ワクチンが"打てない"~未接種で追い込まれる生活~ 2021年10月25日

NHK福岡放送局ディレクター 佐々木健
2022年4月4日 午前11:03 公開

今回は、視聴者から届いた新型コロナワクチンに関する次のような悩みの声をもとに取材をしました。

内容は、ワクチンを接種したくてもできない上に、未接種を理由に福祉サービスを受けられないというもの。

取材班は早速、詳しい事情を聞こうと投稿者を訪ねました。

投稿をくれたのは、福岡市に住む本田恵さん(仮名)です。

夫と共働きで、特別支援学校に通う高校3年生の息子の光輝さん(仮名)を育てています。

光輝さんは知的障害があり、言葉を理解したり自分の気持ちを表現したりするのが苦手です。恵さんは息子がコロナに感染し重症化することを心配し、ワクチンを受けさせたいと考えていました。

恵さんはかかりつけのクリニックに息子を連れて行きましたが・・・

「刺すときに暴れるんです。全身で飛びかかってくるんですよ。急にパニックになって。親子して疲労困ぱいみたいな。打てなかったです」。

それ以来、息子の光輝さんはワクチンと聞くだけで怖がるように。

恵さんは、ワクチンを打てないのはしかたないと考えましたが、息子の友達が接種したと聞くたび精神的に追い込まれていったといいます。

「子育てのしかたが間違っていたのかと思って。自分を責めるし、息子を見ると、何なんだろう私の人生と悩んだ」と話してくれました。

さらに今月、恵さん一家の日常生活を脅かす新たな問題が起きました。

昼間は働きに出ている恵さんは、毎月2回、2泊3日で息子を福祉施設に預けてきました。それが恵さんにとって心のゆとりを取り戻す大切な時間でした。

ところが、その施設から思わぬ知らせが。

「ワクチン接種を2回終えた人でないと、当面の間施設を利用することは認められない」というのです。

恵さんは、戸惑いを隠せない様子でした。

「えってなって、今まで(施設に)十何年通ってるから。うちの息子が注射受けられないのご存じですよねって」。

なぜ、施設側はワクチンの2回接種を施設利用の条件にしたのか。
施設長の答えは次のようなものでした。  

「施設では入所者の方で、基礎疾患をもたれている方や重度の障害がある方、そして高齢の利用者などがたくさん利用されています。ですので、実際に新型コロナウイルスが施設に入ったときに利用者の命に関わる問題となりますので、今回はこのような決定をさせていただきました」。

施設側の決断の背景にあったのは、感染拡大への危機感でした。

今年8月には全国の障害者福祉施設195か所で感染が発生し、大きな問題となっていました。(「福祉新聞」調べ)

施設側は取材に対し、「知的障害などがある利用者はマスクや手の消毒を徹底させることが難しく、感染リスクを抑えるためには必要な対応だ」と話しました。

ところが取材をした6日後。
施設が急きょ、短期入所の利用条件としていたワクチンの2回接種を見直したのです。  

施設長が再びインタビューに答えました。

「短期入所にあたって、ワクチンを接種するという条件は間違いだった。本当に利用しなければいけない方、利用したい方が福祉サービスの制限を受けてしまうということに配慮が足りなかった」。

施設側は私たちの取材を受けた後、今回の対応に問題がないのか、行政などに改めて確認を行ったといいます。

厚生労働省は、今回の件について「ワクチン接種を2回終えていない」ことは、福祉サービスの提供を拒む「正当な理由」には当たらないという見解を示しました。施設側はこれを参考に対応を見直したのです。

施設側はワクチン接種による利用制限を解除した後、利用前に抗原検査や健康状態の確認をする水際対策を行うことで感染を防いでいきたいとしています。

さらに、恵さんが暮らす福岡市でも大きな動きがありました。

市は今月11日、障害や寝たきりなどが理由で病院や集団での接種が難しい人たち対して、新たな対応を始めると発表しました。医療チームが自宅などの希望する場所を訪れワクチンを打つ「訪問接種」を行うことにしたのです。

福岡市は、誰も取り残すことのないようワクチン接種できる機会を確保するための対応だと答えました。

バリサーチ取材班は、急ぎ投稿者の恵さんを訪ね報告しました。
福祉施設による利用制限が解除されたことを伝えると、恵さんは大喜びの様子でした。

「うそー!ずっと電話してたんです、いろんな施設に。短期入所いけませんかって」。

最初に訪ねてから1週間。その間も恵さんは県内にある5軒の福祉施設に連絡を入れ、息子を預かってもらえないか相談を続けていたと言います。

恵さんは安どの気持ちに、涙を浮かべていました

「いろいろ大変やった。うれしい。もうずっと他の所に電話して。追い詰められて・・・」

恵さんがNHKに最初に送ってくれた投稿にも、思い詰めた気持ちが綴られていました。

「いっそのこと息子と一緒に、とバカなことを考えることが多くなりつつあります」。

ワクチンひとつで生活が一変する現実があるということ。
ワクチンひとつで不利益を被ることがあっていいのかという疑問。  

今回の恵さんの投稿と涙から、ワクチンを打たないことで追い詰められる人がいる現実の深刻さを突きつけられました。

一方で、福岡市による「訪問接種」について利用するか聞いてみると、

「どうやろ。打てる自信がない、打たせてくれる自信がない」とのこと。
「自宅であっても、注射を怖がる息子にワクチンを打たせるのは難しい」。  

そう考え、恵さんは福岡市のサービスの利用を一旦、見送ることにしました。

今回、息子のワクチン接種に関してはすぐに解決といきませんでしたが、生活の要となる福祉施設が利用できるようになったことがせめてもの救いだと恵さんは話しました。

「なんかほっとした。でも誰のせいでもないと思う。私が悪いわけじゃない、あの子が悪いわけでもない。やるだけのことはやったと思うし、しょうがないよね」。

今回、施設が対応を見直すもとになった厚生労働省の見解ですが、実はワクチンを打てない人に対し、「どう対応しなさい」というような明確な指針が出されているわけではありませんでした。ただ、福祉施設を運営する上での基本的な考え方に照らすと適切ではないということでした。

回、取材を通してコロナやワクチンという新しい事態にまだまだ対応が追いついていない面があるのだと実感しました。

また、接種することが義務ではない新型コロナワクチンによって私たちが不利益を被ることがないよう声をあげていくだけでなく、メディアとしてワクチンをめぐる社会の動きをしっかり検証していく必要があると思いました。

バリサーチでは、今後も新型コロナウイルスやワクチン接種について取り上げていきます。コロナやワクチンで困っていることがあればぜひ意見をお寄せください。

  

追跡!バリサーチ「聞いてほしい コロナで”本当に困っていること”」