この春の統一地方選挙では、議員の「なり手不足」の問題が改めて浮き彫りとなりました。住民に最も近い地方政治の現場で、さまざまな住民の声を届ける議員の役割は重要性を増していますが、なり手の確保が難しいのも実情です。奈良県内の議員選挙の取材をもとに解決に向けたヒントを探ります。
(鈴木龍、及川佑子)
また「定員割れ」
4月18日、奈良県南部・上北山村の議会議員選挙は、告示日とともに議員が無投票で決まりました。ただ、6の定員に立候補したのは5人。欠員が1人いる「定員割れ」となりました。「定員割れ」で無投票で当選者が決まるのは、上北山村議会では初めてではありません。
16年前、2007年の選挙の時は定員7(当時)に対して、立候補したのは5人。欠員が議会の6分の1を超えていたため、法律に基づき、2人を補う再選挙まで行う事態となりました。
ある村の職員は「以前の『定員割れ』で、世間から注目を浴びてしまったが、また今回も起きてしまった」とこぼしました。
「定員割れ」なぜ起きる?
なり手が現れず、なぜ「定員割れ」が起きるのか?村の人たちに聞いてみると、さまざまな「分析の声」が上がっていました。
「村議会議員の報酬は月16万円。これだけでは生活していけないから、もともと経済力が安定している人でなければ立候補しにくい」。
「議会が何をしているのか、活動の実態がきちんと住民に周知できていないことが、『なり手不足』の要因ではないか」。
議員報酬については、去年秋に有識者による審議会も立ち上げて議論されたものの、現状維持という結論に落ち着きました。
「周辺自治体の状況や、議会の活動日数などを踏まえれば、現状の報酬は妥当だ」。
「仮に1万円や2万円引き上げて、果たしてそれだけで議員のなり手は現れるのか」。
議論のなかで、こうした指摘もされていたようです。
危機感と、反省と
市町村の議会議員は、地域の民意をくみ取り、行政の進め方をチェックする役目などを担っています。欠員がいるということは、すなわち、それらの機能が弱まりかねないことを意味しています。新たな任期をスタートさせた議員からは、強い危機感と、村民たちに実態を知ってもらえるような活動を誓う声が上がっていました。
初当選・福西敏久議員(58)
「地域の民意をくみ上げてとりまとめる役割を担うはずの議会が『定員割れ』を起こすことは、地方自治の根幹を考えるような深刻な事態だ。議会は多様な人の声を反映する場にすべきで、今後は、若い世代や女性などのリクルートにも取り組みたい」。
4期目・岩本泉治議長(68)
「『定員割れ』は残念な結果だ。議員になることの魅力や職責の重さは、なってみると非常にわかるが、きちんと住民に伝えてこられなかったというわれわれの反省点もある。議会活動を住民に知ってもらう取り組みを検討していきたい」。
”属性”にバリエーションを
一方、県北西部の王寺町では、多様な立場の人に立候補に目を向けてもらおうと活動した人が居ました。2期目を目指した玉守数叔さんです。
2人の子どもを育てながら1期目を活動してきた玉守さんですが、子育て世代の声が町政に反映できていないのではないか、と疑問を感じていました。改選前の議会の平均年齢は70.5歳。当選時、49歳だった玉守さんが、最年少だったのです。
若い世代の議員が少ないのは、立候補に金銭面のハードルを感じているからではないか、と考えた玉守さん。ハードルが高くないことを示そうと、費用の「ゼロ円」をめざす選挙戦を徹底しました。
”ゼロ”でも戦える?
まず辞めたのは選挙カー。調達には、数十万円かかるといいます。狭い路地が多いという町の特徴も踏まえ、自転車で回り、支持を呼びかけることにしました。
町の選挙管理委員会などにも確認し、ポスターは、一部のスローガン以外は、4年前の選挙のものを再利用。選挙事務所も20年近く営む居酒屋を登録しました。
王寺町議選に立候補 玉守数叔さん
「低予算選挙をもっと広めていって、若い人たち・優秀な人たちにどんどん出てきてほしいと思うし、『そんな感じだったら僕もチャレンジしてみようかな』みたいな人を発掘していきたい」。
”ゼロ円”にこだわった選挙戦の様子はSNSでも発信。しかし、開票の結果、当選ラインには50票あまり届かず、肝心の吉報は届きませんでした。
”立候補の芽”
有権者への支持は広がりませんでしたが、玉守さんの思いは届いたようです。開票結果が出た2日後、玉守さんのもとを訪ねると、30代の飲食店仲間の青年が、立候補に意欲を持つようになったことを教えてくれました。
玉守さんの飲食店仲間(34)
「お金のない人でも自分の思いがあったら、それはできるんじゃないかなと思うし、その熱い気持ちを感じ取ったので、4年後にチャレンジしてみたい気持ちが出てきている」。
「ゼロ円」選挙を徹底!玉守数叔さん
「今回、自分の力不足で僕自身は落選してしまいましたが、自分の思いを引き継いでくれる若い人が出てきたのはうれしかったし、僕も今回立候補してみて良かったなと思いました。ほんまに若い人たち、『レッツ立候補!』ですわ」。
”なり手”を増やすために
立候補者がそもそも少ない、居るけれどもバリエーションが少ない・・・上北山村と王寺町の取材で見えてきたのは、いかに立候補者として立ち上がってもらうか、という課題です。
議員一人ひとりや議会、そして、それらの活動・現状を伝える私たち、メディアの側も、どのようにこの課題の解決につながるような情報を発信していけるか。そうしたことが、この2つの現場を通じて、問われていると思いを新たにしました。
鈴木龍
奈良局スタッフカメラマン
(トータルビジョン関西所属)
奈良県内のニュース映像を撮り続けて18年目。
特に花鳥風月の撮影に力を入れている。
及川佑子
政治・行政分野を中心に奈良で取材して3年目の記者。
統一地方選挙ではどうしたら政治への関心を高められるか考え続けました。