「手に職のある人」募集!クリエーターを呼び込む村

NHK
2022年5月20日 午後3:29 公開

わたしが東吉野村のシェアオフィス「オフィスキャンプ東吉野」のことを知ったのはことし4月に行われた村長選挙の取材をしていたさなかだ。手に職を持つクリエーターを呼び込むという構想を掲げた村に、若者が続々と移り住んでいる。そのカギとなっているのがシェアオフィスだと聞き、背景を知りたくなり取材を重ねた。

施設運営の中心人物、商業デザイナーの坂本大祐さんも、移住者の1人。選挙のあとの村長へのインタビューでも、「移住政策のキーマン」として何度も名前があがった人物だ。運営する施設は「移住」を前面に打ち出したものかと思いきや、会話の中で飛び出したひと言に衝撃を受けた。

「この施設は何に使ってもいいんですよ。村に寄った時の荷物置き場でもいいですし」

仕事で使わなくてもいい。コーヒースタンドでほかの利用者としゃべっていてもいい・・・話を伺っていても「移住」という言葉は水を向けないと出てこない。むしろ、避けているようでもある。

移住や仕事の「ための」施設というのを前面に出しすぎると、趣旨に沿わない人へのハードルが高くなってしまう。だからコンセプトは“まぐち”を広く「なんとなく集まれる場所」。

ふらりと訪れ、そこにいる人たちの様子を見て、感じて、興味がある人の背中を押す・・・場所を選ばずに働けるクリエーターたちが移り住むというサイクルが生まれているというのだ。ただ、大きく人が増えることを期待しているのかというと、そこまでではないようだ。

「人が少ないよりは多い方が楽しいと思いますが、ただ、村の人口が増えていくというのは少し楽観的なような気がします。静かなところも村の魅力なので。多様な人が移り住むことで、林業が中心の村に、質的な変化が起きれば、いいなと思っています」。

クリエーターや、地域おこし協力隊、ふらりと訪れた人・・・シェアオフィスの「つながり」は、いま「化学反応」をおこし、新たな商品やサービスを生み出すような流れを作り始めている。過疎地域の移住政策では「制度」や「施設」の面に注目が集まりがちだが、うまく活用されるかどうかは、結局、運用する「人」が重要だと改めて実感させられた取材だった。

奈良放送局 八城千歳

平成28年入局。山形局を経ておととし奈良局の橿原市にある支局に。奈良県南部の奥深さを日々実感中。