ならホリ!家康と奈良

NHK
2023年1月31日 午後5:52 公開

奈良を愛する人たちが奈良県内の歴史や文化の魅力をホリ下げる『ならホリ!』。今回のテーマは、現在放送中の大河ドラマの主人公「徳川家康」です。戦乱の世にピリオドを打ち、およそ260年続いた江戸時代の礎を築いたとされる家康と奈良の関係をホリさげます。

なぜ、ここに!?どうして家康?

一緒にホリさげていくのは、よろいやかぶとなど、「甲冑」の専門家で、奈良県立美術館の元館長・宮崎隆旨さんです。

まず訪ねたのは、近鉄奈良駅のすぐ近くにある漢國神社。家康が奉納したというよろいのレプリカが展示されています。

古くから有名な神社や寺がある奈良で、なぜ漢國神社が奉納先に選ばれたのかというと・・・。

奈良県立美術館 元館長・宮崎隆旨さん

「すぐ北隣に岩井与左衛門の屋敷があります。そこを休憩所にしていたので、すぐ近くだからだと思います」。

岩井与左衛門!?それって誰ですか?

宮崎さんによりますと、実は当時の奈良は国内最大の「甲冑」の生産地。「腕利き」として名をとどろかせていたのが岩井与左衛門でした。自分がひいきにしていた職人が住んでいた屋敷の隣にあったから・・・そんな理由で奉納先に選ばれたんですね!

かぶとがない!どうして家康?

奉納されたよろいは、もちろん岩井与左衛門の作。わざわざ作らせたものだということなんですが・・・。

よく見ると「かぶと」がありません。なぜなんでしょう?

その理由を伝える資料が、神社に保管されています。梅木春興宮司が特別に当時の宮司さんの日記を見せてくれました。

1614年の大坂冬の陣が起きた頃のことや、家康が訪れた際の様子が記されています。

なじみの甲冑職人のところへ立ち寄ったあと、神社へ入ってきた家康。本殿に「甲冑」を飾って、いよいよ奉納・・・と、その時、とんでもないハプニングが起きたようです。

奈良県立美術館 元館長・宮崎隆旨さん

「社にて具足をお飾りになられて拝んでおられたところに、左側のわき、床に『かぶと』が落ちたりと。かぶとが落ちましたと・・・」

なんと!奉納しようとしたかぶとが床に落ちてしまったんです。

漢國神社 梅木春興 宮司

「かぶとが落ちるというのは縁起が悪いでしょうね。神社はだいたい地面に落ちたものは二度と供えないというのが通常の例ですから」。

奉納されるはずのかぶとは?

大事な戦の前、不吉な出来事を目の当たりにした家康は、結局よろいだけを供えました。ただ、本来、奉納されるはずだったかぶとは、どんなものだったのでしょうか?

後の時代の絵巻物によると、かぶとには徳川家の三葉葵があしらわれています。家康は、天下を取ることになった関ヶ原の戦いの前に、夢に出てきた大黒天の頭巾をイメージしてかぶとをつくらせ、戦いに勝ったと言われています。似たデザインのものをこのタイミングで奉納しようとしたのは、験担ぎをしていたのかもしれませんね。

いざ本物との対面へ!出陣

漢國神社に奉納されたよろいの本物は、奈良国立博物館に保管されています。なんと今回、特別に見せて頂けることになりました。梅木宮司も実物を見るのは初めてだったんです。

「重みのある色合いというか、そりゃ将軍の鎧ですからね。本当に宝物ですね」

宮崎さんによりますと、漢國神社に奉納されたよろいは、家康が関ヶ原の戦いに勝った際に身に着けていたとされ、現在、静岡市の久能山東照宮で保管されているよろいと似た特徴があると言います。その1つが「桐」と「三葉葵」のびょうです。

この2つが並んでいるよろいは、宮崎さんの知る限り、漢國神社と久能山東照宮のものだけ。共通点は、かぶとの前の飾りにもみられるといいます。

漢國神社には、かぶとそのものは奉納されていませんが、飾りは奉納されています。「勝草」とも呼ばれている「シダ」をかたどったもので、こうした点からも家康の勝利への思いがうかがえそうです。

奈良県立美術館 元館長・宮崎隆旨さん

「奉納したのは、大坂に行く前日です。何か強い気持ちがあって、奉納したんだろうと思います」

漢國神社を出発した家康は、その後、法隆寺に立ち寄り「剣」を奉納しています。そして、大坂の陣に向かった後、どうなったかは、皆さんご存じの通りです。奈良での願いが、その後の太平の世につながっていったと言えるのかもしれませんね。

秋田 紗千加

静岡市出身 徳川家康のお膝元、駿府で育ちました。