奈良を愛する人たちが県内の歴史や文化の魅力をホリ下げる「ならホリ!」。今回のテーマは、飛鳥時代に整備された幹線道路「龍田古道」です。
(高橋樹生 ディレクター)
奈良時代には、平城京と難波宮を結んでいた「龍田古道」。天皇や貴族をはじめ多くの人々が行きかい、万葉集にも古道を詠んだ歌がたくさん残っています。
この道の魅力を一緒にホリ下げていくのは、三郷町ものづくり振興課で文化財技師として働く孕石貴也さん。まず訪れたのは町を代表する神社、龍田大社です。この神社、実は龍田古道に面するように立てられています。
「(大社がこの場所に設けられたのは)旅の安全祈願をするという意味合いが一番大きいのかなと思います」
安全祈願が必要な古道…その理由は、大阪方面に向かうとすぐにわかりました。立ちはだかったのは、見通しが悪い峠道。『万葉集』には、この難所を詠んだと考えられている和歌もあります。その中で使われているのは、「恐(かしこ)の坂」という表現。なぜそう呼ばれていたのでしょうか。
「『恐』というのが府県境の『亀の瀬』っていうのを指しているのではないかと考えていまして、地すべりに対して恐怖心っていうのがあって『恐の坂』と恐れられていた」
孕石さんの話に登場した亀の瀬は、地すべりが起こりやすい場所。
今も昔も、道行く人々をずっと悩ませてきました。
例えば、大和川にかけられたJR大和路線の鉄橋。
昭和6年、亀の瀬で起きた記録史上最大の地すべりの影響で、急きょ造られました。
奈良と大阪を結ぶ線路が崩壊し、人々が約2キロの山道を徒歩で移動するしかなくなった状況を改善するため、地すべりの現場を避けるように設けられたのです。
今度は、いまも続く、地すべり対策の現場を訪ねました。
向かったのは、大阪への府県境を越えてすぐの「排水トンネル」という施設。亀の瀬の地すべり対策を考えている大和川河川事務所の田尻一朗さんが、施設の役目を教えてくれました。
「この奥に縦40m近くの井戸があります。そこに集水ボーリングという長い棒を突きさしていて、集めた水を井戸で落として水路で流しています」。
原因となる雨水を井戸やトンネルで排出し、地すべりの発生を防いでいるのです。
こうした地すべり対策は、ほかの場所にも。一見、何の変哲もないようにみえる草むらですが、地中には地すべり対策が施されているといいます。
「AR=拡張現実」を使えば全貌がわかるということで、草むらに置かれた表示板にスマホやタブレットをかざすと…。
映し出されたのは、地すべり防止のため地中に刺さった巨大な杭です。驚いたのはその量と規模。
仮に地すべりが発生して、土砂で川がせき止められると、奈良盆地側で15万人の方が浸水などの被害を受けることになります。国内最大級の地すべり対策が、奈良や大阪の人々を災害から守っているのです。
「闘いの歴史と言うのは古くからずっと続いているもの。どんどん知ってもらうのが我々の役目でもあるのかなと思うので、学習できる場所として提供出来たらなと思っています」。
龍田古道を歩いていくと、難所の安全を守るため、闘い続ける人々の思いに触れることができました。
高橋樹生 ディレクター
埼玉県出身。
昔ながらの風景が残る道を散歩するのが好きです。