「17才の帝国」世界観設定について(5)UAブランディング

NHK
2022年5月27日 午後6:38 公開

ドラマ「17才の帝国」の実験国家UAのブランディングを担当させていただいたアートディレクターの下川大助です。UAのロゴから実験国家の要となるAIソロンのデザインなど複数のクリエイターたちと様々な議論を重ねて作り上げました。私達がブランディングを行うにあたって何を考えたのか、制作のプロセスをご紹介いたします。

はじめに                 

私は、2020年8月から政令都市北九州市のクリエイティブディレクターを務めています。市の課題をクリエイティブの力で解決するという役割を担っており、主要課題は高齢化、20~30代の若者・子育て世代の人口流出、市役所内の多様な部署が実施する広報の指導や助言です。私が取り組んでいる地域創生プロジェクトやZ世代向けのブランディングなどがドラマのテーマにも近く、その取り組みを見たプロダクションデザイナーの服部さんからお声がけいただきました。

「行政の慣習や体質の知見」「若者(Z世代)に向けたプロモーションの知見」「アートの知見」これらを活かしたお手伝いができると考えました。

そしてプロジェクトが始動いたしました。

1 作品を理解する

企画書や脚本、デザインコンセプトから世界観やストーリーや伝えたいことを理解するため、この作品の強さ・おもしろさはどこにあるのかを探っていきました。

ドラマ制作の皆様からお話を伺う中で、世界への発信を目指していること、新しいモノを創りたいという思い、日本のドラマに期待されている「AI」「SF」「ジャパンアニメ」を伝える、といったことが根底にあるのだとわかってきました。

また、企画書に書かれていたこの作品のテーマである、「青春:若きメンバーの“理想へのピュアさ”」、「SF:AIが問う“人間らしさ”とは何か」、「政治:暮らし・営みの中の“幸せ”とは何か」、このあたりもしっかりと意識してロゴの制作に入っていきました。

2 実験国家UAとは何かを理解する

上記の内容や脚本からUAとはどのようなプロジェクトなのか、UAの総理大臣真木亜蘭はどういう人物なのか、理解を深める作業を行いました。

ここではロゴのアウトプットのことは意識せず、とにかくUAの世界観を頭に入れることに注力しました。実在する組織でもなく、総理大臣が17才でさらにAIが組織の中心にあることなど、明確なイメージを持つのが難しい特殊なものでしたが、私が取り組んでいる北九州市への若者世代の定住・移住の促進、若者の力によって都市の魅力を向上させることを目的にした地方創生のためのブランド「New U」のプロジェクトや、過去のプロジェクトなど幅広く参考を探ることで想像を膨らませていきました。

3 方向性を決める

ここからさらに、監督や服部さんたちとのディスカッションを進めていくために、大きく3つの方向性を立てました。「①多様性、自由」「②共生」「③理想の街」。この段階では、それぞれの方向性でロゴのリファレンスを挙げ、伝えるべきコンセプトをロゴのデザインとしてどのように表現できるのかを同時に考えていきます。その結果、この中の「②共生」という方向性を主軸に置いてそれ以外の方向性もエッセンスとして取り入れていくということに決まりました。

ここからいよいよ、ロゴのかたちを作っていきます。上記の方向性を今回のロゴマークやロゴタイプでビジュアル化していく作業です。ここでは、劇中の世界で存在するものとしての見え方だけでなく、番組の視聴者に対する見え方もしっかりと意識して進めていきます。これは現実世界でのブランディングにはない部分で普段の仕事とは違った難しさを感じましたが、今回の案件ならではでもあり、やりがいを感じた部分でもあります。出てきたキーワードから連想されるモチーフや、イメージなどを広げて、そこからどんどんかたちのアイデアを出していきます。

4 ロゴの決定

ここからさらに議論を重ね、ロゴマークのデザイン案が決定しました。そしてロゴタイプのベースの書体を決めたあと、個性の強さや視認性のバランスを整えていくため細部の調整をしていきました。色については、ソロンを構成する3つのAIに施されたカラーになっていて、マゼンタは「トリ(経済成長)」、シアンは「ノナ(持続可能性)」、グリーンは「ヘキサ(ウェルビーイング)」を表しています。

ロゴタイプの検証

ロゴタイプの検証

決定したロゴ

決定したロゴ

コンセプトとビジュアル表現の整理

このプロジェクトではブランドガイドラインも作成しています。このガイドラインは劇中でUA市民に向けて公開しているという設定で、真木たちが市民とともにUAをつくっていくという姿勢を体現するためのアイテムでもあります。またドラマ制作の現場では多くのスタッフの方が関わります。その制作チームが各所でさまざまなツールを作成する際のクリエイティブを統一する目的としても機能しました。

5 ネオンサインの制作

ロゴが決定した後、様々なツールへ展開を進めていきました。特に、ネオンの制作にはこだわっていて、劇中でも閣議室の正面に設置されたものが度々登場します。レトロと新しさの両方を持つアイテムであるネオンは「過去も今も共存させていく未来」というUAの思想を表現する大事な要素のひとつです。ネオン管という素材や構造上の制約があるなか、ロゴのコンセプトをいかに反映させるか、ネオンの制作担当の方と話し合いながら制作を進めていきました。スッキリとしたネオン管のラインとぼんやりと広がる光が共存していることや、光で色が混ざり合うところが、UAのコンセプトを表現しています。

ロゴをモチーフに作成したアニメーションするアートワーク

6 AIソロンの制作

UAのブランディングの重要な要素のひとつであるAIソロンの制作も行いました。まず制作に入る前に、どのような存在であるべきか、性格はどのようなものかなどについてすり合わせを行いました。劇中でのAIソロンの目指す方向を決めていきます。

ヒューマニティーを感じるものでなく、客観的に情報提示を行うような性格をイメージしました。さらに、エナジーやサイバーといった印象を感じさせず、洗練さと柔らかさを表現していきました。見た目の印象や動きとしては、「形」は人のような形をしている瞬間はなく、アメーバのような有機的な円や球体のようなものになっています。「マテリアル」と色はトリ(マゼンタ)とノナ(シアン)とヘキサ(グリーン)の3色が混じり合ったグラデーションになっています。「動き」はロゴのコンセプトと同様で共生や多様性を表現するため境界線がはっきりするときもあればぼやけるときもありスピード感として冷静な落ち着いた動きをするものにしました。

7 その他制作物

その他にも、スマートグラスをかけたときに映し出されるUIや劇中に出てくるグラフ等のデザインも行っています。「共生」というコンセプトを反映して色や境界線が溶け合った表現になっていて、ロゴから一貫したブランディングとなっています。

劇中に出てくるUAのデザインは、このような発想とプロセスで誕生しました。物語をご覧になるときに、このような視点で見るというのもおもしろいかもしれません。