「このコロナ禍で、難病に対する関心が薄らいでいると思うんです」。
県立医科大学で取材した際、医師からこんなことばが返ってきました。
難病の専門医である杉江和馬教授は、コロナ禍での巣ごもり生活で、患者が適切な治療の機会を失うケースが相次いでいることに、強い危機感を抱いていました。
そんな杉江教授から、「患者が出演する映画祭」で難病を知ってもらう取り組みについて聞いたときは、本当にそんなことができるのかと半信半疑でした。
どんな映画になるのか?そもそも、映画祭として成り立つのか?
若干の不安を抱えつつも、取材がスタートしました。
映画に出演した、パーキンソン病患者の芳村滋さん(71)。
11年前に診断を受けてから外出する機会が少しずつ減り、社会との接点が少なくなっていきました。
不安な生活を送るなか、難病をテーマにした映画祭の存在を知り、希望を見いだすきっかけになればと出演を決意しました。
作品のタイトルは「豊かに生きるマニュアル」。
取材当初は、「病気になったことで自分の時間が増えた」と前向きに話していた芳村さんでしたが、次第に、体が動かなくなっていくなかで感じたつらさや、苦しかった胸の内を語ってくれるようになりました。
それだけに、映画の終盤で芳村さんが語ったことばが強く印象に残りました。
~治らなくても 幸せになっていく方法はある~
孤独や不安を抱えながらも病気に向き合い、豊かに生きることを考え続けてきた芳村さんだからこそ言えるのかもしれませんが、難病を抱えていない人も考えさせられる、重みのある言葉だと感じます。
今回の映画祭では、全部で12本の映画が上映されました。
決して派手な演出はありませんが、患者や家族が日常のなかで感じる思いが丁寧に描かれていて、ひと事ではなく当事者として考えさせられる内容ばかりでした。
現在、国が指定している難病の数は330あまり、患者数は全国で100万人以上いるといわれています。
難病の原因解明や治療法の確立には長い年月が必要ですが、何よりも大事なのは、難病について理解しようとする姿勢です。
老若男女誰もが気軽に参加できる映画祭も、専門的なセミナーとは異なる視点で難病について教えてくれる貴重な機会だと思います。
次の映画祭は、来年1月に開催されます。
どのような作品が上映されるか、今後も注目したいと思います。
令和元年入局。奈良局が初任地。現在医療を担当し、難病患者の実態に迫りたいと考え、今回の取り組みを取材。