神社がピンチ?再建の手立ては 2021年12月27日

NHK福岡放送局ディレクター 水口紋蔵
2022年4月4日 午前11:03 公開

もうすぐお正月ということで、毎年近くの神社で初詣という人も多いと思います。

福岡県には有名な神社がたくさんありますが、小さな神社を合わせると、その数は県内で3308と、全国3位の多さなんです。

一方、福岡県神社庁によると、多くの神社では、補修などの費用が十分に集めることができないなど、維持管理が難しくなってきており、特に最近では、相次ぐ豪雨や暴風による被害で、地域のみなさんだけでは神社が支えられなくなっています。

糸島市にある雉琴神社(きじこと・じんじゃ)では、去年9月の台風10号で、境内にあるご神木が本殿を直撃。今も半壊の状態が続いています。

神社は、収穫を願う祭りなどを行う、住民にとって大切な場所でした。
“何とか再建したい”と、氏子たちは動き出しました。  

問題となったのは、修繕のための巨額の費用でした。憲法で定められた政教分離の原則があるため、行政からは資金面で支援を得ることはできません。

まずは氏子で再建費用を工面できないかと、資金集めに奔走。
およそ1400万円が集まりましたが、再建に必要な4000万円には足らず、氏子だけでの再建はあきらめざるを得ませんでした。  

(雉琴神社 氏子 重松大和さん)
「裕福な家庭ばかりじゃないですし年金だけで暮らす人から生活を脅かしてまで(再建)するものではないと思うんです。厳しいですよね」。  

そんな中、思いがけず、支援をしたいという人が現れました。

倒れたご神木の撤去に協力したいと申し出た、北九州市で林業を営む中川英則(なかがわ・ひでのり)さん。
神社が被災して困っているというニュースを見て、ボランティアで駆けつけたのです。

「これは行こうと思ってパッと思い立って行った。昼過ぎには糸島おったもん。何とか俺ができることがあれば加勢したいと思って」。

さらに中川さんは、撤去した木を市場で販売し、売ったお金およそ160万円を寄付しました。

(撮影:雉琴神社)

(撮影:雉琴神社)

氏子のみなさんは、中川さんのように、地域の外の人たちから支援を呼び込むことができないかと考え、クラウドファンディングを立ち上げました。
1700年続く、地域にかかせない神社であることを訴えると、最終的に263人から430万円が集まりました。  

さらに、SNSでも積極的に情報を発信。
神社を訪れた思い出があるという人などから応援の手紙とともに寄付が寄せられたのです。  

(重松さん)「手紙まで出して頂けるっていうその気持ちがうれしいですよね。そうするとやっぱりちゃんとせないかんのやなって思いはこみ上げてきます」。

また、個人だけでなく、企業からも支援をしてもらえないかと、市内の会社を積極的に訪問。
およそ30社から500万円の寄付が寄せられ、これまでに集まった金額は3600万円に上っています。  

氏子の重松さんは、なんとか再建できる金額まで近づき、あとは立派な神社を建てて皆さんに恩返しがしたいと語りました。

一方で、再建がうまくいっていない神社が多いのも現実。最大の問題は過疎化です。

4年前の九州北部豪雨で家屋186軒が全半壊した、朝倉市杷木松末(ますえ)。

神坂貞和(かみさか・さだかず)さんは、宮司を務めている4つの神社が被災したといいます。

その1つを案内してもらうと、本殿に続く石段は今も流された当時のまま。
建物も朽ち始めていました。  

もともとこの地域では過疎化が進み、手入れが難しくなっていたところ、追い打ちをかけたのが4年前の豪雨でした。住民は、避難生活が長期化する中で、およそ半数が地区を離れて新たな生活を始めています。

(宮司・神坂さん)
「もうどんどん朽ちていく感じですよね。年1回でも掃除とか手入れするかせんかはやっぱり大きいですよね。本当に人が来てないっていうのがよく分かります」。  

この地区にあった別の神社では、維持することを諦めた住民もいます。

おととし、豪雨で流された神社があった場所に、住民たちは集まり、最後に思い出を語り合ったといいます。

(住民の中村亨さん)
「何か残っていれば(再建)はあったかもしれないけど何も残っていない。管理はできない、諦めるしかない」。  

國學院大學 神道文化学部の藤本頼生准教授によれば、
地域の神社がなくなると、草とりや集会など住民が顔を合わせる機会も減ってしまうため、地域のつながりが弱まってしまう。また、神社が放置され続けると、不法侵入されたり放火されるなど、治安や防犯上の問題も出てきてしまうといいます。  

取材を通し、神社が地域のコミュニケーションを支える場のひとつであることを実感したとともに、まずは地域でこうした現実を直視して、どうしていったらよいか相談を始めることの重要性を感じました。

みなさんも、初詣の機会に、近所の神社がどんな状態か、一度ご覧になってみてはいかがでしょうか?