どうすればすべての人が気持ちよくエスカレーターを利用できると思いますか?
ぜひ、アイデアをお寄せいただければ嬉しいです。  

投稿フォーム

(あて先)
〒810-8577
(住所不要)NHK福岡放送局『バリサーチ』係  

【取材後記】

福岡に赴任した4年前、地下鉄・天神南駅のホームに降りる時に「エスカレーターは2列で乗ろう」と呼びかける大きな看板を見かけました。正直、「それは無理だろう・・・」と思ったことを覚えています。それでも「どうしてこんな呼びかけを行うのか?」と気になる部分がずっとありました。そして去年、取材を始めると事故が起きていることや「右側にしか立てない人がいる」ということが分かりました。

その後、拡散の数や集まった意見を目の当たりにしたとき、「このままではダメだ」と思いました。多くの人が利用する分、いきなり利用風景が変わるとは思いません。しかし、取材中も誰かが右側に止まると、その後ろの人たちも止まっていて、瞬間的に「2列乗り」が実現していました。これは「右側に止まること」について理解はあるということだと思います。「エスカレーターは2列で。急いでいる人は階段を」、何かきっかけを作れないか、今後も考えていきたいと思います。