リポート「奈良を再び漢方の中心地に!」

NHK
2022年12月9日 午後6:48 公開

奈良にゆかりのある生薬や漢方についてのリポートです。

奈良では古くから県の南部や中部を中心に漢方の原材料となる薬草が育てられてきました。実は今、外国産の安価な輸入品に押されたりして、存続の危機にあるといわれています。こうした中、10年前から県の漢方復活プロジェクトが進められています。そこには、薬草の研究に熱意を燃やすひとりの研究者の姿がありました。

ことし11月、生薬を使った商品の見本市が奈良市で開かれました。化粧水、入浴剤それにビール。ずらりと並んだ商品には薬草が使われています。これらの多くは県が取り組む「漢方推進プロジェクト」で生まれたものでした。このプロジェクトがはじまったのは10年前。県は漢方に使う薬草の生産者や、関連の商品を開発するメーカーを手厚く支援してきました。

その取り組みの中心となったのが、「大和トウキ」という薬草でした。大和トウキは、県の中部や南部の山間部でさかんに栽培されてきたセリ科の多年草です。ギザギザした葉っぱが特徴で、白くて小さな花を咲かせます。この植物の根っこが古くから漢方の原材料として使われ、血行の促進や冷え性の改善に効果があるといわれています。この大和トウキ。実は今、存続の危機を迎えているといわれています。

奈良県産の大和トウキは、今から40年前の昭和58年には年間で47トンあまりの生産量がありました。しかし、価格の安い中国などからの輸入品や、生産者の高齢化などの影響を受け、11年前の平成23年の時点で、生産量は1点3トン。約98%少なくなってしまいました。

こうした状況に焦りを感じた県がはじめたのが「漢方推進プロジェクト」でした。このプロジェクトでは、薬草の生産者と関連する商品のメーカーを手厚く支援。県内での薬草の栽培を増やしながら、漢方の事業化を推進しようという狙いがあります。

そうした取り組みの拠点の1つが桜井市にあります。県の薬事研究センターという施設で、薬草の効率的な栽培方法や、製品化に向けた成分の分析などを進めています。

この施設で大和トウキの研究にあたる総括研究員の西原正和さんです。7年前に配属されて以降、大和トウキの研究に専念してきました。その熱心な研究姿勢から「トウキ王子」という愛称でも呼ばれています。ある日、西原さんは御所市にある大和トウキの畑を訪れました。大和トウキの効率的な栽培法なども研究する西原さんは、この畑で、大和トウキの生育状況を月に1度確認しています。時には大和トウキの葉をちぎって、そのまま食べることもあるということです。

薬剤師の資格を持つ西原さん。これほど熱心に大和トウキの研究を続けるのにはわけがあります。

奈良から大和トウキが消えてしまう。生産農家がゼロになってしまうという危険性があった。そうなると生薬の歴史があったのに途絶えてしまう。その危機感があった」。

これまで大和トウキの優劣は、目の肥えた生薬の専門家の五感が頼りといわれてきました。西原さんたちの研究が進み、大和トウキに血行促進の効果がある成分が含まれていることが解明されたことで、科学的なエビデンスで効能があると説明できるようになりました。こうした成果が健康食品や化粧品などの製品化に大いに役立ったといいます。

五條市にある製薬会社。ここでも西原さんたちの研究成果が生かされています。この会社ではこれまでに、効能が異なる大和トウキ入りの栄養ドリンクを3点、売り出しました。会社の幹部を訪ねた西原さんは、大和トウキを使った次の製品の方向性などについて打合わせなどを行っていました。大和トウキのエキスが入った栄養ドリンクは、この会社の売れ筋商品になりつつあるということです。製薬会社ではこれからも新たな商品を生み出したいと考えています。

県プロジェクトがはじまって10年、県内の大和トウキの畑はおよそ6倍に広がりました。しかし、大和トウキの研究はまだ道半ばという西原さん。生産者の数は徐々に増えているものの、まだまだ製品化が追いついていないといいます。

西原さんは研究の成果を栽培の技術、製品化に役立ててもらうのはもちろん、まずは奈良県産の薬草の魅力・よさを多くの人に知ってもらうのが重要だといいます。

大和トウキは効能が高いですし、まずはそこを知っていただいて、最終的には県内で生産して、県内で消費する。県民のみなさんで共有、分かち合える形になればいいかなと」。

県はプロジェクトを通じて、大和トウキ以外でも、奈良県産の薬草の復活を目指しています。今後も漢方関連の商品の見本市などが開かれるということですので、興味を持たれた方は、会場を訪れ、奈良県産の薬草の魅力に触れてみてはいかがでしょうか。

平塚竜河 記者

奈良県政担当

取材で大和トウキの天ぷらをいただきました。とてもおいしかったです。