文化財防災官 仕事に迫る

NHK
2023年3月23日 午前11:02 公開

奈良を愛する人たちが、奈良県内の歴史や文化の魅力をホリ下げる『ならホリ!』。今回、取り上げるのは文化財そのもの・・・ではなく、文化財を守る活動をしている「文化財防災官」です。

その方がいるのは、奈良市消防局。消防士歴33年の中谷英之さんは、この消防局で1人しかいない文化財防災官です。

文化財防災官の仕事って?

ふだんどんな仕事をしているのか、そのヒントを見せてくれるというので、ついていくと・・・そこにあったのは。

魂の入っていない模擬仏像「まもろう君」です。

「まもろう君」は、火災が起きた建物から仏像を運び出す訓練で大活躍しています。普段から繰り返し訓練することで、火災現場で傷つけずに搬送できるようにするためです。

でも、中谷さん。これだけが文化財防災官としての仕事?

奈良市消防局文化財防災官 中谷英之さん

そういうことを含めて、文化財の防災に関することをやっております。

貴重な建物や仏像を守るために、いざという時にどう行動するか、どのように消火などを行うのか、その戦略を考えるのが、文化財防災官の役目だというのです。

実験で驚きの発見!

屋外に案内してくれた中谷さん。去年から、専門機関と連携して取り組んでいる「燃焼実験」を見せてくれました。

燃やすのは、ヒノキの皮を重ねた「ひわだぶき」と薄い木の板を重ねた「こけらぶき」の屋根の部材。いずれも奈良の文化財に多い種類の屋根で、周囲から飛んできた火の粉で燃え始めた、という想定で実験しました。火種を置いてしばらくたつと…。

奈良市消防局文化財防災官 中谷英之さん

火種より、上に燃え広がらず、下へ下へといくのが、「ひわだぶき」の特徴だと分かりました。一方、「こけらぶき」は表面より裏側の方がたくさん燃えるんです。

実験の結果、「ひわだぶき」は屋根の下側の部分を引き抜けば、効果的に消火できる一方、「こけらぶき」は建物の中に入って、裏側から消火活動をすることが有効だということがわかったのです。

この実験のきっかけは、2年前に奈良市で起こった国の重要文化財・崇道天皇社の火災でした。周辺で起きた工場火災が、「ひわだぶき」の屋根に飛び火したのです。

幸い、早い段階で消し止められ、事なきを得ましたが、中谷さんは、損傷した屋根を見て、あることに気付きました。

奈良市消防局文化財防災官 中谷英之さん

(火が)屋根の上へ進んでいくものだと思っていたんですけど、下へ下へ燃え広がっていることに何か違和感がありまして、実験してみようと思いました。

こうした違和感を実験で確かめ、「敵」に対処する情報を集めることも、文化財防災官の重要な仕事なんですね。

事前の話し合いがカギ

得られた知見を神社や寺へのパトロールの際に伝えるのも、重要な仕事です。

中谷さんがやってきたのは、燃焼実験を行った「ひわだぶき」の建物が数多くある春日大社。境内を管理する権禰宜の北野治さんが出迎えてくれました。

2人が向かったのは、式年造替を終え、新調されたばかりの「ひわだぶき」の屋根が美しい若宮です。

実は、燃焼実験のきっかけとなった崇道天皇社は古い若宮の建物を移築したもの。2年前の火災は、春日大社にとっても大きな意味を持っています。

春日大社 権禰宜 北野治さん

やっぱりこう、心の痛む思いもありますし、これから逆にどういう風に防火に努めていかなきゃいけないのかなっていうそういう思いを新たにするような事件でしたね。

中谷さんは、若宮を火災から守るため、いざという時に、どのような消火方法ならばとることができるのか、相談を持ちかけました。

奈良市消防局文化財防災官 中谷英之さん

下へ下へって燃えていくっていう特徴的な燃え方を発見できたんです。ひわだ自体を引っこ抜いて消すっていうのも手だと思います。ちょっと言葉は悪いですが、「破壊」っていうことの許可はどんな感じなんでしょう。その場その場で判断していただけるのか・・・

春日大社 権禰宜 北野治さん

事前に消防とうち(春日大社)と、文化財ですので文化庁さんや県・市の文化財担当と、よく詰めておかないと、現場でそれは困るっていう話になってしまう可能性もありますよね

奈良市消防局文化財防災官 中谷英之さん

効果的な消火方法、破壊箇所とかの共通認識ができたらなと思っています。

事実に基づいて、いざという時の共通認識をつくる・・・このサイクルが貴重な遺産を、後世に伝えることにつながっているんですね。

高橋樹生ディレクター

趣味は神社仏閣を巡って

貴重な建築を見ること